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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第3章「黄昏の剣」

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8 闇から芽生えた勇気

カルスを砦の町に残し、エルヴィア達は馬車で西へ向かう

 二日間、馬車に揺られ、サルディアへと戻ってきた。


 町の様子は、様変わりしていた。

 損壊した家や店が目立つ。

 中には焼けて真っ黒になってしまった建物もある。


 (もう魔物がここまで……?)


 エルヴィア達は急いで隠れ家へ向かう。

 その途中、異様な人型の集団が道を塞いでいた。


 「あの化け物共を、片付けるわよ!」

 アニスが臨戦態勢に入るが――


 「待ちなさい」

 パリオがそれを制する。


 あれは――死霊(ドラウグ)だ。

 十体ほどの死せる戦士達が陣形を組んでいる。

 その後ろに、黒いローブをまとった少女が香炉を揺らしながら佇んでいた。


 「ムース!」

 エルヴィアの姿に気づいたムースカリトゥは、死霊(ドラウグ)の部隊を左右に散開させた。


 困惑するアニスを追い越し、ムースカリトゥに近づく。

 「隠れ家にも、魔物が――?」

 「〝家〟は無事……」


 状況を尋ねると、町に魔物が侵攻してきたのは、昨晩のことらしい。

 偶々、隠れ家にいたムースカリトゥやネラ、ミノークが協力して防衛に当たっていたそうだ。


 「町は荒れているが、人があまりいませんね――」

 パリオが首を傾げるが、ムースカリトゥによると、殆どの住民は町から逃げ出したようだ。


 「あ、帰ってきた!」

 隠れ家の方からネラが走ってくる。

 その後ろには、ミノークの巨体も見えた。


    †


 「あの死霊(ドラウグ)は、ギルドの防衛隊だよ」

 

 隠れ家の地下室で、ネラが野イチゴを頬張りながら言った。

 「緊急の時にムースが起こして戦わせるんだ」

 この家の脇にある墓地は、彼らの〝寝床〟だったのだ。


 「〝闇のギルド〟だっけ――? 変わった人間が多いのね」

 アニスの目には不審の色が浮かんでいる。

 

 死霊術師の少女、物言わぬ巨漢、そして妙に気安い魔女。

 そんな得体の知れない者たちが集まっているのだから、彼女が面食らうのも無理はないだろう。

 

 「我々は、魔物発生の原因を叩くため、ディードルグの城へ向かいます」

 パリオがネラに、大まかな経緯と次の目標を伝えた。


 「アタシも行った方がいいかなぁ?」

 ネラが自分を指さす。

 「いえ――悪いが、ネラには砦の町にいるカルス殿の治療を頼みたいのです」

 

 カルスの容態は安定したが、まだ本調子とはいえない。

 だが、ネラが薬を持って行ってくれれば、安心だろう。

 

 「分かったよ。ディードルグに行くなら、備蓄のポーションを持っていきなよ」

 隠れ家で、ある程度の補給ができるのは幸いだ。

 

 ムースカリトゥとミノークは、まだ周囲の警備を続けている。

 共に戦ってくれれば心強いが、不測の事態に備え、残ってもらうことにした。


 椅子に腰掛けたパリオが、アニスを見ている。


 「なによ?」

 「我々は数で劣る。故に、早期決着が望ましい。そのためには吸血鬼(ヴァンパイア)の居場所を突き止めなければならないが――」

 「それは心配いらない。私は〝夜の臭い〟を嗅ぎ分けられる。近くまでいけば、奴の居所はすぐに分かる」


 今回の戦いは、アニスが中心になるのは間違いない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の居場所も、倒し方も、彼女しか知り得ないのだ。


 「もうひとつ……あなたの〈遺物〉ですが、その力を発揮するには、何らかの〝供物〟を捧げねばならないのです」


 そう――

 それが分からなければ〈神の遺物〉も、ただの石ころだ。


 「〝供物〟ね……エルが血を使うようなもの?」

 アニスの問いに、エルヴィアが頷く。


 「吸血鬼(ヴァンパイア)との決戦までに、必要な〝供物〟を知りたいところですな」

 パリオは天井を仰ぎ見る。

 「とはいえ……おおよその見当はついていなくもないですが」


 「なによ、それ……ハッキリ言いなさいよ」

 アニスは不満げだ。

 「まあ……軽々しく試してみろとは言いづらい仮説ですからなぁ」

 パリオにしては珍しく、歯切れの悪い物言いだ。

 

 骨の指輪の〝供物〟に関しては、迷いなく告げられたというのに。

 もしや――

 血を捧げる以上に、〝厭わしい〟もの?


 「ともかく、あまり時間はありません。少し休んだら、出発するとしましょう」

 

 ここからは、厳しい戦いになる。

 場合によっては、命に関わるだろう。

 細かな肩の震えは、意気込みだけで治まるものではなかった。


 それでも――

 この数週間という短い時間は、確実にエルヴィアを変えた。

 待ち受ける決戦は、それを確かめる試練のようにも思える。


 恐れるな――

 

 夜の森を逃げ惑い、〝悪魔〟に血を捧げ、巨大な化け物すら打ち倒した。

 胸に手を当てて目を閉じると、これまでの苦しみや困難が、力になっていくような気がした。


 「――エルの顔、だいぶ勇ましくなったじゃん」

 気づけばネラがこちらを見て笑っていた。

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