4 邪なる神秘
〈神の遺物〉を求め、闇ギルドの一行と混血種のアニスは地下遺跡へ向かう
エルヴィア達はキャンプで夜を明かし、〈神の遺物〉の在り処を目指した。
半日ほど歩くと、やがて朽ちた石造りの建造物が見えてきた。
前に見た遺跡とは、だいぶ雰囲気が違う。
どことなく原始的で、不気味な外観だった。
「この遺跡の奥よ」
アニスが入口の方へ向かう。
「待て、灯りを用意する――」
カルスが目配せすると、パリオが首から下げた飾りを手に取った。
「火を与えよ」
パリオが首飾りをかざすと、空中に火の玉が現れる。
その火にカルスが松明を触れさせ、火を灯した。
光と火の神「ゼリア」の加護だ。
あの〈聖印〉から火を呼べるのは、聖職者の中でも高位の者と聞く。
「それも〈神の遺物〉というわけ?」
アニスが継がれる火を見ながら訊いた。
「似てはいますが、〈遺物〉に比べれば、ささやかな物ですよ」
パリオはそう言うが、〝悪魔の手〟などよりは、人の身に相応しいとエルヴィアは思った。
†
遺跡に入るとすぐに、地下へ続く階段が姿を現した。
相変わらず、先を行くのはアニスだ。
暗がりでも周りが見えるらしく、後ろの三人を気にせず、どんどん進んでいく。
「魔物は……いないの?」
エルヴィアが尋ねると、
「道中にはいないはず。〝奴〟は一番奥にいるわ」
アニスが言っていた〝強力な魔物〟のことか。
一体、どんな姿なのだろう。
進むにつれて、少しずつ周囲が明るくなってきた。
壁や柱を見ると、所々が白く発光している。
三人は警戒しながら、アニスの後を追った。
「――この奥に、いるわ」
アニスが足を止める。
石造りのアーチの奥に、一際広い空間が見える。
周囲をよく見ると神殿のような構造で、荘厳な雰囲気に包まれている。
「面白い……古代の祭祀場のようなものでしょうか」
パリオは近くの柱に手を触れて呟く。
「緊張感のない男ね。油断してるとすぐ死ぬわよ」
カルスは、壁に設置されていた燭台に松明を立て、剣を両手に携える。
パリオも鎚矛を構え、エルヴィアはナイフを取り出す。
四人はアーチを潜り、奥へと進んだ。
天井が高い。
一体、何者が、どうやって建てたのだろう。
「――魔物はどこだ?」
カルスの声が広間に反響する。
「今――現れるわ」
目の前の空間が、歪んだ気がした。
そして、その直後――
頭の中に直接、聞き取れない言葉が響いた。
それは祈りのようであり、呪詛のようでもあった。
「どうなってるッ?」
空間はさらに歪み、やがて見たこともない形に収束する。
巨大な口を持つ化け物。
鋭い歯が幾重にも重なっている。
体表にも、おびただしい数の牙が生えているが、目や鼻はない。
無惨に引き裂かれた肉塊のような、禍々しい姿。
――まるで、邪神の降臨だ。
この醜い、悪夢のような光景に、エルヴィアは息をのんだ。
「おい、気をつけろッ」
カルスがすぐ横で剣を振るう。
その切先には、小さな化け物が突き刺さっていた。
それは、鋭い牙を持つ蠕虫のような姿をしていた。
周囲を見回すと、同じような虫が群れを成して迫ってくる。
パリオも鎚矛で応戦している。
「小物は我々が! エルは指輪で、奥の大物を頼みます!」
相手は〝本当の魔物〟だ――
前に遭遇したイノシシやネズミとは、わけが違う。
エルヴィアの足は震えた。
「どうしたの? 〈遺物〉の力を見せなさい!」
アニスの声で、我に返る。
――戦わなくては。
ナイフで指を切る。
滲む鮮血を、指輪へ与える。
(魔物を打ち倒せ、〝悪魔〟よ――)
エルヴィアの影から、漆黒が溢れる。
それは真っ直ぐに巨大な魔物へと突き進む。
〝悪魔の手〟が、魔物を貫く。
そして、鋭い爪が幾度も体表を掻きむしる。
魔物はただ、その猛撃を一身に浴びている。
このままいけば、倒せる。
しかし――
「おかしいぞ」
小さい蠕虫と戦うカルスが、声を上げた。
「こいつら……斬っても死なん!」
見れば、斬り伏せたはずの蠕虫が、再び動き出している。
そして、奥の大きな魔物を見ると――
〝悪魔の手〟が圧倒していたはずが、まるで倒れる気配がない。
切り裂かれた傷口からは、不気味に蠢く無数の〝歯〟が覗いている。
傷が――生きている?
その醜怪な姿に、背筋が凍る。
歯に覆われた巨体が、〝悪魔の手〟を引きずりながら、こちらに迫る。
カルス達は、未だ蠕虫の群れに苦戦している。
このままでは、押し負けてしまう――
「〈遺物〉の力ですら、殺せないですって……?」
アニスが歯噛みする。
そして、突然に姿を消すと、後方から大声で叫んだ。
「戻って! 撤退よ!」
皆が一斉に出口へ走る。
群がる蠕虫達を避けながら、アーチを目指す。
背後からは、おぞましい咆哮が聞こえる。
エルヴィアは、振り返らずにアーチの下を突っ切った。
「クソッ! 化け物め!」
アニスは、苛立ちを吐き捨てた。




