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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

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2 過去と行く末を胸に

エルヴィアはルバエドと共に、サルディーンの屋敷へ赴く

 懐かしい匂いがする――

 部屋に入った途端、長い夢を見ていたような気持ちになった。


 「ありがとう、ルバエド……我儘を聞いてくれて」


 エルヴィアは、かつての住処であるサルディーンの屋敷の自室にいた。

 

 あの後、本を取りに行ってもらうよう、無理を承知でルバエドに頼んだのだが、

 ならば共に屋敷へ戻ろうと持ちかけられたのだ。


 『出来る限り、屋敷は元の状態を保つよう努めております』


 ルバエドの言葉のとおり、自室は〝あの夜〟のままだった。

 人生が一変してしまった、あの夜――


 本棚を眺めながら、エルヴィアは尋ねる。

 「あなたは――闇ギルドについて、以前から知っていたの?」


 部屋の入口に立つルバエドが答える。

 「はい。あのギルドは、旦那様が内密に援助していた組織なのです」


 「それは聞いているわ」

 本を一冊手に取り、その表紙を捲る。

 「お父様は……一体、なにをしようとしていたのかしら?」


 「旦那様は、広い視野でものを見るお方でした」

 ルバエドの視線がエルヴィアの目とかち合う。

 「はっきりと私に語られたことはありませんが……おそらくは、()()()()()()()との融和を目指していたのやもしれません」


 〝まつろわぬ者達〟――


 闇ギルドの仲間や、東の地に生きる民達の姿が心に浮かんだ。


 「――エルフやドルイドとの交流が深まりつつあるそうですな」

 「ええ」

 「お嬢様の提言がきっかけだと、カルス殿から聞きました」


 あの時は、本当に後先を考えてはいなかった。

 ただ――彼らの生き様を見て、そうしたいと思ったのだ。


 「以前は――」

 ルバエドが口を開く。

 「お嬢様は、お母上の面影が濃いと思っておりましたが、今は、お父上の眼差しに近いものを感じます」


 母に似ているとは、よく言われた。

 

 物心ついた時から、病床にあった母。

 それに引っ張られていたのか、エルヴィア自身も屋敷に籠りがちな子だった。


 気づけばもう、家族はいない。

 この、がらんとした家に帰って、今更その事実を肌で感じた。


 闇ギルドの皆も、そうなのだろうか。

 

 家族と別れて――

 あるいは、初めから家族などいなくて。


 その隙間を埋めるように、人を求め、寄り集うのか。


 「出過ぎたことと承知で、申し上げます」

 ルバエドが一歩前に出る。

 「オラーク様に替わり、エルオリドの領主となるお気持ちは、ございませんか?」


 エルヴィアの命を狙う者は、今はもう、いないかもしれない。

 だが、やはり首を縦に振るわけにはいかなかった。

 今も夢に見る、〝彼女〟がそれを許してはくれない――


 「ベルアシーリアを知っている?」

 「……はい」

 「あの子を〝選んだ〟のは……あなたね?」


 ルバエドは無言で頷く。

 彼が現れてすぐ、そのことを考えた。

 

 ベルアシーリアのことは、好きではなかった。

 反りが合わないのは勿論、随分と酷い扱いを受けた。

 エルヴィアが屋敷に籠りがちになったのも、ほとんど彼女が原因だった。


 ルバエドも、それを知っていたのだろう。

 エルヴィアが、自ら身代わりに手を下すと言いだしたせいで、因縁のある彼女が選ばれたとすれば――


 それは無慈悲な運命の悪戯だ。


 「私はあの夜、エルヴィア・サルディーンとしての人生を捨てた。今はもう、闇ギルドの召喚術師〝エル〟なのよ」


 ルバエドの視線に、もう怖さは感じなかった。

 彼は、静かに頷いた。


 「私から、最後の我儘を言ってもいい?」

 「ええ、なんなりと――」

 「この部屋にある本を、出来るだけ多く、サルディアの隠れ家へ運んでほしい」


 数冊は、自分でネラ達の元へ持っていくつもりだが、一度に全部は難しい。


 「この屋敷にもう、主はいない。ここにある物は、あなたが自由にしてくれてかまいません」

 ルバエドは口を固く結んでいる。 

 「今まで、この家を守ってくれて、ありがとう」

 

 かつての執事長は、エルヴィアに膝をついた。

 

 いくつかの本を選び終え、背負い袋にしまう。

 ルバエドをその場に残し、屋敷の入口へ向かう。


 生まれ育った家を見上げ、少しの間、立ち尽くす。

 二度と戻ることはない日々が、次々と胸の内を巡っていく。


 奪われたもの、奪ったもの。

 永遠の別れと、新たな出会い。

 全てを背負い、人は生きるのだろう。


 随分と長く、そこに立っていたことに気づく。

 エルヴィアは、急いで馬を繋いである厩舎へと向かった。

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