8 旅の収穫
砦の町に帰還した闇ギルドの一行は、束の間の休息を取る
エルヴィアは砦の町で、ドグ、ムースカリトゥと別れた。
ふたりとも個人の仕事に戻るらしい。
ムースは身寄りのない亡骸を引き取る商売で、それなりに稼いでいるという。
一方で、ドグの仕事は、聞いても教えてもらえなかった。
「どうせ盗みかスリでしょ。アイツ、元は墓荒らしだったらしいよ」
ネラが松明を片付けながら言った。
もう外は暗い。
今日はこの町で一泊し、明日に馬車を探してサルディアへ帰る予定だ。
ようやく一息つけた。
探索で手に入れた武器や宝石を眺めていると――
「ね、酒場に行ってみない?」
ネラに誘われた。
「酒場――?」
「うん、探索も一応、成功したわけだしさ。打ち上げといこうよ」
肩に手を置かれる。
エルヴィアは笑って頷いた。
†
町の酒場に入るのは、もちろん初めての経験だ。
砦の町の中心の広場から、少し路地に入った辺りに酒場はあった。
店の看板には、マグに入った酒の絵が描かれている。
木の扉を開けると、中はそこそこに繁盛していた。
話し声や笑い声が飛び交っている。
ネラに腕を取られ、導かれるままに奥へ進む。
ふたりでカウンターの席に着くと、店主らしき男がこちらを見る。
「注文は?」
「ハーブエール、ふたつね」
店主が大きな樽から赤銅色の液体を注ぐ。
やがてカウンターにふたつのマグが置かれた。
「大いなる成功に――」
ネラはマグを掲げ、中身をあおった。
エルも真似をして、エールを喉に流し込む。
ハーブの刺激が強い。
屋敷で飲んでいた食前の果実酒とは、全く違う味だった。
またたく間に身体が熱を帯び、喉から鼻に抜ける呼気は燃えるようだ。
「ねえ、おっちゃん」
ネラが店主に話しかける。
「この辺で、武器を買ってくれる店ってある?」
棚に食器を戻していた店主が振り返る。
「あんた、武器商人か?」
「うぅん、ま、そんなトコ」
「武器ねぇ……オリド・ガードの兵舎に持ってったらどうだ?」
ネラは拾った武器を売るつもりらしい。
「衛兵はちょっと、面倒臭そうかなぁ……」
「なんだ、訳ありのブツか?」
「いや、そうじゃないけどさ」
ネラは、どう見ても武器を売る人間には見えない。
怪しまれていそうだが――
「この辺も最近、ゴタゴタしてるからなあ。噂では、どっかの兵士だった奴が、この町に流れてくることが増えたらしい」
「どっかって、どこ?」
「そこまでは知らんがね。こっちの駐屯に鞍替えしようって考えなのかね」
給金に不満でもあったのか。
いずれにしても、エルヴィアには兵士の事情など想像もつかない。
「衛兵もピリピリしてるから、不良品なら持っていかない方がいいぞ」
「不良品じゃないって」
「あとはそうだな、鍛冶屋で下取りしてもらう、ってのもアリかもな」
ネラは「おおっ」と声を上げ、再びエールをあおる。
「その手があったか。明日持って行ってみようかな」
その後、ひとしきり飲み食いして、隠れ家へ戻った。
探索の疲れもあり、夜は久々にぐっすりと眠ることができた。
†
「これ、どっから拾ってきた?」
翌日、町の鍛冶屋――
ガッシリとした体つきの強面の男が、射るような目でこちらを見た。
「いや、まあ、森で?」
ネラがいい加減に答えると、男は無骨な戦鎚をつぶさに調べながら尋ねた。
「最近使ったな? 新しい傷……それに血の跡もあるな。ここんとこ戦はないはずだから、大方、東の地に入った探索者の物、ってとこか」
当たっている。
全て見抜かれてしまい、ネラの眉尻が下がる。
「ねえぇ、買ってよぉ、ダメ?」
甘えたような声を出すネラに、鍛冶屋は溜息をつく。
「まあ、買ってやらんでもないがな。そっちの槍も見せてみろ」
エルヴィアは、持っていた槍を鍛冶屋へ渡した。
「今後、東の地は人で溢れるだろう。そうなれば武器や防具の価値は上がる」
「じゃあ、高く買う?」
ネラの瞳が輝く。
「いや、まだだ。まだ上がる段階じゃない。それに、こんな中古品は、どこに行っても二束三文だろうさ」
再びネラの表情が曇る。
「まあ、女だてらに東方に乗り込んで、戻ってきただけでも大したもんだ。〝それなり〟の値で引き取ってやる」
どうにか槍と戦鎚を売却できたが、売値は思ったより控えめだった。
エルヴィアは、ふと思い出して鍛冶屋に尋ねる。
「あの、この石がなにか、分かりますか?」
鍛冶屋は青い宝石を少しだけ眺める。
「宝石は専門外だ。商人か、〈教会〉の者にでも聞くんだな――」
帰りがけに鍛冶屋は『もしまた東へ行くなら、まともな武器を買っていけ』と助言か売り込みか分からない言葉を投げかけてきた。
エルヴィアとネラは、サルディア行きの馬車を探す。
「その青い石さ、パリオに見せてみない?」
ネラの思いつきは名案だった。
パリオは、元は〈教会〉の人間だし、今は実質、商人のようなことをしている。
最も、彼は〝闇の商人〟だが――
馬車に揺られ、街道をゆっくりと進む。
行きの荷台よりも広々としていて、足を伸ばすこともできた。
春の風が、エルヴィアの髪を撫でる。
それは、つい微睡んでしまうほど優しく、温かな風だった。




