2 秘境に潜む影
闇ギルドの一行は、拠点作りの足掛かりとして、モルディレインを探索する
エルヴィア達は、東の地の森林を歩いていた。
拠点の候補地にはいくつかの条件がある。
まずなによりも、建物を建てるための木材が採れることが重要だ。
そして、安全性と食料の問題。
魔物が少なく、狩りや採取ができる場所――
つまり必然的に、森の近辺が最も適しているという結論になる。
『アタシが暮らしてた森の近くなら、魔物が少なかったよ』
ネラがもたらした情報から、ドルイドが住む森の近くを探すことになった。
「まずは水場を探さないとね。川があれば都合がいいけど……」
アニスが耳の後ろに手をかざし、水音をたどる。
「ううん、ちょっと聴こえないわね」
前を行くネラが口を開く。
「この辺に川はないよ。あっても湧き水だね。もう少し歩いて、谷を探そう」
朝から歩きどおしで、疲労が溜まってきた。
一行は、見通しのいい場所で火を起こし、休息を取ることにした。
「ドルイドというのは……」
火に薪を焚べながら、アニスが尋ねた。
「どんな暮らしをしている民なの?」
ネラは保存食を噛みながら答える。
「んん、ドルイドはね……森と共に暮らしてる」
「それは分かるけど、他には? それこそポーションを作ってるとか」
「ポーションを作るのは〈魔女〉だよ。でも、魔女も元々、森で暮らしていたって聞いたことはあるよ」
それは初耳だった。
エルヴィアが好きで読んでいた伝記には、魔女がよく出てきた。
森に住み、カエルやイモリを煎じて不思議な薬を作ったり、未来を予知する魔術を使うという。
「それに近いことは、ドルイドもやるね。例えば占いだけど……獣とか鳥を生贄にした儀式をするんだ」
アニスは意外そうな表情だ。
「その占いって、当たるわけ?」
「〝当たる〟っていうか――なにをすべきか〝神に訊く〟って感じかなぁ?」
「ああ、なるほど……」
つまり〝神のお告げ〟に従って生活する文化なのか。
「そうそう。ドルイドにとって、獣は神だからね」
「その神を殺すの? なんだか変わった信仰ね」
アニスは興味深そうに話を聴いている。
「でも、魔女の占いは全然違う。魔女はね、〝星を見る〟んだ」
「星?」
「星の位置や輝きで、運命を読む。それができるのは〈高位の魔女〉だけどね」
ネラは「アタシにはまだ無理だねぇ」と言って頬を掻いた。
†
午後になり、さらに森を進む。
アニスがしきりに周囲を見回している。
「この辺りは特に〈マナ〉が濃いわね……」
確かに、エルヴィアにも感じられるほどの圧迫感がある。
魔物が出るかもしれない――
振り返ると、後方を歩くミノークも、警戒している。
「アニス、魔物の気配は?」
エルヴィアが尋ねると、アニスは首を傾げる。
「感じないわ……鳥や獣の声は聞こえるのに」
〈マナ〉が豊富な場所には、魔物も多いはずだが――
東の地では、そんな常識も通じないのだろうか。
「この感じ……魔物じゃないのは確かだけど」
アニスが眉をひそめる。
「〝なにか〟がいるわ――」
「あ、あれ――」
ネラが前方を指差す。
その先は、森の切れ目になっている。
そして、変わった形の建物も見えた。
ドルイドの集落か――?
「違うね、ドルイドの村じゃないよ」
ネラの声に、わずかな緊張が滲む。
「行ってみましょう。警戒は怠らないように」
アニスを先頭に、エルヴィアとネラが続く。
ミノークは変わらず、背後を守りながら進む。
集落は、静かだった。
人影は見当たらない。
だが、家畜の鳴き声がするし、中心の広場らしき所に篝火が灯っているので、廃村ではないだろう。
「誰もいないわね……狩りか採取に出かけているのかしら?」
アニスがしゃがんで、地面を見る。
「新しい足跡がある。これは走った後だわ。あの家に向かってる。私達に気づいて隠れたのかも――」
それを聞いて、ネラが近くの家に向かう。
家の扉に手をかけようとした、その時――
鋭く風を切る音が聞こえた。
その瞬間、視界の端に影が落ちる。
「うう――」
背後から、くぐもった低い声がする。
エルヴィアが振り向くと――
「ミノーク!」
ミノークの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
「矢を受けてる!」
アニスがいち早く状況に気づいた。
ミノークはうめきながら、手で空を切っている。
「隠れろ」という意味か――?
「誰だ? 隠れてないで出てこいッ!」
アニスが大声で叫ぶ。
「出てこなければ、この村を焼くぞ!」
静寂――
いつの間にか、鳥の声が止んでいる。
エルヴィアは、汗が背中を伝うのを感じていた。
やがて、建物や木の陰から、見慣れぬ服装の者達が現れた。
そして家の中からも。
黄金の髪の人間達――
だが、その耳は長く、尖った形をしている。
若い男と女ばかりで、子供や老人の姿はない。
「エルフ――」
ミノークを庇うように屈み込んだネラが呟いた。




