表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/50

10 新しい家

エルヴィアはママナと共に、東の地の拠点を目指す

 「そうですか、サルディーン家の……」


 二頭の馬が、東の地をゆっくりと進んでいる。

 馬上にはエルヴィアと、ママナの姿があった。


 「その頃、ママナは各地を放浪していましたねぇ」


 東方の拠点への道中、エルヴィアとママナは互いの身の上を話した。

 

 「ママナは、なぜ修道院を出て放浪を?」

 「教会、そして貴族が支配する社会に失望したのです」


 その理由を、ママナは滔々と語った。


 ヴァーガルト家は代々、聖職者を多く排出する貴族の家だという。

 だがママナは女子だったので、他家へ嫁ぐことになっていたらしい。


 「そこで粗相をして、修道院に送られてしまったのですねぇ」

 「粗相って、一体なにを?」

 「お相手があまりに無礼だったので、暴れてしまいましたぁ」


 実に、ママナらしい話だ。


 「修道院では、真剣に神の教えを学びましたよ。古文書を読み漁り、機会があれば司祭とも教義について議論しました」


 しかし、彼女は〝真面目過ぎた〟そうだ。


 「ママナは歴史が好きでした。さらに深い知識を求めて、魔術師や魔女に、古い伝承を聴きに行ったりしました」

 「なぜ、彼らに?」

 「あの方々は、〈魔術〉を生み出した古代人の末裔。白い肌と白金(プラチナ)の髪を持つ我々より先に、この土地で暮らしていた民なのです」


 それは、本当のことなのか――

 単なる伝説だと思っていたが。


 「今、そんなことを標榜すれば、間違いなく殺されますよ。彼らはかつて、北西の海から来た我々の先祖に侵略された民の子孫です」


 貴族は〝侵略者〟だったということか。


 「少し昔であれば、誰でも知っていた話だそうです。ですが今、貴族は〈アゼリア聖教〉の教えを広め、その事実の隠蔽を図っている」


 『ああ、我はこの血が呪わしい! この身に流れる略奪者の血が!』


 あれは、そういう意味だったのか――

 

 『おそらくは、まつろわぬ者達との融和を目指していたのやもしれません』


 ルバエドの言葉がよぎる。

 父も、そのことを知っていたのかもしれない。 


 「そういった諸々を知ったママナは、教会の司祭やお偉いさん相手に、馬鹿正直に議論を吹っかけたのですねぇ」

 「なんというか……真っ直ぐなのね、ママナは」

 「真っ直ぐ、ひたむきに――が信条なのですよ」


 案の定、煙たがられた、とママナは語る。


 「怒りましたよ、ママナは。奴らは、小さき人々を救う、なとど言いながら、実際は弱き者達を踏みつけにし、土地を奪った歴史をひた隠しにしている!」


 ママナの声が、だんだん大きくなる。


 「まあ結局、ママナは暴れすぎて破門になりました。家に帰ってもどうせ理解は得られずに叱られる。ならば――」


 教会が秘蔵する〝凱歌の杯〟を奪い、悪辣な体制を滅ぼすと誓ったという。

 恐ろしい行動力だ――


 エルヴィアの胸の奥が痛んだ。

 彼女は、あまりにも真摯で、同時に不器用だったのだ。


 「その後は、さらにこの土地のことを深く知るために、各地の古老を訪ねて回ったのですよ。その過程で、多くのことを知りました」

 

 エルヴィアは心から願う。

 孤独に戦い続けた彼女の信念が、いつか報われることを。


 「東方のエルフ、ですか? 彼らと会うのが楽しみですねぇ。古い時代の生き証人は、貴重な存在です」


 馬は黙々と歩みを進める。

 ママナの話題は、夜まで尽きることはなかった。


    †


 ようやく、東の地の拠点に到着した。

 一週間ほど離れただけだったが、随分と懐かしく感じる。


 「あっ、エルが帰ってきた!」


 ネラが手を振って出迎える。


 「ネラ、ただいま」

 「ん? その娘は――?」


 馬から降りたママナは、ネラに急接近する。


 「あなたがネラ様ですか! エル様からお話は伺っておりますぅ!」


 ネラは、ママナの勢いにたじろぐ。

 「ネラ様……?」

 「なんでも魔女でいらっしゃるそうで。んんっ、確かに、その衣服といい、装飾品といい、前にお会いした魔女の方にどことなく似ていますねぇ」


 困惑するネラにママナを紹介した後、エルヴィアは他の仲間の姿を探す。


 拠点の家の影から、ミノークが姿を現した。

 「ミノーク、遅くなってごめんなさい」

 エルヴィアは、背負い袋から数冊の本を取り出す。


 「なるべく簡単なものを持ってきたわ。事情があって、しばらくあちらには戻れないけど、そのうち誰かに残りの本を運んでもらうつもり」


 ミノークとネラは嬉しそうに頷き、さっそく本を捲っている。

 夢中になるふたりを見て、エルヴィアはようやく、ひと息ついた。


 「拠点も、だいぶ整ってきたみたいね」

 「うん、もう普通に暮らせるよ。皆、頑張ったからね」


 新しい、仲間達の家だ。

 

 エルヴィアは祈る。

 たとえ束の間であっても――

 ここがママナにとって、皆にとって安らげる場所であるように、と。

 

 †††


 第5章「離郷の灯火」終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ