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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

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4 死が彷徨う街

闇ギルドの一行は、サルディアで旅の支度をし、砦の町へ出発する

 エルヴィア、カルス、そしてムースカリトゥの三人は、探索の準備を整え、馬に乗って砦の町へ向かった。

 

 自分の屋敷から馬を手に入れられたのは幸運だった。

 近頃は長距離を移動することも多く、毎度のように馬車を探すのも億劫になってきたところだった。


 砦の町までの移動は一日で済んだ。

 馬を厩舎に預け、その日は町で夜を明かした。


 翌日、朝早くに隠れ家の通路から、モルディレインへ侵入した。


 「ムース、先導してくれ」

 カルスが頼むと、ムースカリトゥは黙って頷いた。


 三人は、真っ直ぐ東へと進む。


 東への道は、平坦な草地で、森や林に分け入る必要はなかった。

 周囲に魔物の気配もない。


 「見通しが良くても油断はするな。なにが起こるか分からん」

 カルスに心の内を見透かされた気がして、杖を握る手に少し力が入った。


    †


 半日ほど歩くと、やがて目的地が見えてきた。


 石造りの街――

 見渡す限り、灰色の建物が続いている。

 王都と同じくらいの広さかもしれない。


 「広大だな……」

 カルスが呟く。

 「見たところ随分と荒れているが、人は住んでいるんだろうか」


 これだけの文明があったというのに、今まで〝こちら側〟と関わりがなかったのも不思議な話だ。

 父は、この街の存在を知っていたのだろうか――


 「ともかく、進んでみよう」


 カルスの一声をきっかけに、三人は再び歩き出す。


 街の入口には、巨大な石のアーチが組み上げられていて、その脇には、やはり石造りの監視塔がそびえ立っている。

 エルヴィアは、少し緊張しながらアーチを潜った。


 街を散策しながら、いくつかの建物を調べてみたが、どうにも様子がおかしい。

 「この街……生活の跡がまるでないわ」


 人が暮らしていた痕跡が見当たらないのだ。

 無論、人そのものの姿もない。


 「なんらかの原因で、滅びた文明なのか……?」

 カルスも頭を捻っている。


 「ん」


 ムースカリトゥが小さな声を上げた。

 彼女の視線の先を見ると――


 「ああ……」


 ようやく〝人〟を見つけた。

 だが――


 「オリド・ガードか……」


 そこに倒れていたのは、衛兵(ガード)の亡骸だった。


 「まだ新しい骸だ。最近、街に入った者達だな」

 カルスが亡骸を調べる。

 「これは酷いな……大型の鈍器で殴られたようだ」


 亡骸はひとつではなかった。

 四、五人の衛兵(ガード)が、石畳の上で無惨な姿を晒している。


 「切創もある。おそらく剣の傷だな。ふたりとも、敵がいるかもしれん。十分に注意してくれ」


 エルヴィアの鼓動が早まる。

 周囲を見回すが、動くものはない。


 ふとムースカリトゥを見ると、道にしゃがみこんでいる。

 「ムース、どうしたの?」


 ムースカリトゥは立ち上がり、足元を指差した。

 そこには、塩のように白い粉末の山ができている。


 「なんだ、その粉は……?」

 カルスが尋ねると、

 「多分、骨――」

 ムースカリトゥが、鞭の柄で粉末をかき回しながら言った。


 骨の粉末――だというのか?

 「どうして、そんなものが……?」

 背筋に、嫌な感覚が走る。


 気づけば、ムースカリトゥは粉末を掬い集め、革袋に詰めている。

 その姿を見て、じんわりと汗が吹き出た。


 「俺達も、招かれざる客人なのかもしれん。ムース、まだ進むか?」

 カルスが問うと、ムースカリトゥは当然のように頷いた。


 三人は、いつ襲われてもいいように、慎重に進む。


 やがて、前方の道が途切れた。

 よく見ると、その先は下りの階段だ。


 「待て――」


 カルスが声を潜めて行く先を遮った。

 「あの下に、なにかがいる」


 耳を澄ますと、確かに物音が聞こえる。

 

 カルスは、中腰の姿勢で静かに階段へと近づいていく。

 階段の脇に設えてある柵の前に至ると、こちらを振り返って手招きした。


 エルヴィアとムースカリトゥも柵の前に移動する。

 そこから眼下を見下ろすと――

 

 (あれは――)


 死霊(ドラウグ)の集団――

 

 そして、それと対峙するのは、ひとりの人間だ。

 顔は、外套のフードに遮られて見えないが――


 その両手には、大きな戦鎚が握られている。


 「神聖(ロラス)――」


 澄んだ女の声がした後、戦鎚が白く光り輝いた。

 一瞬、目の錯覚かと思ったが、間違いない。


 黒い外套をまとった人物は、戦鎚を勢いよく振り回す。

 一体の死霊(ドラウグ)が殴られて吹き飛んだと思うと――

 立て続けに、二体、三体と、信じがたい勢いで戦鎚になぎ倒されていく。


 だが――さらに驚いたのは、その後だ。

 

 殴られた死霊(ドラウグ)は、白い炎のようなものに包まれたかと思うと、そのまま燃え尽きた炭のようにボロボロと崩れていった。

 崩れた死霊(ドラウグ)達は、やがてさっきの白い粉へと姿を変えていく。


 エルヴィアは震えた。

 起こった出来事に、頭が着いていかない。


 「誰ですかぁ?」


 再び、下から女の声がした。


 「隠れても無駄ですぅ! 出てこないと殺しますよぉ?」

 

 この状況に全く似つかわしくない、頓狂な声が響く。


 「仕方ない……出よう」

 カルスは観念して、立ち上がる。

 続いて、エルヴィアとムースカリトゥも、その身を晒した。


 こちらを見上げる人物の青い目を見て、エルヴィアはぞっとした。


 その女からは、まるで感情というものが見えない。

 死人を屠った女の表情は、〝闇〟そのものだった。

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