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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

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7 死者の王

 「神聖(ロラス)!」


 ママナがカルスの剣に触れ、聖言を唱えた。

 「不本意ですが〝光の加護〟を付与しました。これがないと、死人(しびと)相手は分が悪いですからねぇ」


 光り輝く刀身を一瞥し、カルスは巨大な死霊(ドラウグ)の〝王〟に対峙する。

 相手は、人の三倍の背丈はある。

 あれと渡り合うのは、容易ではないだろう。


 「いきますよぉ!」


 ママナが先陣を切る。

 戦鎚が弧を描き、王の持つ笏杖とかち合う。

 

 カルスも王に斬り込むが、刃が届く前に長い腕に押しのけられた。


 懐が深い――

 人間を相手にするのとは訳が違う。


 「やり辛いですねえぇ」

 何度か打ち合ったママナは一歩後退し、相手の様子を見る。


 前衛のふたりが距離を取ると、死霊(ドラウグ)の王は笏杖を高く掲げた。

 だが、杖を振り下ろす様子はない。


 なにをするつもりだ――?

 

 王は、頭上で笏杖を踊らせる。

 すると、空中に不気味な〝(もや)〟が現れる。


 (あれは――亡霊(ファントム)!)


 「避けて! 取り憑かれたらまずいわ!」

 エルヴィアが叫び、全員が散開する。


 パリオがいれば、どうにかなったかもしれないが――


 「ママナ、〈魔除けの聖痕〉は――?」

 「そんな上等なもの、ありませんよぉ!」


 皆、ふらふらと宙を舞う亡霊(ファントム)を避けるのに精一杯だ。

 このままでは、埒が明かない――


 急に、後ろから、袖を引っ張られる。

 振り返ると、ムースカリトゥの姿があった。


 「あれを――起こす」


 ムースカリトゥは、振り香炉に骨の欠片を捧げた。

 「冥府の喚鐘(クロガ=モルネス)

 

 香炉から煙がたなびく。

 やがて、倒れたオリド・ガード達が、ゆっくりと立ち上がる。


 「皆、一旦下がって!」

 エルヴィアが声を上げると、前方のふたりが振り返る。

 

 衛兵(ガード)の骸が動き出し、死霊(ドラウグ)の王へ向かっていくのを見て、ママナは目を丸くする。

 やがて、ムースカリトゥの仕業だと気づくと、高い声を上げた。

 「ああ、あなた、そういう感じですかぁ……?」


 王に迫る衛兵(ガード)の骸達に亡霊(ファントム)が取り付く。

 あの様子なら、少しは時間が稼げそうだ。


 「ママナ、聞いて――」

 エルヴィアが切り出す。

 「私が〈遺物〉の力で敵を拘束する。その間に、とどめを刺して!」


 ママナは少し呆れたような顔で応える。

 「あなたも〝遺物持ち〟ですかぁ?」


 エルヴィアは歩き出す。

 自分の影を確認し、ナイフで指を切り、指輪へ血を捧げた。


 直後、〝悪魔の手〟が死霊(ドラウグ)の王めがけて伸びていく。


 「へえぇ……」

 ママナが気の抜けた声を上げた。

 「面白いですね、それ」


 ここが好機と見るや、ママナとカルスは全力で距離を詰める。

 〝悪魔の手〟は、王を縄で縛るように拘束している。


 エルヴィアは、さらに指輪に血を与える。

 〝悪魔〟は力を増し、王を冷たい床に跪かせた。


 「ママナ!」


 エルヴィアは声の限り叫ぶ。

 ママナはそれに呼応するように、戦鎚を目一杯振りかぶり、跳躍した。


 「んんッ、制裁(スマイト)!」


 王の頭蓋が、冠ごと強打される。

 鈍い音が聖堂に響き、王の身体は白い炎に焼かれる。


 (やった――)


 王の巨体はボロボロと崩れ、長い時間をかけて骨粉の山となる。

 その白い山の上に、大きな笏杖だけが残った。


 聖堂に静寂が訪れる。


 「ふう……」

 ママナが片膝をつく。さすがに疲れたらしい。


 「終わったか――」

 カルスがママナに近づく。

 「あれが〈遺物〉か……?」


 カルスが指差すのは、骨粉の山に埋まった王笏だ。

 笏は、人の背丈よりも大きい。

 仮にあれが〈遺物〉だとしても、持ち運ぶのに難儀しそうだ。


 「そのはずですけどぉ……」

 ママナはムースカリトゥを見つめる。

 「今回は、そっちの方に譲りましょう」


 なぜだろう?

 〈遺物〉を求めていたのではないのか?


 「残念ながら、私とは相性が悪そうな〈遺物〉なので」


 遺物にも相性というものがあるのか――


 「明らかに〝冥府〟の由来ですからね、さっきの死霊(ドラウグ)どもは」


 皆がムースカリトゥを見る。

 彼女は少しの間、逡巡していたが、やがて王笏へと近づく。


 王笏に触れたムースカリトゥの周囲に、黒い煙が渦巻いた。

 アニスが〈遺物〉を授かった時の様子に似ている――


 「うう……」


 痛みがあるのか、ムースカリトゥは小さく唸り声を上げた。

 やがて、煙が霧散すると、彼女は振り返る。


 「だ、大丈夫――?」


 エルヴィアが駆け寄る。

 「痛みは、ない?」

 「――ない」


 一見、ムースカリトゥに変わった様子はない。

 しかし、あの大きな王笏は、忽然と消えていた。


 「あの杖は――?」


 ムースカリトゥが、自らの身体を触り始めた。

 そして、なにかに気づく――


 「あ」


 突然、ムースカリトゥは着ているローブをたくし上げた。

 それを見て、エルヴィアは絶句した――


 彼女の胸から腹部にかけて、皮膚や肉が抉れたように骨が露出している。

 その冒涜的な姿に、血の気が引く。


 「オエッ」


 傍らでママナがえずいている。

 「やっぱり、止めておいてよかったぁ」


 なんと、残酷な仕打ちだろう。

 これはまるで、死霊(ドラウグ)の呪いではないか――


 「ムース……」

 呼びかけはしたものの、かける言葉が見当たらない。

 しかし、ムースカリトゥは、剥き出しの肋骨をまじまじと見て、呟いた。


 「かっこいい……!」

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