6 狂戦士の宴
闇ギルドの一行は、パリオの姪であるママナの驀進に追行する
エルヴィア達は、石の街を迷いなく突き進むママナを追いかけた。
途中、幾度か死霊の集団に出くわしたが、ママナはためらうことなく、その障害を蹴散らしていった。
その度に出来上がる白い粉の山を、ムースカリトゥは悲しげに掬い集めた。
やがて、一行は街の端に到達した。
無数の石柱が続く道の先に、とんでもない高さの壁が立ちはだかる。
見上げると、それは巨大な聖堂のようだった。
しかし、その禍々しい意匠は、教会の建物とは似ても似つかない。
「おや、まだいたんですかぁ?」
ママナがこちらに振り返る。
「お暇なら、ちょっと手を貸してくださいな」
どういうことか、とカルスが尋ねると、
「きっと、ここに〈神の遺物〉がありますので――」
と言い、そのまま聖堂の入口へ向かっていった。
ムースカリトゥの顔を見ると、彼女もこちらを見ていた。
そして一言、
「……中に、いる」
と呟いた。
三人は、意を決してママナの後を追った。
聖堂の中は、巨大な広間になっていた。
そして、はるか前方の最奥部には――
「どうやら、先客がいるようだな」
カルスの言うとおり、十数人の衛兵が、死霊と死闘を繰り広げている。
ママナはぴたりと足を止め、戦いの様子を伺っている。
「……ちょっと数が多いですねぇ」
まさか、あの修羅場に切り込むつもりなのか?
だが、ママナなら本当にやりそうだと思えてくる。
「誰か、お酒を持っていませんかぁ? お酒を切らして困っています!」
(お酒……?)
突然、なにを言い出すかと思えば――
あの戦いを肴に一杯、とでも考えているのだろうか。
「酒を、どうするつもりだ?」
「お酒は飲むに決まっているでしょう! あるのですか、ないのですか」
「……消毒用の酒なら少しあるが」
謎の迫力に気圧されて、カルスは酒の入った水筒を渡してしまう。
それを受け取ると、ママナは外套の留め具を外した。
彼女は、首からぶら提げた、奇妙な形の杯に酒を注いだ。
(あれは――〝角杯〟?)
獣の角で作られた杯だ。
父が、幾つか所有していた覚えがある。
「まずぅい!」
酒を飲み干したママナが叫んだ。
息を荒げ、時折えずいている。
ママナは戦鎚の柄を握り、肩で息をしている。
「おい――大丈夫か」
カルスがママナの肩に手を置くと――
「おおおおおおおおぉッ!」
聖堂に、咆哮が響いた。
まるで、女のものとは思えない雄叫び――
あまりの迫力に、近くにいたカルスは、弾かれるように仰け反った。
「勇猛なる略奪者の魂よ! 我の元に集えッ!」
ママナは再び大きく吠え、戦鎚を肩に担ぎ、刃音が飛び交う戦場のただ中へと突入していった。
「おおおおおッ!」
ママナが振り抜いた戦鎚は、オリド・ガードの兜ごと、その頭を砕いた。
さらに、そのまま身体ごと回転して、死霊の胸部を殴打する。
狂気の闖入者の登場に、衛兵も死霊も一瞬、固まってしまう。
ママナは止まらない。
信じがたい腕力で、付近の者全てをなぎ倒していく。
気づけば衛兵の殆どは床の上で動かなくなっていた。
一方、崩れ落ちたはずの死霊達は、再び起き上がる。
「忌々しい死人どもが! 神聖!」
ママナが聖言を唱えると、戦鎚が白く光りだす。
輝く戦鎚で殴られた死霊は、白炎を上げて白い粉末へ変わった。
「制裁ォ!」
最後の死霊が燃え尽きると、ママナは鬨の声を上げた。
恐ろしいことに――
ママナはたったひとりで、二十人近い戦士たちを壊滅させてしまった。
いくら不意打ちだったとはいえ、〝生身の人間〟がやれることではない。
「はああぁ――」
ママナが大きく息を吐く。
「もう時間切れですかぁ。まあ、雑魚は片付いたので、良しとしましょう」
三人は、呆気にとられて立ち尽くしている。
やがて、我に返ったカルスがママナに声をかけた。
「それは――〈神の遺物〉の力か?」
「ええ、そうですよぉ」
ママナは、首にかけた紐にぶら下がっている〝角杯〟を持ち上げた。
「これは〝凱歌の杯〟――狂戦士の力を呼び覚ます、古の器です」
そう言って、ママナは口元を拭った。
「ちなみに、これは王都の〈聖教庁〉から拝借しましたぁ」
そんな場所から持ち出したというのか――?
再び、三人は黙った。
このママナという人物は、あらゆる意味で危険だ。
「さて、お喋りしている暇はないですよぉ」
ママナが聖堂の奥へ振り返る。
その視線の先には――
巨大な死霊が立っていた。
褐色の骨格にボロ布をまとい、頭には王冠のような装飾品を戴いている。
その佇まいは、まるで〝死者の王〟だ――
ママナは恐れる様子もなく、戦鎚を携えて〝王〟に向かっていく。
「あいつ――おい、ふたりとも、ママナに加勢するぞ」
カルスも剣を構える。
エルヴィアは、足が震えていないか確かめる。
そして、ナイフを握りしめ、ゆっくりとカルスの後に続いた。




