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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第3章「黄昏の剣」

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5 小さな記憶

エルヴィア達は、地下遺跡の神殿で魔物と戦うも、撤退を余儀なくされる

 地下の魔物との戦いは、思わぬ苦戦を強いられた。

 アニスが形勢不利と判断し、遺跡の入口まで退却した。


 彼女の話によると――

 一度挑んだ時も、傷は負わせたものの、なぜか相手の勢いが増し、とても太刀打ちできなかったそうだ。


 「あれもまた、不死の存在なのか?」

 カルスが尋ねる。


 「そんなはずない……この世で不死の存在は、吸血鬼(ヴァンパイア)だけのはずよ」


 アニスは口惜しそうな顔だ。


 「あの小さい蠕虫(ワーム)も、何度斬っても蘇ってきた。そんな魔物、聞いたこともない」

 カルスも眉をひそめている。

 

 あの魔物が一体どんな存在なのかも重要だが――

 とにかく一番知りたいのは、その倒し方だ。


 「考え方を変えてみましょう」

 パリオが切り出す。

 「〝殺せない〟のではなく、〝殺し方が違う〟のかもしれません」


 殺し方――

 さっきは、剣や鎚矛(メイス)、〝悪魔の手〟で戦った。

 

 「つまり、斬る、刺す、殴る、のような方法じゃなく、別のやり方なら倒せるかもしれない、ということ?」

 エルヴィアの言葉に、パリオはゆっくり頷いた。


 「別のやり方、か――」

 カルスが虚空を見つめる。


 「さっきの、火を起こす魔術――あれはどう?」

 アニスが提案する。

 「試す価値はありますが……小物相手はいいとして、大物を燃やすほどの火力は出せないというのが正直な所です」


 大物。

 あれほどの巨体、仮に剣で殺せるとしても、仕留めるのに難儀するだろう。

 小さい者が勝る、そんな戦術――


 「――毒だ」


 カルスが呟く。

 「毒ならば、傷から侵入して体中に回る。内側から壊すのは、大物を狩る時の常套手段だ」


 確かに、それは名案だ。

 ただ、今は毒など用意していない。


 「その毒を、どうやって調達するの? その辺に、毒蛇でもいればいいけど」

 アニスの疑問は、もっともだ。


 皆、黙り込んでしまう。

 毒――

 毒はどこに?


 『これ、〝猛毒〟があるから無闇に触らないようにね』


 ふと、ネラの声がよぎった。

 森でポーションの材料を採取していた時の――


 「植物よ」


 エルヴィアは思い出した。

 サルディアの森には〈呪いのミルク〉という毒草が生えていたのだ。


 「根や茎を切ると、ミルクのような白い毒液が採れるの。少量で牛も殺せるほどの猛毒だと、ネラが言っていたわ」


 〈呪いのミルク〉を剣に塗って斬りつければ、倒せるかもしれない。


 「よい考えですが、その〈呪いのミルク〉は、この辺に生えているのですか?」

 パリオが近くの林を見つめる。


 「いや、探してみよう。どの道、今やれることはそのくらいだ」

 カルスは、エルヴィアの提案に乗り気だ。


 「少しでも効き目がありそうなら、ネラに頼んで濃縮した毒薬を譲ってもらってもいいと思うわ。時間はかかるけれど……」

 

 エルヴィアが言うと、

 「そんなに待てないわ。探すなら早く行きましょう」

 と、アニスは待ちきれない様子で立ち上がった。


    †


 林や森を歩き回るうち、辺りは黄金色の光に包まれていた。

 

 もうすぐ暗くなる。

 夜の森は、ただでさえ危険だし、ここはモルディレインだ。

 どんな魔物が現れるか、見当もつかない。


 「なかなか見つからないわね」

 アニスは、かなり焦れている。

 「やっぱり、毒蛇でも探した方が――」


 ふと、赤い実が目に留まった。


 野イチゴだ。

 ネラとよく森で摘んだ、ポーションの素材。

 〈呪いのミルク〉が生えていたのも、その近くだったはずだ。


 「――あった!」


 野イチゴの脇に、いかにも毒々しい紫色の花が咲いている。

 とうとう〈呪いのミルク〉を見つけた。

 

 「千切らないように、慎重に根を引き抜いて。茎を傷つけなければ、毒が染み出したりはしないはず」


 四人は手袋をして、毒草を集めた。

 この場にある分だけで、結構な量を採取できた。


 「毒には嫌な思い出があるわ――」

 アニスがふと、渋い顔で呟いた。

 「蛇の毒で、三日三晩、苦しんだことがあった。あの時ほど、不死の体を恨んだことはないわね」


 想像するだけで、恐ろしい話だ。

 死ねないというのは、どんな気持ちなのだろう。


 「あんなに辛かったのに、すっかり忘れてた。毒のことは、私が真っ先に思いつくべきだったわ」

 

 アニスは、赤く染まった空を見上げている。

 「なんだか、上手くいきそうな気がしてきた……他人と共闘するのも、思ったより悪くないわね」

 

 また、モルディレインの日が暮れる。

 遺跡の近くまで戻り、四人は急いで野営の準備をした。

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