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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第3章「黄昏の剣」

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4 邪なる神秘

〈神の遺物〉を求め、闇ギルドの一行と混血種(ダンピール)のアニスは地下遺跡へ向かう

 エルヴィア達はキャンプで夜を明かし、〈神の遺物〉の在り処を目指した。


 半日ほど歩くと、やがて朽ちた石造りの建造物が見えてきた。

 前に見た遺跡とは、だいぶ雰囲気が違う。

 どことなく原始的で、不気味な外観だった。


 「この遺跡の奥よ」

 アニスが入口の方へ向かう。


 「待て、灯りを用意する――」

 カルスが目配せすると、パリオが首から下げた飾りを手に取った。


 「火を与えよ(トゥ=ハーダ)

 パリオが首飾りをかざすと、空中に火の玉が現れる。

 その火にカルスが松明を触れさせ、火を灯した。


 光と火の神「ゼリア」の加護だ。

 あの〈聖印〉から火を呼べるのは、聖職者の中でも高位の者と聞く。


 「それも〈神の遺物〉というわけ?」

 アニスが継がれる火を見ながら訊いた。


 「似てはいますが、〈遺物〉に比べれば、ささやかな物ですよ」

 パリオはそう言うが、〝悪魔の手〟などよりは、人の身に相応しいとエルヴィアは思った。


    †


 遺跡に入るとすぐに、地下へ続く階段が姿を現した。


 相変わらず、先を行くのはアニスだ。

 暗がりでも周りが見えるらしく、後ろの三人を気にせず、どんどん進んでいく。


 「魔物は……いないの?」

 エルヴィアが尋ねると、

 「道中にはいないはず。〝奴〟は一番奥にいるわ」


 アニスが言っていた〝強力な魔物〟のことか。

 一体、どんな姿なのだろう。


 進むにつれて、少しずつ周囲が明るくなってきた。

 壁や柱を見ると、所々が白く発光している。


 三人は警戒しながら、アニスの後を追った。


 「――この奥に、いるわ」


 アニスが足を止める。

 石造りのアーチの奥に、一際広い空間が見える。

 周囲をよく見ると神殿のような構造で、荘厳な雰囲気に包まれている。


 「面白い……古代の祭祀場のようなものでしょうか」

 パリオは近くの柱に手を触れて呟く。

 「緊張感のない男ね。油断してるとすぐ死ぬわよ」


 カルスは、壁に設置されていた燭台に松明を立て、剣を両手に携える。

 パリオも鎚矛(メイス)を構え、エルヴィアはナイフを取り出す。


 四人はアーチを潜り、奥へと進んだ。


 天井が高い。

 一体、何者が、どうやって建てたのだろう。


 「――魔物はどこだ?」

 カルスの声が広間に反響する。


 「今――現れるわ」


 目の前の空間が、歪んだ気がした。

 そして、その直後――


 頭の中に直接、聞き取れない言葉が響いた。

 それは祈りのようであり、呪詛のようでもあった。


 「どうなってるッ?」


 空間はさらに歪み、やがて見たこともない形に収束する。


 巨大な口を持つ化け物。

 鋭い歯が幾重にも重なっている。

 体表にも、おびただしい数の牙が生えているが、目や鼻はない。

 無惨に引き裂かれた肉塊のような、禍々しい姿。


 ――まるで、邪神の降臨だ。

 この醜い、悪夢のような光景に、エルヴィアは息をのんだ。


 「おい、気をつけろッ」


 カルスがすぐ横で剣を振るう。

 その切先には、小さな化け物が突き刺さっていた。

 

 それは、鋭い牙を持つ蠕虫(ワーム)のような姿をしていた。

 周囲を見回すと、同じような虫が群れを成して迫ってくる。


 パリオも鎚矛(メイス)で応戦している。

 「小物は我々が! エルは指輪で、奥の大物を頼みます!」


 相手は〝本当の魔物〟だ――

 前に遭遇したイノシシやネズミとは、わけが違う。


 エルヴィアの足は震えた。


 「どうしたの? 〈遺物〉の力を見せなさい!」


 アニスの声で、我に返る。 

 ――戦わなくては。


 ナイフで指を切る。

 滲む鮮血を、指輪へ与える。


 (魔物を打ち倒せ、〝悪魔〟よ――)


 エルヴィアの影から、漆黒が溢れる。

 それは真っ直ぐに巨大な魔物へと突き進む。


 〝悪魔の手〟が、魔物を貫く。

 そして、鋭い爪が幾度も体表を掻きむしる。

 魔物はただ、その猛撃を一身に浴びている。


 このままいけば、倒せる。

 しかし――


 「おかしいぞ」

 小さい蠕虫(ワーム)と戦うカルスが、声を上げた。

 「こいつら……斬っても死なん!」

 

 見れば、斬り伏せたはずの蠕虫(ワーム)が、再び動き出している。

 そして、奥の大きな魔物を見ると――


 〝悪魔の手〟が圧倒していたはずが、まるで倒れる気配がない。

 切り裂かれた傷口からは、不気味に蠢く無数の〝歯〟が覗いている。


 傷が――()()()()()

 

 その醜怪な姿に、背筋が凍る。


 歯に覆われた巨体が、〝悪魔の手〟を引きずりながら、こちらに迫る。

 カルス達は、未だ蠕虫(ワーム)の群れに苦戦している。 


 このままでは、押し負けてしまう――


 「〈遺物〉の力ですら、殺せないですって……?」


 アニスが歯噛みする。

 そして、突然に姿を消すと、後方から大声で叫んだ。


 「戻って! 撤退よ!」


 皆が一斉に出口へ走る。


 群がる蠕虫(ワーム)達を避けながら、アーチを目指す。

 背後からは、おぞましい咆哮が聞こえる。

 エルヴィアは、振り返らずにアーチの下を突っ切った。


 「クソッ! 化け物め!」

 アニスは、苛立ちを吐き捨てた。

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