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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第6章「薄明の兆し」

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2 若人と祝杯

 「こんな味の酒は、初めてです」


 異民族の男は、目を丸くして言った。


 「リンゴの蒸留酒です。これは西側で作ったものですが……いずれは東の地でも色々なお酒を作りたいと思っています」

 

 エルヴィアは、ディの民と打ち解けるため、酒の力を借りた。

 急に〈遺物〉の話など始めたら、ますます警戒されると思ったのだ。


 隣に座っている女も、椀に注がれた酒を美味そうに飲んでいる。

 こちらは酒に弱いらしく、もう顔が赤く染まっている。


 「おふたりは随分お若く見えますが、交易は若い方々の仕事なのですか?」

 エルヴィアは、素直な疑問を口にした。


 「いいえ――俺達は、今回が初めての取引なんです」

 「初めて?」

 「ええ。俺達の村の人間は、十五になる年、取引をしに外へ出ます。取引が上手くいけば、大人として認められます」


 興味深い文化だ。

 王都の西側では、異民族との交易が盛んだというが、エルヴィアにはあまり馴染みのない話だった。


 「どんな品を扱うのです?」

 「ええと……こっちに持ってくるのは香辛料とか火種石、あとは〝魔装品〟が多いですね」


 〝魔装品〟――

 マナの力を宿す装具のことだったか。

 西側では、聖職者くらいしか持てない高価な物だ。


 「魔装品を作る技術があるのですね」

 「はい……ただ、作り手は年々、減っています」

 「そうなのですか――それは、なぜ?」


 男はそこで、口ごもった。

 少し踏み込み過ぎただろうか――


 「喧嘩れふ!」


 隣の女――

 少女といってもいい外見だが――彼女が突然、話に割り込む。


 「村の年寄りは毎日、喧嘩してるんれすよぉ! もう、魔装品なんか売りに出すなってぇ!」

 「おい、マユザ……!」

 「〝一族の仇〟なんかに物を売るなって。ウチのじいさん、怒って『仇に売るくらいなら細工なんざ止めたるっ』ってぇ!」


 少女の名は「マユザ」というらしい。

 

 「だいぶ出来上がってますねぇ」

 黙っていたママナが、目を輝かせて少女を見る。

 「この杯で飲めば、もっと気持ちよく酔えますよぉ」


 凱歌の杯を手に持つママナを、エルヴィアは必死に止めた。


 それにしても――


 〝一族の仇〟というのは、おそらく貴族のことだろう。

 ディの民は、貴族相手にも商売をしていたということか。


 「まあ、様々な事情があろうよ」

 ドルイドの長が、しわがれた声で言う。

 「ディの民も、一枚岩じゃあない。友好的な者もいれば、排他的なのもいる。時の流れと共に、考えも変わる。人とはそういうものさ」


 長の言うとおりだろう。

 同じ貴族でも、貴族に反感を抱くママナのような存在もあるのだ。


 エルフの首領、マン・キンフも、初めはエルヴィア達を拒んでいた。

 だが、今では手を取り合う仲になれた。

 ディの民とも、いつかは心を通わせることができる――

 エルヴィアは、そう信じたかった。


 「改めて、私はエルといいます――」

 褐色の若者達に、語りかける。

 「実は、あなた方に訊きたいことがあるのです」


 エルヴィアは、自身の左手の指輪を見せる。

 「これは我々が〈神の遺物〉と呼ぶ物。その名のとおり、人知を超えた力を秘めています」


 男――少年は、指輪をまじまじと見つめる。

 「それは――俺は、見たことはありません」

 「そうですか。では、あなた方の村に、知っていそうな方はいますか?」

 「ううん……年寄りの誰かなら、知ってるかも――」


 エルヴィアは、少年の瞳を真っ直ぐに見る。

 「お願いがあります。我々を、あなたの村へ連れていってもらえませんか?」

 「え? そ、それは――」


 少年の目が泳ぐ。

 

 彼らにとって、エルヴィアは〝一族の仇〟なのだろう。

 簡単に承諾してもらえるとは思わない。

 

 それでも、糸口がつかめそうなのだ。

 ここが正念場だとエルヴィアは感じていた。


 「オカルぅ!」

 

 再び、横から割り込んだのは、マユザという少女だ。


 「なに赤くなってんのよぉ。そのお姉さんの顔ばっかり見て。はあッ、あんたは昔っから年上の女に弱いんらから!」

 「おい、お前、飲み過ぎだぞ、いい加減にしろ」

 「なぁにが飲みすぎらぁ! 色ボケ男に言われたくないわぁ!」


 マユザはかなり酔っていて、さすがに話を続けられそうにない。

 ネラを呼び、一緒にマユザを介抱することにした。


 「飲ませすぎだよ。蒸留酒は強いお酒なんだから、加減しないと」

 ネラは水筒(フラスコ)の水をマユザに飲ませている。


 「すみません……こいつ、弱いくせに酒好きで」

 少年は、ばつの悪そうな顔で言う。

 「やっと村から出られて、羽目を外しちまったんです。今日の祭も楽しみにしてて……多目に見てやってください」


 エルヴィアは、思わず笑みをこぼした。

 「可愛い娘ね」

 「……煩いだけですよ」

 「そんなこと、言っては駄目」


 マユザのおかげで、なんとなく、彼らとの距離が縮んだ気がした。


 「明日――」

 「え?」

 「明日、マユザと話し合って、あなた達を連れて行くか決めようと思います」


 それだけでも、十分だ。

 〝仇〟として忌避されることも覚悟していたのだから。


 「あの、俺、『オカル』っていいます」

 「ありがとう、オカル。祝いましょう。今夜の素晴らしい出会いに――」


 エルヴィアは、酒の杯を掲げた。

 オカルも杯を上げる。

 頭上には、幾千の星が静かに瞬いていた。

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