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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第5章「離郷の灯火」

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1 予期せぬ再会

 エルフの集落が襲われてから、一月ほどが経過した。


 マン・キンフを中心とするエルフ達は、悩んだ末に、エルヴィア達と協力する道を選んだ。

 なにより、自分たちの住処を守ってくれたという事実が大きかったようだ。


 あれからハイエルフ達とは、良好な関係を築くことができた。

 互いの知識を交換したり、ダークエルフの危機についても議論した。

 闇ギルドの拠点作りも、ハイエルフ達が手を貸してくれている。

 

 拠点作りで少し困ったのは、ミノークが口を利けないことだった。

 聴くことに問題はないのだが、ミノークからなにかを伝えたい時に、喋れないのは少し不便だったのだ。


 そこで、エルヴィアは〝文字〟を教えることを思いついた。


 ミノークが読み書きを覚えれば、意思疎通が楽になる。

 初めは地面に文字を書いて基礎的な言葉を教えたが、複雑な表現を伝えるとなると、それだけでは難しくなってきた。


 「エルオリドに戻ろうと思うの――」

 エルヴィアは、ギルドの仲間達に告げる。

 「カルスに報告するついでに、屋敷にある私の蔵書を持ってきてもらえないか、訊いてみるわ」


 エルヴィアの生家であるサルディーンの屋敷。

 そこは、父が殺された現場でもある。


 今、屋敷がどうなっているかは知らないが、子供の頃に、読み書きを学ぶために使った本などは残っているかもしれない。


 「アタシも文字、教えてもらおうかな……」

 ネラが少し恥ずかしそうに呟く。

 「前に、高位の魔女(ハイ・ウィッチ)になる勉強をしようとしたけど、文字が読めなくて諦めちゃったんだよね」


 それは知らなかった。

 ミノークと一緒に、ネラにも文字を教えてあげれば喜ぶだろう。

 そう思うと、エルオリドへ帰るのが急に楽しみになった。


    †


 エルヴィアは数日かけて、サルディアの町へ戻った。

 ひとりで戻るのは、さすがに危険だと言って、アニスも同行してくれた。


 隠れ家には、丁度カルスがいた。

 

 「帰ったのか……拠点作りの進捗はどうだ?」

 「予想よりだいぶ順調よ。エルフが協力してくれているし」

 アニスが答える。


 「エルフ達と関係を築けたのは大きな収穫だな。よくやってくれた――」


 カルスの表情が、どうにも優れない。

 なにがあったのか尋ねると――


 「実は、オリド・ガードの一部が造反を企てている疑いがある」


 造反――?


 「オラーク卿への不満が募っている。先の吸血鬼(ヴァンパイア)の件でも、魔物掃討の手柄を騎士団に奪われたようだ。決断の遅さが災いした」


 騎士団――〈王都ドミネシア〉を守る精鋭部隊だ。


 「オリド・ガードは血の気の多い手合いが多くてな。辺境伯の交代を機に、歯止めが効かなくなっているようだ」

 カルスは椅子から立ち上がり、奥のカウンターへ向かう。

 「近いうちに、行動を起こすかもしれん」


 エルヴィアは困惑した。

 

 それは、アニスも同じだったようで、

 「西側を押さえていたら、今度は身内だった者達が問題になるなんて……」

 と、苦い表情を見せる。


 カルスは酒の入ったマグを傾けた。

 「ともかく今後、俺達がどう動くべきか相談するために〝人〟を呼んだ」


 〝人〟というと――ギルドの協力者ということか?


 「まあ、そうだな。ちなみにエル、お前も知っている人物だ」


 誰のことだろう?

 闇ギルドと繋がりのある者――

 すぐには思いつかない。


 やがて、地下室の隅の階段から――

 コツコツと、靴音が響いてきた。


 「どうやら、到着したようだな」


 薄暗い部屋を、ゆっくりと歩いてきたその人物は――


 「……こちらに、いらしておりましたか」


 少々しわがれているが、迫力のある声。

 そう、この声だった。


 「多忙を理由に、お伺いもできず、面目次第もございませぬ」


 白髪の老年の男が、エルヴィアの前に膝をついた。


 「ルバエド――久しぶりですね」


 父、ロルドの片腕、「ルバエド」。

 サルディーン家の執事長だ。


 「諸々、カルス殿に聞き及んでおります」


 この男も、カルス――闇ギルドと繋がっていたとは。

 いや、父の腹心であったのだから、当然といえば当然か。


 「積もる話もありますが、生憎、今は火急の要件がございます」

 ルバエドはそう言うと、カルスへ視線を送る。


 「オリド・ガードはどうだ?」

 「やはり押さえきれませんな。不甲斐ない話ですが、ロルド様亡き今、我が力など羽虫にすら劣りましょう」


 「そうか」と呟いて、カルスは黙り込む。


 「衛兵(ガード)は、モルディレインへ侵攻するのですか……?」


 エルヴィアが尋ねると、ルバエドの鋭い目がこちらを射る。

 この目は――昔から苦手だった。


 「オリド・ガードがどう動くかは、まだ不明です。ただ――」

 柱の灯りが揺れた気がした。

 「もし彼らが〈神の遺物〉を手に入れれば、厄介なことになりますな」


 地下室の空気は、さらに重苦しく沈む。


 〝本〟の話など、とても言い出せなくなってしまった。

 エルヴィアは、東の地に残した仲間の顔を思い浮かべていた。

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