表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第2章「外の世界へ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/44

10 暗雲の前触れ

エルヴィアはカルス、パリオと共に再び東の地を目指す

 砦の町に着いた三人は、隠れ家に荷物を置き、探索の準備を進めた。


 エルヴィアは、鍛冶屋を尋ねた。

 鍛冶場では、相変わらず無愛想な顔の店主が、赤い塊をハンマーで叩いている。


 「あの……」


 声をかけたが、返事はない。


 「あの、すみません」

 「仕事中に声をかけるんじゃねえ」


 静かな迫力に、腰が引けてしまう。

 しかし、その後すぐに、

 「買い物なら、ウチのが帰ってくるまで待ってな――」

 と、こちらを見もせずに言った。


 店主から離れて待っていると、その伴侶らしき中年の女が帰ってきた。


 「あれま、お客さんかい? なにをやってんだい、ウチの朴念仁は」

 エルヴィアが用件を告げると、女は親切に耳を傾けてくれた。

 

 「あんたに合いそうな武器ねえ……あまり力はなさそうだね。まあ、大げさな武器よりは、旅杖くらいが丁度いいんじゃないかね」


 女は棚に飾られた杖を手に取った。

 「これは頑丈な樫の杖で、持ち手は金属だ。いざとなれば武器にもなるよ」

 

 杖を持たせてもらって、重さや質感を確認してみる。

 確かに、慣れない武器よりは取り回しも良さそうだ。


 エルヴィアは勧められた杖を購入し、鍛冶屋を後にした。


    †


 「この町にやってくる他所の兵士だが、やはりディードルグの者だった」


 カルスは町で支度をしながら聞き込みをしていたようだ。

 「ここ数日で、四、五人は来たそうだ。雇ってほしいと懇願され、オリド・ガードも対応に困っているらしい」


 「ううむ、まず間違いなく、なにかあったでしょうな」

 パリオが鎚矛(メイス)の手入れをしながら言う。


 「いずれは南方に出向く必要もありそうだが……まずは妖精(ニンフ)に話を聞かねば」

 カルスも、細々とした持ち物を確認している。


 エルヴィアは、ポーションや食料を、腰のポーチや革袋に収納する。

 一度、通った道とはいえ、油断はできない。

 素早く〝力〟を使えるように、ナイフの位置を何度も確認した。


    †


 三人は隠し通路を抜け、遺跡の石の輪からゴーレムと戦った場所まで来た。


 「これがそのゴーレムの残骸ですか」

 パリオが散らばった石塊をまじまじと見る。

 「あの石の輪といい、古代人の技術は一度、時間をかけて調べたいところです」


 カルスが「急ごう」と声をかけると、パリオは名残惜しそうにその場を離れた。


 雨が外套を濡らし始めた。

 これが大降りに変わったら、妖精(ニンフ)は泉を離れてしまうかもしれない。


 クロークのフードを被る。

 この雨に紛れて、獣や魔物が襲ってこないだろうかと、少し不安になる。

 それはカルスやパリオも同じらしく、しきりに周囲を見回していた。


 ふと、先を行くカルスの足が止まる。


 「誰だ――?」


 行く手に、人の姿がある。

 その人物は、カルスの前まで来ると、歩みを止めた。


 カルスよりは背が低い。エルヴィアと同じくらいか――

 線の細さから、少年か女に見えた。

 

 「その声……」

 見知らぬ人物が口を開く。

 その声色は女のものに聴こえた。

 「どこかで聞いたと思ったら、お前か」


 何者だ?

 どうやら、カルスとは面識があるようだが――


 「今までどこへ? なぜ、こんな場所にいる?」

 カルスが尋ねる。

 その声が語っているのは、心配というより純粋な疑問だった。


 「野暮用だ――そっちこそ、なぜ東の地まで来ている? やはり辺境伯の手駒だったのか?」


 わずかな緊張の糸が、少しずつ張り詰める。

 カルスの後ろにいたパリオが、すっと前に出た。


 「お知り合いですか?」

 パリオが尋ねる。

 「彼女は――消えたディードルグ伯の仲介役だ」

 

 女は、フードの隙間から琥珀色の瞳だけを覗かせている。

 珍しい瞳の色だ。


 「なぜ突然、行方をくらました? ディードルグでなにが起こっている?」

 「さあ――自分で調べてみたら?」


 首巻きで口元を隠している。

 なにも語らぬ、という意思を示しているように見えた。


 「この先に妖精(ニンフ)がいただろう。その者を追ってきたのか?」

 「質問ばかりね……お前には関係ない」

 

 女はエルヴィアに視線を移す。

 その目が――光ったような気がした。


 「知りたいことがあるなら、先に有益な情報を出すべきよ……」

 女は一歩前に踏み出し、灰色の空を仰ぐ。

 「ここは〈マナ〉が濃いな――」


 その刹那。


 女の姿が、本当に、煙のように消えた。

 そして(まばた)きをする間もなく――


 エルヴィアは身体の自由を奪われていた。


 「なっ……」

 背後から口元を押さえられる。

 「動くな! お前達もだ!」


 一体、いつの間に後ろに――?

 

 「少しでも動いたら、こいつを殺す」

 首に、冷たいものが当たる。

 ダガーだ。


 「なんの真似だ?」

 振り向いたカルスは、腰の武器に手を当てたまま動かない。

 パリオも同様だ。


 「さっきも言ったでしょ」

 女の手の力が強まる。

 「〝有益な情報〟を寄越しなさい」


 雨は降り続いている。

 女の息が、耳元にかかる。

 その息は――とても冷たかった。


 「なにが知りたい……?」

 カルスが尋ねる。


 「まずは、武器を捨てなさい」


 女の要求に答え、ふたりは武器を地面に落とす。


 「いいわ……じゃあ、最初の質問」

 ダガーの刃先が、首筋をくすぐる。


 「その指輪――〈神の遺物〉ね?」


 †††


 第2章「外の世界へ」終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ