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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第2章「外の世界へ」

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7 もの言わぬ守護者

泉の妖精(ニンフ)の不穏な言葉を背に、一行はギルドの隠れ家へ引き返す

 四人で話し合い、一度、砦の拠点へ戻ることに決めた。


 ドグだけは撤退を渋っていたが、

 「妖精(ニンフ)の泉の水を手に入れただけでも収穫だよ。強力なポーションとか、即効性の解毒薬の材料になるんだから」

 とネラに説得され、ようやく受け入れた。


 キャンプを後にし、石の輪がある場所へ急いだ。


 この辺りは不思議と魔物の気配がない。

 

 〈マナ〉が濃い感触はあるが――

 妖精(ニンフ)が住処にするくらいなのだから、平穏な土地なのだろう。


 太陽が真上に登る少し前、石の輪がある地点へ着いたのだが――


 「……おいおい、前はあんな奴、いなかったぞ」


 石の輪の周辺を、奇妙なモノが歩き回っている。

 それはミノークよりも大きな、〝人型の岩〟だった。


 「こいつ……〈ゴーレム〉かもしれない」

 ネラが呟いた。

 〈ゴーレム〉とは、土で造られた巨人のことだったと思うが――


 「お、おい――お前、魔女だろ? なんとかしろよッ」

 ドグは、すでに腰が引けている。

 「アタシは〈高位の魔女(ハイ・ウィッチ)〉じゃないんだから、こんなの、どうしようもないよっ」


 薄黄色のゴーレムは、声に反応したのか、こちらに向かってくる。

 戦うか、それとも――


 「きゃあッ!」

 ゴーレムが突然、ネラに襲いかかった。

 長い腕を振り回しながら、逃げるネラを執拗に追いかける。


 「なにやってるッ! 〝アレ〟を使え、〝アレ〟を!」

 ドグがいうのは、〈大蛇の目(スィル=ナグラ)〉のことだろう。

 「こ、こいつ〝目〟がないんだよッ!」


 そうか――

 生き物ではない、〝岩〟であるゴーレムの動きは止められないのか。


 このままでは、ネラが危ない。

 今がまさに〝力〟を使う時だ――


 エルヴィアは、胸のざわめきと戦いながら、ナイフを取り出す。

 その鋭利な刃で、親指を少し傷つける。

 

 (来たれ、〝悪魔の手〟よ――)


 白昼の太陽が作る影から、黒い腕が伸びる。


 〝悪魔の手〟は、放物線を描き、石造りの巨人へ攻めかかる。

 漆黒の拳が繰り出され、まともにそれを受けたゴーレムの体勢が崩れる。


 だが、相手はさすがに頑丈だった。

 ゴーレムは体勢を立て直し、〝悪魔の手〟と組み合う。

 

 「皆、今のうちに石の輪へ!」


 エルヴィアは叫んだ。

 せめて、仲間だけでも逃がせれば、役に立てる――


 ドグは間髪を入れず、石の輪の前へ走る。


 「あ、バカ!」

 ネラがそれに気づいて叫んだ。

 「薄情者ぉ!」


 いや、それでいい――

 

 「ネラも、早く!」

 「無理だよ、置いて行けない!」


 少しずつ、ゴーレムが〝悪魔〟を押し返し始めた。

 このままでは、押し切られる――


 「――捧げろ」


 耳元で誰かが囁いた。


 ムースカリトゥだ。

 「もっと、捧げろ」

 

 捧げる――?

 そうだ、〝血〟の供物――


 再び、ナイフを指に当てて――

 新しい傷を作った。


 「うっ……」


 さっきより深く切り裂かれた指から、鮮血が流れ出す。

 その血を掬い取り――指輪へと注ぐ。


 (ああ……)


 今までにないほど猛烈な勢いで、〝悪魔〟が暴れ狂った。

 新しい腕が影から這い出し、ゴーレムめがけて突進する。


 「うわっ、やばいやばい!」

 その激しさに、ネラが全力で退避する。


 〝悪魔の手〟は、ゴーレムをがっちりと拘束し、空中へ持ち上げた。

 そのまま、黄色い敷石に、幾度となく叩きつける。

 辺りに、稲妻のような轟音が鳴り響く。


 先ほどの苦戦が嘘のように、〝悪魔〟はゴーレムをねじ伏せる。


 (これが――〈神の遺物〉の力なんだ)

 指の傷が、ジクリと痛む。


 気づけば、ゴーレムはバラバラに破壊されていた。

 それはもはや、ただの石塊だった。


 巨人の残骸を見下ろす。

 なぜだか、悲しく痛ましい気持ちだ――


 「ねえ、見てよコレ――」


 ネラは、ゴーレムだった石塊の中から、青い宝石を拾い上げた。

 「やっぱり〈魔術〉で動いてたみたいだねぇ」


    †


 「状況から察するに、あらぁ遺跡の〝番人〟みてぇなモンだろうなあ、うん」

 

 遺跡の出口で待っていたドグが、頷きながら言った。


 「なに偉そうに語ってんの。真っ先に逃げ出しといて」

 ネラが咎めるが、ドグはまるで気にしていない様子だ。


 「無事だったんだから、いいじゃねぇか。言ったろ、生きて帰るのがなにより大事だってよぉ」


 ドグを責める気にはならなかった。


 ただ、自分の〝力〟に対する恐怖は、強まった。

 窮地を脱した喜びと、不吉な予感が心の中で混じり合う。


 指の傷は、ネラの〝特上ポーション〟で、急速に癒やされた。

 もう痛みもなく、傷口も塞がっている。


 「本当に、凄い効き目ね――」

 「でしょ? 兵士とか探索者(シーカー)にバカみたいに売れるんだから」


 短い探索だったが、色々なことがあった。

 遺跡や魔物、死せる者たち、妖精(ニンフ)、ゴーレム。

 そして、指輪の力――


 世界が、少しだけ見えた気がする。


 砦の町が近づいてきた。

 行きは怖かったあの暗い抜け道が、今は恋しく感じられた。

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