8 闇から芽生えた勇気
カルスを砦の町に残し、エルヴィア達は馬車で西へ向かう
二日間、馬車に揺られ、サルディアへと戻ってきた。
町の様子は、様変わりしていた。
損壊した家や店が目立つ。
中には焼けて真っ黒になってしまった建物もある。
(もう魔物がここまで……?)
エルヴィア達は急いで隠れ家へ向かう。
その途中、異様な人型の集団が道を塞いでいた。
「あの化け物共を、片付けるわよ!」
アニスが臨戦態勢に入るが――
「待ちなさい」
パリオがそれを制する。
あれは――死霊だ。
十体ほどの死せる戦士達が陣形を組んでいる。
その後ろに、黒いローブをまとった少女が香炉を揺らしながら佇んでいた。
「ムース!」
エルヴィアの姿に気づいたムースカリトゥは、死霊の部隊を左右に散開させた。
困惑するアニスを追い越し、ムースカリトゥに近づく。
「隠れ家にも、魔物が――?」
「〝家〟は無事……」
状況を尋ねると、町に魔物が侵攻してきたのは、昨晩のことらしい。
偶々、隠れ家にいたムースカリトゥやネラ、ミノークが協力して防衛に当たっていたそうだ。
「町は荒れているが、人があまりいませんね――」
パリオが首を傾げるが、ムースカリトゥによると、殆どの住民は町から逃げ出したようだ。
「あ、帰ってきた!」
隠れ家の方からネラが走ってくる。
その後ろには、ミノークの巨体も見えた。
†
「あの死霊は、ギルドの防衛隊だよ」
隠れ家の地下室で、ネラが野イチゴを頬張りながら言った。
「緊急の時にムースが起こして戦わせるんだ」
この家の脇にある墓地は、彼らの〝寝床〟だったのだ。
「〝闇のギルド〟だっけ――? 変わった人間が多いのね」
アニスの目には不審の色が浮かんでいる。
死霊術師の少女、物言わぬ巨漢、そして妙に気安い魔女。
そんな得体の知れない者たちが集まっているのだから、彼女が面食らうのも無理はないだろう。
「我々は、魔物発生の原因を叩くため、ディードルグの城へ向かいます」
パリオがネラに、大まかな経緯と次の目標を伝えた。
「アタシも行った方がいいかなぁ?」
ネラが自分を指さす。
「いえ――悪いが、ネラには砦の町にいるカルス殿の治療を頼みたいのです」
カルスの容態は安定したが、まだ本調子とはいえない。
だが、ネラが薬を持って行ってくれれば、安心だろう。
「分かったよ。ディードルグに行くなら、備蓄のポーションを持っていきなよ」
隠れ家で、ある程度の補給ができるのは幸いだ。
ムースカリトゥとミノークは、まだ周囲の警備を続けている。
共に戦ってくれれば心強いが、不測の事態に備え、残ってもらうことにした。
椅子に腰掛けたパリオが、アニスを見ている。
「なによ?」
「我々は数で劣る。故に、早期決着が望ましい。そのためには吸血鬼の居場所を突き止めなければならないが――」
「それは心配いらない。私は〝夜の臭い〟を嗅ぎ分けられる。近くまでいけば、奴の居所はすぐに分かる」
今回の戦いは、アニスが中心になるのは間違いない。
吸血鬼の居場所も、倒し方も、彼女しか知り得ないのだ。
「もうひとつ……あなたの〈遺物〉ですが、その力を発揮するには、何らかの〝供物〟を捧げねばならないのです」
そう――
それが分からなければ〈神の遺物〉も、ただの石ころだ。
「〝供物〟ね……エルが血を使うようなもの?」
アニスの問いに、エルヴィアが頷く。
「吸血鬼との決戦までに、必要な〝供物〟を知りたいところですな」
パリオは天井を仰ぎ見る。
「とはいえ……おおよその見当はついていなくもないですが」
「なによ、それ……ハッキリ言いなさいよ」
アニスは不満げだ。
「まあ……軽々しく試してみろとは言いづらい仮説ですからなぁ」
パリオにしては珍しく、歯切れの悪い物言いだ。
骨の指輪の〝供物〟に関しては、迷いなく告げられたというのに。
もしや――
血を捧げる以上に、〝厭わしい〟もの?
「ともかく、あまり時間はありません。少し休んだら、出発するとしましょう」
ここからは、厳しい戦いになる。
場合によっては、命に関わるだろう。
細かな肩の震えは、意気込みだけで治まるものではなかった。
それでも――
この数週間という短い時間は、確実にエルヴィアを変えた。
待ち受ける決戦は、それを確かめる試練のようにも思える。
恐れるな――
夜の森を逃げ惑い、〝悪魔〟に血を捧げ、巨大な化け物すら打ち倒した。
胸に手を当てて目を閉じると、これまでの苦しみや困難が、力になっていくような気がした。
「――エルの顔、だいぶ勇ましくなったじゃん」
気づけばネラがこちらを見て笑っていた。




