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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第3章「黄昏の剣」

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7 それぞれの意志

魔物との戦いで毒を浴びたカルスを退避させるも、アニスに異変が起こる

 「アニス!」


 広間にいるアニスの周囲に、赤い瘴気のようなものが逆巻く。


 まだ魔物が生きていたのか?

 それとも――


 「エル、まずはカルス殿の処置を!」

 パリオが鋭い声を上げる。


 アニスの様子も気になるが――今は一刻を争う。


 エルヴィアとパリオは手分けして傷口を探すが、目立った外傷はなさそうだ。

 「傷から毒が入ったわけじゃなさそう。解毒薬を飲ませましょう」


 瓶の蓋を開け、カルスの口に薬を流し入れる。

 カルスはゆっくりと、薬を飲んでいる。

 まだ意識があるようだ。


 「――念のため、身体を洗った方がいいわ」


 見上げると、側にアニスが立っていた。


 無事だったのか?

 あの叫びと、赤い瘴気は一体――


 「アニス、あなたは……」

 「急いで遺跡の外へ運ぶわよ。わずかだけど、ここにも毒の影響はある」


 パリオが無言で頷いたのを見て、エルヴィアは立ち上がって荷物を担ぐ。

 そのままパリオがカルスを背負い、地下の神殿を後にした。


    †


 一行は、遺跡の外へ出た。

 アニスは、妖精(ニンフ)の泉の水を含ませた布で、カルスの顔や身体を拭いている。


 「以前、毒に苦しんだ時、この水で傷を洗うだけでも、だいぶマシになったわ」

 適切な処置の賜物か、カルスの顔色が良くなってきた。


 「――もう、大丈夫だ」

 「無理に喋らないで。そこに座って、休んでいて」


 アニスは、しきりにカルスの世話を焼いている。

 それを見るエルヴィアは、なんとなく微笑ましい気持ちになった。


 「ところで――」

 パリオがアニスを見据える。

 「それが〈神の遺物〉ですか」


 アニスの喉元には――

 暗い緑色の石が、埋め込まれたように癒着していた。

 そして、その周りには、首輪を思わせる黒い痣が浮かんでいる。


 「あの時――喉に物凄い痛みが走って、頭が真っ白になった」

 アニスは、喉の石に触れる。

 「もう痛みは消えたけど、正直、これがなんなのかは分からない」


 仮に、その石が〈神の遺物〉だとしても――

 エルヴィアの骨の指輪とは、全く違う物だ。


 「私の指輪は外れこそしないけど、痛みを感じることはなかったわ」

 それを聞いて、パリオも言葉を繋ぐ。

 「〈神の遺物〉にも、様々あるようだ。その石に秘められたるは、果たしてどんな力でしょうな」


 アニスの喉元の石をよく見ると、赤い斑点が散らばっている。

 それは、血しぶきの痕のようだった。


 「さて、少し休んだら町へ戻りましょう。こんな場所では、カルス殿の治りも遅くなってしまう」

 パリオの提案に皆が頷いた。


    †


 砦の町は、騒然としていた。


 エルヴィアやパリオが町の者に尋ねたところ、ディードルグ城や、その近隣の町や村が魔物の襲撃を受けているとのことだった。

 「突然のことで、各地は混乱している模様です」

 

 この砦からディードルグまでは遠い。

 「〝オリド・ガード〟を出すなら、早い方がいいでしょうな」


 本来、東の国境を守護するオリド・ガードを南へ回すなど、まさに非常事態だ。


 「それにしても――事が突然すぎないか?」

 簡易的なベッドに腰掛けたカルスが疑問を口にする。

 「吸血鬼(ヴァンパイア)の仕業なのは間違いないだろうが……」


 「〈転送石(ポータル)〉よ――」

 アニスが言った。

 「なんだって?」

 「きっと吸血鬼(ヴァンパイア)が〈転送石(ポータル)〉で魔物を呼び込んだのよ」

 

 もしアニスの言うとおりなら、これは由々しき事態だ。


 「もはや、ディードルグ城伯がどうのという問題ではないな」

 カルスがベッドから立ち上がる。

 「俺は魔物の鎮圧に向かう」


 なぜ〝闇ギルドの長〟が――?

 それは領主や兵士の仕事ではないか?


 「魔物がどこへ向かっているかわからん。サルディアまで侵攻しているなら、隠れ家も危ない」

 そう言うと、カルスは傍らの剣に手を伸ばす。


 「その身体では無理よ」

 アニスが言う。

 「カルスの代わりに、私が行く。吸血鬼(ヴァンパイア)を殺すことが、私の目的なんだから」

 琥珀色の目には、固い意志が宿っていた。


 「ひとりでは、あまりに無謀でしょう――」

 パリオが鎚矛(メイス)を取り、腰に下げる。

 「同行しましょう。あの遺跡での不始末を注がなければ」


 エルヴィアも杖を携える。

 「私も――行きます」

 「無理に着いてくることはないわ。これは私の問題よ」

 

 アニスの言葉を、エルヴィアは手で制する。

 「私は、私の事情でゆくの。かつての名は捨ててしまったけれど、故郷まで捨てたわけじゃない」

 

 全てから逃げていた自分とは、もう違う。

 〝闇ギルドの一員〟として、成すべきことを、成す――

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