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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第4章「流離の隣人」

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1 継がれた意思

 吸血鬼(ヴァンパイア)との決戦から数週間経った。


 魔物の侵攻に揺れたエルオリドの地も、ようやく落ち着きを取り戻した。

 死亡したディードルグ城伯の後任は、決まっていないらしい。

 

 エルヴィアは、サルディアの森にある小屋で休息を取っていた。

 ミノークが建ててくれていた小屋が、ようやく完成したのだ。


 「この技術があれば、拠点作りも可能ね」

 小屋の様子を見に来たアニスが言った。


 「拠点作り?」

 エルヴィアの疑問にアニスが応える。

 「そう。東の地の探索に本腰を入れるために、拠点が必要という話が持ち上がっていてね」


 東の地、モルディレインの探索は、ギルドにとって重要な仕事だ。

 しかし、探索の度にエルオリドまで補給に戻っていては効率が悪いと、以前から考えられていた。

 「候補地の下見を兼ねて、近いうちに東の地へ入りたいそうよ。今日は、その面子の選定をしに来たんだけど……ミノークは必要ね」


 ミノークという大男は、言葉を発することはなく、黙々と仕事をする。

 手先が器用で、もちろん力仕事も人並み以上にこなす。


 「初めは怖かったけど――ミノークはとても優しくて、真面目な人よ。なぜ闇ギルドにいるのかは分からないけれど」

 「そう……カルスに訊いてみたけど、彼とはだいぶ前に森で偶然出会ったと言っていた。それ以上のことは語らなかったわね」

 

 アニスは現在、カルスと行動を共にすることが多いようだ。

 夜に紛れる能力を活かして、情報収集や工作活動に精を出しているらしい。


 「ここ最近は、西の商人ギルドの調査とか、後任のエルオリド辺境伯周辺への根回しで、かなり骨を折ったわ」


 以前、カルスに聴いた話だが、エルヴィアの父は、この闇ギルドを影で支援していたのだという。

 

 「そのパトロンがいなくなってしまった……今後のためにも、新しい辺境伯とは強い繋がりを作っておきたいわけよ」

 そう言うと、アニスは、エルヴィアが煎じたハーブティーの香りを嗅いだ。


 ディードルグ伯が死亡した後――

 エルヴィアが辺境伯の娘として名乗りを上げてはどうか、という話も出た。


 しかし、エルヴィアはそれを固辞した。

 身を隠すためにベルアシーリアの命を奪った自分が、再び光の下で生きることなど到底考えられなかったのだ。


 「ディードルグのことで世間が混乱しているうちに、地盤を固めてモルディレインへの進出を急ぎたい、というのが闇ギルドの方針よ」


 闇ギルドは、東の地や〈遺物〉に強いこだわりがある。

 ――それは〝父の意思〟なのだろうか?


 「あなたの父親はどうも、相当な野心家だったみたいね」

 琥珀色の目がエルヴィアを捉える。

 「前エルオリド辺境伯『ロルド・サルディーン』が東の地にご執心だったのは、ただ自領地を広げるためだけではなかったらしいわ」


 東方の開拓は、確かに父の悲願だった――

 だがエルヴィアは、その意図までをも量ることはなかった。


 「〈神の遺物〉が関係しているのは間違いない……カルスはそう考えている」


 カルスと父の関係も気になる。

 初めて会った時に〝知人〟とは言っていたが――


 「辺境伯ともなると、色々と抱えているのは当然……でも、私達のような、誰にも歓迎されない人種とさえ関わりがあったのは普通じゃないわ」


 確かに、以前のエルヴィアには想像もできなかった背景がある。

 遺物、異境、そして野心――

 なにかが、繋がりそうな気がして、すぐにその糸は途切れた。


 「――話が逸れたけど、拠点の下見に最適なのは誰だと思う?」

 アニスに尋ねられて、エルヴィアは考える。


 「そうね……ネラはどう? 彼女は以前、モルディレインの森で暮らしていたみたいだし、土地勘があるかもしれない」

 「いいかもね。彼女も〈遺物〉持ちだし……いざという時に助けになりそう」


 他に適した人物といえば――

 

 それこそ、アニスではないだろうか。

 彼女は〈マナ〉を敏感に感知できるし、夜目も効く。

 おまけに戦闘でも力を発揮するのだから、申し分ない。


 「私は元から面子に入っているわ。カルスから直々にいわれてね。全く、人使いが荒いったら……」

 アニスは口ではそうこぼすが、満更でもなさそうだ。


 「三人では少し、心許ないわね――エル、あなたも参加しない?」

 

 急に誘われて、エルヴィアは(まばた)きをする。


 なぜ自分を、と問うと、

 「あの〝邪神〟や吸血鬼(ヴァンパイア)を打倒したという大きな実績があるじゃない」

 とアニスが答える。 

 「それに――あなたには物事を動かす力があるような気がするのよ。そこは辺境伯の〝血〟なのかもしれないわね」


 そんな自覚はまるでなかった。


 「私自身も、あなたに救われたところは大きいのよ。今、ここにいられるのは、あなたの存在があったからかもしれない」


 アニスの言葉に、エルヴィアはただ首を傾げるばかりだ。

 それでも必要とされるなら――力を尽くしたいと思う。


 「ともかく、ネラに伝えておいて。数日後には出発したいわ」

 アニスが椅子から立ち上がる。

 「なにがあるか分からないから準備は入念に。ミノークには私から話しておく」


 再び、東の地へ入る――

 

 それはギルドの方針だからか?

 それとも、父の意思を知るためなのか?

 

 考えても、答えは出ないけれど――

 なぜか、左手の指輪が、エルヴィアを東へと(いざな)っているように思えた。

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