1 収穫祭の夜
東の地にも秋が来た。
闇ギルドの面々は、その殆どが東の地の拠点へ移っていた。
オリド・ガードの捜索から逃れるのが当初の狙いだったが、結果的に拠点での生活の基盤はさらに安定した。
エルフやドルイドとの交流も続いている。
狩猟によって獣の肉などは入手できたが、野菜や麦は彼らが作ったものを分けてもらっていた。
代わりに西側の調理法や、酒の醸造法を伝えたりして、良い関係を保っている。
「パンとハーブエールは、かなり好評だね」
ネラは食文化の伝達に大きく貢献している。
「〝蒸留器〟があれば、もっと色々できるんだけどねぇ」
足りない物は、主にネラやアニスが西側で調達してくれているが、毎度長い距離を行き来するのも大変そうだ。
生活する分には困らなくなったが、まだまだ不自由を感じることも多い。
そして、いまひとつの問題は――
「今回も、空振りだったわ……」
探索の成果が、出ていないことだ。
ママナがギルドに加入してから、共に〈遺物〉を求めて東の地を散策しているが、未だ発見できていない。
「まあ、そう簡単に見つかるもんでもないでしょ」
ネラはそう言うが、エルヴィアは成果を出せないことに焦りを感じている。
ダークエルフの存在がずっと気になっているのだ。
もし、先に彼らに〈遺物〉を奪われたら――
次の襲撃に耐えられないかもしれない。
エルフやドルイド達にも尋ねてみたが、〈遺物〉に関して目ぼしい情報は得られなかった。
せめて、なにかしらの糸口があればいいのだが――
「情報ねえ……あ、そうだ!」
ネラが人差し指を立てる。
「あのね、そろそろドルイドの村で収穫祭があるんだよ」
その話は、秋に入る頃に聞いていた。
「収穫祭……」
「アタシが村にいたのは、ずっと前だから忘れてたよ。その異人はさ、色々な品を持って交換しに来るみたいなんだ」
異人――
それは初耳だった。
「アタシが村にいたのは、ずっと前だから忘れてたよ。その異人はさ、故郷から色々な品を持って交換しに来るみたいなんだ」
異民族との交易、ということか。
「今年はアタシらも祭に参加していいみたいだし、その異人なら〈遺物〉のこと、知ってるかもしれないよ」
それは確かに、良い考えかもしれない。
「ネラ、それは名案ね。ママナも誘って、収穫祭に行ってみましょう」
†
数日後――
拠点で暮らす闇ギルドのメンバーは、皆でドルイドの収穫祭に集った。
お祝いにパンや酒、干し肉などを渡し、大層喜ばれた。
エルヴィア達は酒宴の席に招かれ、夜は大いに飲み食いを楽しんだ。
宴にはエルフも何人か参加している。
「――あ、あれだよ、ばあちゃんの近くに座ってる人」
「ああ、例の異民族ね?」
夜なので、はっきりとは見えないが――
露出の多い褐色の肌。
顔や身体に描かれた紋様。
篝火に照らされたその姿は、どことなくネラに似ている気がした。
「はあぁ、なるほどぉ!」
隣に座っていたママナが突然叫んだ。
エルヴィアは驚いたが、周りは賑やかな声が飛び交っていて、誰も気にする者はいなかった。
「どうしたの、ママナ」
「あの方々、多分〝ディ〟ですねぇ」
「〝ディ〟……?」
「〈ディ〉の民です。いわゆる〝古代人〟のことですよ」
古代人――?
「前に話したでしょう。かつて我らの先祖が弾圧した先民達ですよ」
「まだ――生き残っているの?」
「生き残ってるもなにも、〝ネラ様〟だってその末裔のはずですよ。なんたって、魔女なのですから」
古代人は魔術を自在に操る者達と聞いている。
「そうですよ。彼らは迫害され、各地へ散り散りとなった。あそこに座っているのは、おそらくは東方へ追われた方々の子孫でしょうね」
ディの民――
彼らなら、〈神の遺物〉の在り処を知っているかもしれない。
「興味深いですねぇ! 東方へ移ったディと話したことはないのです。ちょっと、行ってみましょう!」
ママナは立ち上がり、すたすたと歩いていく。
エルヴィアも慌てて後を追った。
「こんばんは」
ママナは、ディの民と思しき、ふたりの男女の前で膝をついた。
「我が名はママナ。こちらはエルです――」
褐色の男女はママナを見る。
顔立ちは、随分と若い。
そして少々、表情が硬い。
「我らは、失われた知識を探し求める者。失礼とは存じますが、あなた方は偉大なるディの一族ではありませんか?」
若いふたり組は、互いの顔を見つめている。
どうやら困惑しているらしい。
「これこれ、怖がらせちゃいけないよ――」
隣に座っていたドルイドの長が、ママナを嗜めた。
「ママナは、そんなに怖いですかぁ?」
「お前が、というより――その髪と瞳の色さね」
白金の髪。
そう――貴族は、彼らを虐げた者達の子孫なのだ。
「すまんなぁ、先に言うておくべきだった。このふたりは、危険な者達ではない。我らの友人じゃ」
長の言葉で、若いふたりの顔が少しだけ和らいだ。
「それで、こやつらに何用だい?」
ドルイドの長は、エルヴィアに尋ねる。
どう切り出すべきか――
いきなり〈遺物〉のことを訊いても、警戒されかねない。
エルヴィアは、しばし考えてから口を開いた。
「お、お酒はいかがですか――」




