9 再会と決断
初めての探索を終え、エルヴィアはネラと共に闇ギルドの隠れ家へ帰る
「いやはや、近頃は商売にも難儀しますね」
サルディアの隠れ家の地下――
パリオが下りてくるなり、独り言のようにこぼした。
「前にも増して、ポーションの粗悪品が出回ってまして。このままでは安物に押し負けてしまいますな」
奥でポーションを精製していたネラが、首だけを覗かせる。
「こっちはちゃんと〝効く〟ヤツを作ってるのにぃ。パリオの売り込みが下手っぴなんじゃないのぉ?」
「いえ、これは市場原理の問題でして――」
パリオは金袋をテーブルに置いた。
その音や膨らみ具合から、かなり入っているように感じた。
「ここに、ネラの取り分を置いておきますよ」
早速、気になっていたことを尋ねる。
「ヴァーガルト卿、この青い石がなにか、知っていますか?」
エルヴィアの手に光る宝石を見たパリオは、感心したような面持ちで答える。
「ほう、これは恐らく〈トラーハ・ジェム〉ですね……どこでこれを?」
モルディレインで遭遇したゴーレムのことを伝えると、パリオはやけに大げさな反応を見せた。
「なるほど……まず間違いなく、〈古代人〉の仕業でしょうね」
「古代人、ですか」
「ええ。〈トラーハ・ジェム〉を用いて石造りのゴーレムを動かすなど、〈教会〉の司祭や魔術師にも不可能でしょう」
古代人の魔術など、御伽噺と思っていたが――
「しかし、あなた方は現実に見たのでしょう? ならばそういった技術も存在するということです。良い知見を得ましたね」
気づけば、ネラがいつの間にかテーブルの前に来ていた。
「思ったより少ないなぁ……」
「最近は戦や大規模な遠征もないですからね。ポーションの需要が落ち込んでいるんですよ」
ネラは売上に不満を感じているようだ。
三人が互いの近況を話していると、カルスが地下へ下りてきた。
「ふたりとも無事に帰ったか」
数日、顔を合わせていないだけなのに、随分と久しぶりに感じる。
先に帰ったドグやムースカリトゥとは会ったのだろうか。
「奴らから大体の報告は受けた。エルも活躍したようだな。ギルドにとっても喜ばしいことだ」
カルスはそう言うと、金袋を開いた。
「今回の報酬だ。なかなか重要な情報を持ち帰ってくれたし、取り分には多少、色をつけておく」
カルスから硬貨を受け取る。
報酬は、武器を売った金よりずっと多かった。
その金の重みは、探索という仕事の価値を語っていた。
「お前達が出会った妖精だが、ディードルグから逃げてきたと言ったそうだな」
「うん、言ってた」
ネラが金を数えながら、カルスの問いに答える。
「実は、南方が少しキナ臭い。ディードルグ城伯の仲介役と連絡が取れなくなってしまった。こちらの動きに気づかれた可能性がある」
それはつまり――〝死体の偽装〟が露見した、ということだろうか?
「それはまだ分からん。他の問題で立て込んでいる、とも考えられる」
「あ、そう言えば、妖精はディードルグに魔物が出た、みたいなこと言ってたね」
「それは俺も気になっている」
カルスは口元に手を当てて考えている。
「パリオ――西の方はどうなってる?」
「商人ギルドは、これといった動きはありませんね」
「ふむ、予想より動きが鈍いな……」
「私の感触では、商人達はまだ東方進出に本気ではないかと」
ディードルグ城伯と商人ギルドの思惑は、必ずしも一致していないのか。
「焦っているのは城伯だけなのか……」
斜め下に視線を落とし、カルスが呟く。
「――辺境伯殺しも、城伯の先走りの結果か?」
「そうかもしれませんな。やり口があまりに強引すぎる」
カルスの表情が険しさを増していく。
「一度、俺もその妖精に会ってみようと思う」
「えぇ?」
ネラは、カルスの言葉に面食らう。
「案内を頼めるか?」
「うぅん、アタシは精製があるからなぁ……」
妖精の泉から汲んだ水で、作りたいものが沢山あるらしい。
「エルはどうだ? 行けるか?」
カルスに問われ、少し考える。
前回と同じ経路を進むなら、多分やれるだろう。
準備資金にも余裕がある。
「同行します――」
エルヴィアは、短く答えた。
「私も、ご一緒してよろしいかな?」
パリオが手を上げる。
突然、どうしたのだろう。
「いやなに、偶には東方の景色を眺めるのもまた一興かと。それに――ふたりで進むには少々、危険な土地だ」
カルスは小さく鼻を鳴らした。
「では、エルとパリオに頼もう。必要なものがあれば言ってくれ」
傍らで、ネラが目を丸くしていた。
「帰って早々、また東方に? 頑張るねぇ……」




