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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

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6 狂戦士の宴

闇ギルドの一行は、パリオの姪であるママナの驀進に追行する

 エルヴィア達は、石の街を迷いなく突き進むママナを追いかけた。

 

 途中、幾度か死霊(ドラウグ)の集団に出くわしたが、ママナはためらうことなく、その障害を蹴散らしていった。

 その度に出来上がる白い粉の山を、ムースカリトゥは悲しげに掬い集めた。


 やがて、一行は街の端に到達した。


 無数の石柱が続く道の先に、とんでもない高さの壁が立ちはだかる。

 見上げると、それは巨大な聖堂のようだった。 

 しかし、その禍々しい意匠は、教会の建物とは似ても似つかない。


 「おや、まだいたんですかぁ?」

 ママナがこちらに振り返る。

 「お暇なら、ちょっと手を貸してくださいな」


 どういうことか、とカルスが尋ねると、

 「きっと、ここに〈神の遺物〉がありますので――」

 と言い、そのまま聖堂の入口へ向かっていった。


 ムースカリトゥの顔を見ると、彼女もこちらを見ていた。

 そして一言、

 「……中に、いる」

 と呟いた。


 三人は、意を決してママナの後を追った。


 聖堂の中は、巨大な広間になっていた。

 そして、はるか前方の最奥部には――

 

 「どうやら、先客がいるようだな」


 カルスの言うとおり、十数人の衛兵(ガード)が、死霊(ドラウグ)と死闘を繰り広げている。


 ママナはぴたりと足を止め、戦いの様子を伺っている。

 「……ちょっと数が多いですねぇ」


 まさか、あの修羅場に切り込むつもりなのか?

 だが、ママナなら本当にやりそうだと思えてくる。


 「誰か、お酒を持っていませんかぁ? お酒を切らして困っています!」


 (お酒……?)


 突然、なにを言い出すかと思えば――

 あの戦いを肴に一杯、とでも考えているのだろうか。


 「酒を、どうするつもりだ?」

 「お酒は飲むに決まっているでしょう! あるのですか、ないのですか」

 「……消毒用の酒なら少しあるが」


 謎の迫力に気圧されて、カルスは酒の入った水筒(フラスコ)を渡してしまう。

 それを受け取ると、ママナは外套の留め具を外した。


 彼女は、首からぶら提げた、奇妙な形の杯に酒を注いだ。


 (あれは――〝角杯〟?)


 獣の角で作られた杯だ。

 父が、幾つか所有していた覚えがある。


 「まずぅい!」


 酒を飲み干したママナが叫んだ。

 息を荒げ、時折えずいている。


 ママナは戦鎚の柄を握り、肩で息をしている。

 

 「おい――大丈夫か」

 カルスがママナの肩に手を置くと――


 「おおおおおおおおぉッ!」


 聖堂に、咆哮が響いた。


 まるで、女のものとは思えない雄叫び――

 あまりの迫力に、近くにいたカルスは、弾かれるように仰け反った。


 「勇猛なる略奪者の魂よ! 我の元に集えッ!」


 ママナは再び大きく吠え、戦鎚を肩に担ぎ、刃音が飛び交う戦場のただ中へと突入していった。


 「おおおおおッ!」


 ママナが振り抜いた戦鎚は、オリド・ガードの兜ごと、その頭を砕いた。

 さらに、そのまま身体ごと回転して、死霊(ドラウグ)の胸部を殴打する。


 狂気の闖入者の登場に、衛兵(ガード)死霊(ドラウグ)も一瞬、固まってしまう。


 ママナは止まらない。

 信じがたい腕力で、付近の者全てをなぎ倒していく。


 気づけば衛兵(ガード)の殆どは床の上で動かなくなっていた。

 一方、崩れ落ちたはずの死霊(ドラウグ)達は、再び起き上がる。


 「忌々しい死人(しびと)どもが! 神聖(ロラス)!」


 ママナが聖言を唱えると、戦鎚が白く光りだす。

 輝く戦鎚で殴られた死霊(ドラウグ)は、白炎を上げて白い粉末へ変わった。


 「制裁(スマイト)ォ!」


 最後の死霊(ドラウグ)が燃え尽きると、ママナは(とき)の声を上げた。


 恐ろしいことに――

 ママナはたったひとりで、二十人近い戦士たちを壊滅させてしまった。

 いくら不意打ちだったとはいえ、〝生身の人間〟がやれることではない。


 「はああぁ――」

 ママナが大きく息を吐く。

 「もう時間切れですかぁ。まあ、雑魚は片付いたので、良しとしましょう」


 三人は、呆気にとられて立ち尽くしている。

 やがて、我に返ったカルスがママナに声をかけた。


 「それは――〈神の遺物〉の力か?」

 「ええ、そうですよぉ」


 ママナは、首にかけた紐にぶら下がっている〝角杯〟を持ち上げた。


 「これは〝凱歌の杯〟――狂戦士の力を呼び覚ます、古の器です」

 そう言って、ママナは口元を拭った。

 「ちなみに、これは王都の〈聖教庁〉から拝借しましたぁ」


 そんな場所から持ち出したというのか――?


 再び、三人は黙った。

 このママナという人物は、あらゆる意味で危険だ。


 「さて、お喋りしている暇はないですよぉ」

 ママナが聖堂の奥へ振り返る。


 その視線の先には――


 巨大な死霊(ドラウグ)が立っていた。

 褐色の骨格にボロ布をまとい、頭には王冠のような装飾品を戴いている。


 その佇まいは、まるで〝死者の王〟だ――


 ママナは恐れる様子もなく、戦鎚を携えて〝王〟に向かっていく。


 「あいつ――おい、ふたりとも、ママナに加勢するぞ」

 カルスも剣を構える。


 エルヴィアは、足が震えていないか確かめる。

 そして、ナイフを握りしめ、ゆっくりとカルスの後に続いた。

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