5 小さな記憶
エルヴィア達は、地下遺跡の神殿で魔物と戦うも、撤退を余儀なくされる
地下の魔物との戦いは、思わぬ苦戦を強いられた。
アニスが形勢不利と判断し、遺跡の入口まで退却した。
彼女の話によると――
一度挑んだ時も、傷は負わせたものの、なぜか相手の勢いが増し、とても太刀打ちできなかったそうだ。
「あれもまた、不死の存在なのか?」
カルスが尋ねる。
「そんなはずない……この世で不死の存在は、吸血鬼だけのはずよ」
アニスは口惜しそうな顔だ。
「あの小さい蠕虫も、何度斬っても蘇ってきた。そんな魔物、聞いたこともない」
カルスも眉をひそめている。
あの魔物が一体どんな存在なのかも重要だが――
とにかく一番知りたいのは、その倒し方だ。
「考え方を変えてみましょう」
パリオが切り出す。
「〝殺せない〟のではなく、〝殺し方が違う〟のかもしれません」
殺し方――
さっきは、剣や鎚矛、〝悪魔の手〟で戦った。
「つまり、斬る、刺す、殴る、のような方法じゃなく、別のやり方なら倒せるかもしれない、ということ?」
エルヴィアの言葉に、パリオはゆっくり頷いた。
「別のやり方、か――」
カルスが虚空を見つめる。
「さっきの、火を起こす魔術――あれはどう?」
アニスが提案する。
「試す価値はありますが……小物相手はいいとして、大物を燃やすほどの火力は出せないというのが正直な所です」
大物。
あれほどの巨体、仮に剣で殺せるとしても、仕留めるのに難儀するだろう。
小さい者が勝る、そんな戦術――
「――毒だ」
カルスが呟く。
「毒ならば、傷から侵入して体中に回る。内側から壊すのは、大物を狩る時の常套手段だ」
確かに、それは名案だ。
ただ、今は毒など用意していない。
「その毒を、どうやって調達するの? その辺に、毒蛇でもいればいいけど」
アニスの疑問は、もっともだ。
皆、黙り込んでしまう。
毒――
毒はどこに?
『これ、〝猛毒〟があるから無闇に触らないようにね』
ふと、ネラの声がよぎった。
森でポーションの材料を採取していた時の――
「植物よ」
エルヴィアは思い出した。
サルディアの森には〈呪いのミルク〉という毒草が生えていたのだ。
「根や茎を切ると、ミルクのような白い毒液が採れるの。少量で牛も殺せるほどの猛毒だと、ネラが言っていたわ」
〈呪いのミルク〉を剣に塗って斬りつければ、倒せるかもしれない。
「よい考えですが、その〈呪いのミルク〉は、この辺に生えているのですか?」
パリオが近くの林を見つめる。
「いや、探してみよう。どの道、今やれることはそのくらいだ」
カルスは、エルヴィアの提案に乗り気だ。
「少しでも効き目がありそうなら、ネラに頼んで濃縮した毒薬を譲ってもらってもいいと思うわ。時間はかかるけれど……」
エルヴィアが言うと、
「そんなに待てないわ。探すなら早く行きましょう」
と、アニスは待ちきれない様子で立ち上がった。
†
林や森を歩き回るうち、辺りは黄金色の光に包まれていた。
もうすぐ暗くなる。
夜の森は、ただでさえ危険だし、ここはモルディレインだ。
どんな魔物が現れるか、見当もつかない。
「なかなか見つからないわね」
アニスは、かなり焦れている。
「やっぱり、毒蛇でも探した方が――」
ふと、赤い実が目に留まった。
野イチゴだ。
ネラとよく森で摘んだ、ポーションの素材。
〈呪いのミルク〉が生えていたのも、その近くだったはずだ。
「――あった!」
野イチゴの脇に、いかにも毒々しい紫色の花が咲いている。
とうとう〈呪いのミルク〉を見つけた。
「千切らないように、慎重に根を引き抜いて。茎を傷つけなければ、毒が染み出したりはしないはず」
四人は手袋をして、毒草を集めた。
この場にある分だけで、結構な量を採取できた。
「毒には嫌な思い出があるわ――」
アニスがふと、渋い顔で呟いた。
「蛇の毒で、三日三晩、苦しんだことがあった。あの時ほど、不死の体を恨んだことはないわね」
想像するだけで、恐ろしい話だ。
死ねないというのは、どんな気持ちなのだろう。
「あんなに辛かったのに、すっかり忘れてた。毒のことは、私が真っ先に思いつくべきだったわ」
アニスは、赤く染まった空を見上げている。
「なんだか、上手くいきそうな気がしてきた……他人と共闘するのも、思ったより悪くないわね」
また、モルディレインの日が暮れる。
遺跡の近くまで戻り、四人は急いで野営の準備をした。




