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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第3章「黄昏の剣」

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2 夜に潜む者達

 カルスに取り押さえられた女は、もう抵抗する素振りを見せなかった。


 「なぜ、〈遺物〉の力を求めるの……?」


 エルヴィアの問いに、女は小さく答えた。

 「ディードルグに、〝夜〟が来る――」


 夜――

 あの妖精(ニンフ)の言葉を思い出す。


 『いずれ深い夜が支配するだろう』


 その〝夜〟とは、なにを意味するのか。


 「順を追って話してくれる?」

 エルヴィアの求めに、女は静かに頷いた。


 ――始めに、女は自らを「灰狼」と名乗った。


 それは、カルスも聞いていた名前らしい。

 灰狼は、ディードルグ伯に取り入って、諜報や連絡役を担っていたという。


 「ディードルグ城伯――『ブラード・ドンサルオ』は傲慢で、そのくせ臆病な男だった」


 ドンサルオ家は、元は商人の家系だ。

 金で貴族の位を買った、ともいわれている。


 「金払いはよかったし、人脈もあったから、色々と利用させてもらったけどね」

 灰狼の目に、少しずつ生気が戻り始めた。


 「なぜ、ディードルグ城伯に近づいたのです?」

 パリオが尋ねると、灰狼は少し険しい表情に変わる。


 「――初めは偶然だった。ディードルグの森に入った時、微かな〝臭い〟がした」


 それは〝夜の魔〟の臭いだという。

 夜の魔とは、すなわち〈吸血鬼(ヴァンパイア)〉のことだと灰狼は言った。


 「そこの坊主は勘づいたようだけど、私は、その吸血鬼(ヴァンパイア)の血を引く者だ」


 あの妙な力――

 煙のように消え、いつの間にかエルヴィアの背後に回った。

 あれは吸血鬼(ヴァンパイア)の能力なのだろう。


 「ディードルグの城の近くは、妙に〝夜の臭い〟が強かった。そこに吸血鬼(ヴァンパイア)が出入りしていることが分かるくらいにね」


 仲間を見つけたから城に潜り込もうとしたのか?

 エルヴィアが疑問を口にすると、灰狼は首を振った。


 「逆よ――〝敵〟を見つけたから」


 どういう意味だ?


 「私は、吸血鬼(ヴァンパイア)と人間、〝両方の血〟を宿す者。双方に忌み嫌われる存在」

 「ふむ――世にも珍しい、混血種(ダンピール)というわけですか」

 パリオが灰狼を奇異の目で見つめる。


 灰狼はその視線を、いかにも疎ましげに受け止める。

 「私の目的は、〝夜の魔〟を滅ぼすこと。この手で、あの忌まわしい血を必ず、根絶やしにする」


 「そのために〈神の遺物〉が必要、ということね?」

 エルヴィアが訊くと、灰狼は「そうよ」と答え、横を向いた。


 「ということは――」

 黙って聞いていたカルスが口を開く。

 「今、ディードルグ城は、その吸血鬼(ヴァンパイア)の住処になっているのか?」


 灰狼は、短い溜息をつく。

 「それは分からない。〝臭い〟が濃くなってから城を離れたから」


 「なぜ、急にディードルグを離れた?」

 再びカルスが問う。

 「だから、〈遺物〉を手に入れるためよ。色々と探っているうちに、東の地のとある場所に、それがあることを突き止めたの」


 しかし、灰狼は〈遺物〉を手にしてはいないようだ。

 在り処は分かっても、たどり着けないということか。


 「仮にディードルグが吸血鬼(ヴァンパイア)の手に落ちたとして――」

 パリオが落とした武器を拾いながら言う。

 「そこを足がかりに、エルオリド全体に侵攻してくることも、当然あると?」


 それは――途方もない脅威だ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)は不死の存在。

 そんなものに狙われたら、人間はひとたまりもない。


 「それは困りましたね――」

 パリオが腕を組む。

 「さしずめ、吸血鬼(ヴァンパイア)は我らの共通の敵、ということですか」


 「勘違いしないでほしいんだけど」

 灰狼は、微かな侮蔑を込めて笑う。

 「私は人間のために奴らを打倒するんじゃない。全ては自分のためよ」


 雨が小降りに変わる。

 エルヴィアは、フードを上げ、灰狼を真っ直ぐ見つめる。


 琥珀色の瞳。

 

 その目が語るのは――

 孤独、失望、怒り?

 

 まるであの日の、ベルアシーリアのような――

 

 「私たちと、共闘するつもりはない?」


 相手が応じるとは思わなかった。

 しかし、なぜだか勝手に言葉が口をついた。


 「共闘?」

 灰狼も、こちらの目を見据える。

 「利用、の間違いじゃない?」


 エルヴィアは一歩前に出る。

 「そう思うなら、あなたも私たちを利用すればいい」

 「なら、その指輪を寄越しなさい」

 「これは本当に外せない。私も、この指輪のことは殆ど知らないのよ」


 短い沈黙――

 灰狼がそれを破る。


 「考えてもいい……ただし、条件がある」

 「なに?」

 「私が見つけた〈神の遺物〉を手に入れるために、力を貸しなさい」


 雨が上がる。

 微風が吹き、濡れた髪をあおる。


 「分かったわ」


 彼女は、深い闇を生きている。

 死ぬことも許されずに――


 『我々は、虐げられ、蔑まれ、翻弄される全ての者の同胞(はらから)だ』

 カルスは、そう言っていた。


 灰狼――彼女もまた、その同胞となり得るだろうか?


 「私はエル――あなたの、本当の名前は?」


 灰狼は躊躇したが、やがて告げる。


 「私は……アニス」

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