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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第3章「黄昏の剣」

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6 決死の刃

森で毒草を入手した一行は、敗戦の借りを返すため、再び遺跡の地下へ潜る

 地下の神殿の前。

 カルスとアニスは、武器に毒を塗りつけている。


 「敵に毒が効くかを素早く見極める。効かなければ、即時撤退だ」

 カルスが作戦を確認する。

 「乱戦になれば、こちらも敵に付着した毒に触れる恐れがある。なるべく距離を取りながら各個撃破を目指すぞ」


 蠕虫(ワーム)はカルスの剣と、アニスのダガーに任せ、大物はパリオとエルヴィアが担当することになった。


 狙いは、巨大な口だ。

 あの大きな口の中に、パリオが〈呪いのミルク〉を放り込む。

 エルヴィアは〝悪魔の手〟で敵を足止めする役回りだ。


 「最初が肝心だ――準備はいいな?」

 

 カルスとアニスが前に出る。

 その後に残りのふたりが続く。


 石のアーチを潜り広間へと入ると、再びあの不気味な詠唱が聞こえる。

 「怯むなよ。まずは蠕虫(ワーム)を落ち着いて処理するんだ」


 空間が歪む。

 邪神の顕現だ。


 周囲には、再び蠕虫(ワーム)の群れが出現する。

 昨日は、奥の大物に目がいって、蠕虫(ワーム)の存在に気づけなかった。

 しっかりと段取りを組んだ今なら、きっと上手くやれる。


 「いくぞッ――」


 カルスが先に仕掛ける。

 それを合図に、アニスも動く。


 剣の斬撃が、蠕虫(ワーム)をなぎ払う。

 アニスは姿を消しては現れ、散らばった虫達を的確に突き刺していく。


 急襲を受けた蠕虫(ワーム)の群れは、のたうち回り、崩れていった。


 「いいぞ、効果ありだ!」


 カルスの叫びに、全員の士気が上がる。

 エルヴィアは正面に鎮座する大物を見据え、ナイフを握りしめた。


 「なるべく早めに決着をつけましょう――」

 パリオは鋭い目つきだ。

 右手には、ガラス瓶。

 ポーションの空き瓶に、毒液を集めたのだ。


 大物が、ずるりと動き出す。

 見た目は恐ろしいが、動きはさして速くはない。


 「今です!」

 

 パリオが叫ぶと同時に、エルヴィアはナイフで指を切る。

 傷に指輪を押し当てると、影から〝悪魔〟が飛び出した。


 「いけいけッ……!」

 アニスの祈るような声が響く。

 取り巻きの蠕虫(ワーム)はもう、殆ど片付いたようだ。


 黒い衝撃が(ほどばし)り、巨大な魔物を捕らえる。

 だが、このまま〝悪魔の手〟に攻撃させてしまえば、昨日の二の舞いだ。


 「パリオ! 毒を投げろ!」


 カルスが叫ぶが――

 

 パリオは、躊躇している。

 〝悪魔の手〟と巨大な魔物が激しく揉み合っていて、狙いが定まらないのだろう。

 一度のチャンスで、決め切らなければ勝機はない――


 「パリオ! 今、やるしかない、奴が強化する前に!」


 好機を待っていたパリオだが、とうとう前方へ走り、毒の瓶を放り投げた。

 しかし――


 「くっ、外したか!」


 ガラス瓶は魔物の牙に当たり、そのまま跳ね返って床へ転がった。

 こぼれた毒が、取り返しのつかなさを物語っていた。


 だが――


 「諦めるな!」


 カルスが猛然と走り出す。

 落ちた瓶を拾い上げ、底に残った毒で剣を濡らす。

 そしてそのまま、魔物へと突進していく。


 直接、毒の剣で斬り込むつもりだ。

 しかし、あの巨体に接近しすぎるのは危険だ――

 それでも、カルスの足は止まらない。


 「カルス!」

 アニスの叫びが響く。


 カルスは、毒に塗れた剣を、魔物の口の端へ突き立てる。

 そのまま深く突き刺し、体重をかけて抉る。


 魔物は苦悶の声を上げた。

 そのままカルスを突き飛ばし、身をよじらせる。


 (どうか、そのまま――)


 エルヴィアは、魔物が毒で絶命することを祈った。

 しかし、魔物はまだ激しくもがき、〝悪魔の手〟と格闘している。

 毒の量が足りなかったか――


 カルスは倒れたまま、動かない。

 突き飛ばされて、負傷したのか――?


 次の瞬間、宙空に黒い影が現れた。


 「死ねえッ!」


 アニスだ。

 彼女の手には、いつの間にか、毒草――

 〈呪いのミルク〉の束が握られている。

 それを、全て魔物の口の中へ投げ入れた。


 魔物の口内に、猛毒の花束が落ちる。

 紫色の花を噛んだ魔物は、狂ったように悶え苦しみ――

 やがて、獣の断末魔のような声が広間にこだました。


 巨大な魔物は、もはや元の形を成していなかった。

 肉片は溶け落ち、無数の歯や牙も、ボロボロに砕けてしまった。


 魔物は――朽ちた。


 「カルスッ!」


 アニスが、倒れているカルスへ駆け寄る。

 彼女がカルスを腕に抱き留めると――

 「いけない、毒にやられてる!」


 毒の飛沫を浴びてしまったのか?


 パリオは我に返り、大声で指示を出す。

 「外へ運びましょう! エルは治療の用意を!」


 エルヴィアは広間の外へと走る。

 少し遅れて、カルスを抱えたパリオが早足でアーチを潜る。

 

 通路にカルスを寝かせ、ポーチから解毒薬を取り出す。

 (ネラの特別製――きっと助かるはず)


 ふと、広間の方を見る。

 巨大な魔物の残骸の側に、アニスが立っている。


 (なにをしているの――?)


 突然、アニスの身体が赤く光った。

 彼女は、まるで神を迎えるように、両腕を開く。


 そして、広間の外にまで、狂気を帯びた絶叫が響いた。

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