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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

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3 黒い少女の誘い

生まれ育った屋敷に別れを告げたエルヴィアは、闇ギルドの隠れ家へ戻る

 エルヴィアは、馬を駆ってサルディアへ向かった。

 その道行きは、否応なしに〝あの夜〟を思い出させた。


 闇ギルドの隠れ家に着く頃には、空が赤く色づいていた。

 近頃は、この時間になっても寒さはない。

 もう、夏がやって来るのだ。


 隠れ家の扉を開けると、そこにはドグとムースカリトゥがいた。

 ふたりに会うのは久しぶりだった。


 「おう、やっと帰ってきやがったか」

 ドグは椅子にふんぞり返っている。

 「こちらのムース様が、あんたに用事だとよ」


 珍しいこともあるものだ。


 ムースカリトゥとは、あまり関わりがない。

 もちろん、エルヴィアが闇ギルドに入って日が浅いせいもあるが――


 「ムース、一体どうしたの?」


 尋ねると、ムースカリトゥは一言、

 「説明」

 と、ドグに言い放ち、口を閉じた。


 「結局、俺様が説明するのね……」

 まるで全てを諦めたかのように、ドグは天井を仰いだ。


 「こないだのことだが、例によって、東の地を探索していたのさ」

 ドグが椅子に座り直して言う。

 「盲点だったんだが、砦の町の東側の出口――そこから続く道を全く探索していないことに気づいてね」


 確かに、東方の探索は、いつも隠し通路の出口から始まる。


 「もちろん、堂々と門を通るわけにもいかんので、〝裏〟から行ったがね。まあ、多少回り道をして東へ進んだのよ」


 ドグが話していると、ムースカリトゥが足踏みを始めた。


 「待てって。話には順序ってモンがあるだろうが――」


 どうやら「要点だけ話せ」と言いたいようだ。


 「まあ、手短に言うとだな、その先には石造りの街、なのかな、あれは? とにかく広ぉい敷地があったのさ」


 街――ということは、なにかしらの文明が存在しているのか。


 「だと思うが、人の姿はなかった。これがまた、不気味な雰囲気でねぇ」

 ドグは、いかにも嫌そうな顔で語る。

 「あんな場所を探索するには、できるだけ大勢いた方がいいってことで、嬢ちゃんに助けを請うているってワケだ、うん」


 探索の手伝いか。

 できれば、早めに拠点に戻りたかったが――


 「聞けば、オリド・ガードが東の地に入るなんて話もあるじゃねぇか。ソイツらとかち合ったら、ロクなことにならんと言ったんだが……」


 もう、そんな噂が立っているのか。

 

 「このムース様曰く、あの街は〝死の臭い〟がプンプンするそうだ」

 「死の臭い……?」

 「ああ。だから、どうしても行くってゴネて聞かねえのよ」


 ムースカリトゥは〈遺物〉の力で死者を操る。

 やはり、〝死〟にまつわるものに惹かれるということか。


 「〈遺物〉に捧げる〝骨〟を調達したいらしいのさ。状態の良い骨じゃなきゃ、使えないらしいのよ」


 なるほど、そういう事情があったのか。

 ふと、ムースカリトゥを見ると、こちらを凝視している。


 彼女に見つめられると――なんだかとても、断りにくい。


 エルヴィアは、少し考えてから口を開いた。

 「ムース――手伝うのはいいけれど、少し待ってもらえる?」


 ムースカリトゥは首を傾げる。


 「東の拠点に戻らなければならないの。それに、オリド・ガードのこともあるし、一度、カルスにも相談してから……」


 突然、入口の扉が開いた。


 「エル、帰っていたか」


 入ってきたのは、件のカルスだった。

 少し息を弾ませている。


 「ええ――なにかあったの?」

 「オリド・ガードが東の地へ侵入した」


 ドグとエルヴィアは、同時に驚きの声を上げた。


 「随分、急な話ね……」

 「噂が広まってしまったから、邪魔が入る前に決行したのかもな」


 ドグがテーブルに肘をつく。

 「しかし、奴さんら、なにしに東へ行くってんだ?」


 「もちろん〈遺物〉探しだろう」

 カルスが答える。

 「そもそも、前の辺境伯がやろうとしていたことだ。それを今、独断で進めているんだろう」


 オリド・ガードが東へ入るとなると――

 

 「カルス――ムースの話は聞いた?」

 「ああ、不気味な〝街〟の話か?」

 「オリド・ガードの進路も、そちらなのかしら?」

 「分からんが……その可能性は高い。比較的、平坦な道が続いているというしな」


 カルスは腕を組んで考えている。


 がたり、と音がした。

 ムースカリトゥが椅子から立ち上がり、カルスを見る。


 カルスはその視線を受けながら、逡巡していたが、

 「……そうだな、勇み足かもしれないが、放置すれば遅れをとるばかりだ」

 そう言って、顔を上げた。


 「皆、俺と一緒に、その街とやらへ行ってみよう」


 予定が狂ってしまうが――

 ギルドマスターのカルスの判断なら、協力せざるを得ないだろう。


 エルとムースカリトゥが頷く。


 「お、俺様はちょっと、予定がありますんでねぇ……そろそろ、お暇させてもらいますぜぇ」


 椅子から立ち上がったドグを、ムースカリトゥが冷ややかな目で見つめていた。

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