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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

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9 成すべきこと

闇ギルドの一行は、ママナを伴って死者の街を後にする

 聖堂を出ると、辺りは夕闇に染まっていた。

 ここでキャンプをするのは危険と判断し、急いで移動する。

 死者の街を離れ、野営の準備を終えた頃には、完全に陽が落ちていた。


 翌朝、一行は砦の町を目指して出発した。


 昼前に町の近くまで来たが、門の辺りに衛兵(ガード)が大勢集まっている。

 エルヴィア達は、林に身を隠しながら、大きく迂回した。


 「町へ入る抜け道がある。衛兵(ガード)に見つからないよう注意しろ」

 カルスがママナに声をかけた。


 隠し通路を抜け、砦の町の隠れ家へたどり着くと――

 そこにはパリオが待っていた。


 「パリオ、来ていたのか」

 「無事でしたか、カルス殿。実は、ちょっと問題が――」


 そこでパリオは、ママナの存在に気づく。

 「あなたは……もしや」

 「お久しぶりです、叔父様」


 パリオは、今までにないほどに驚いた顔を見せた。

 「ママナ……」


 わずかに時が止まる――


 「今まで一体どこへ――それに、随分と酷い有り様だ」

 ママナの顔は、返り血で汚れている。

 空気の淀んだ隠れ家に、外套に染み付いた血の臭いが漂う。


 「詳しい話は後にしよう。それよりも、〝問題〟とはなんだ?」

 カルスがパリオに説明を促す。


 「ああ……そうでした。実は、オリド・ガードが遠征先で多数の死者を出したとの報告があったようです」

 

 それは――

 死者の街で、ママナが屠った衛兵(ガード)達のことではないか。

 

 「聞けば、そこで怪しい集団を見たという噂もあります。もしや、あなた方が関わっているのでは?」


 間違いなく、エルヴィア達のことだろう。


 「砦の町の衛兵(ガード)達は、気が立っている。私もさっき、呼び止められて色々と訊かれました」


 オリド・ガードの生き残りが、聖堂での顛末を目撃していたならば――

 これは闇ギルドやママナにとって、まずい状況だ。


 カルスが死者の街での出来事をパリオに伝える。


 「なんと……」

 パリオは絶句する。

 信じられぬという表情だ。


 「……カルス殿、頼みがあります」

 「なんだ?」

 「ママナを、闇ギルドの一員に加えてはくれませんか?」


 パリオは、いつになく悲しげな表情だった。

 「彼女もまた、世界の歪みに翻弄された者のひとりなのです。彼女が教会、そして貴族を憎悪するのは、決して一時の気の迷いではない」


 ママナは外套のフードを目深に被り、下を向いている。


 「彼女の境遇を知りながら、手をこまねいていた私にも責任がある。今更ではあるが、せめて彼女の助けになりたいのです」


 過去――ママナになにがあったのだろう?


 黙っていたママナが口を開く。

 「叔父様、ママナはもう子供ではありません。己の行いの報いは、自分自身で受け止めますわ」


 再び、沈黙が訪れる。

 それを破ったのはカルスだった。


 「今回の問題は――そもそも、ママナだけが発端じゃない」

 皆がカルスを見る。

 「巡り合わせも悪かったんだ。同じ場所に居合わせたのもそうだし、俺の判断が適切ではなかったこともある」


 エルヴィアは自分にも責はある、と思った。

 死者の街で、オリド・ガードの亡骸を見た時――

 もっと冷静であれば、撤退の提言もできたはずだ。


 「ただ、現実として我々の立場が危ういのも確かだ。この危機を乗り越えるため、協力する気はないか?」

 カルスはママナに向き直って言った。

 「闇のギルドの代表として、ママナ・ヴァーガルトに助力を求める。その力を、声なき逸れ者達のために、振るってはくれないか――」


 ママナはカルスを見つめる。

 そして、微かに笑みをこぼした。


 「前言を撤回します――どうやらママナは、まだまだ子供だったようです」

 

 首から提げた〝凱歌の杯〟を手にとって、ママナは言葉を続ける。

 「この〈遺物〉の力を手にした時、世界に〝真実〟をもたらせると思った。でも、それは独りよがりの真実だったのかもしれません」


 ママナは外套のフードを外した。

 「力を、より強大な力で制する……口惜しいことに、自分で出せた答えはそこまでのものでした」


 痛んだ白金(プラチナ)の髪が、露わになる。


 「薄々は気づいていました。ひとりではなにも成し得ないと。でも、他者を信じる心を、失ってしまっていた――」


 信じる心――

 初めて会った時の、ママナの目を思い出す。


 「悔しいですが、そろそろ潮時ですね」

 ママナは胸に手を当てて言った。

 「あなた方と、共にゆきましょう。そして、見極めたいと思います。この大地で、己が真に成すべきことを」


 彼女の瞳は、もう淀んだものではなくなっていた。


 「長い間――独りにさせてしまいましたね」

 パリオは静かにママナの前まで歩み寄った。

 

 「おかえりなさい、ママナ。聡明なる我が姪よ」

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