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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第2章「外の世界へ」

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6 泉のほとりで

闇ギルドの一行は、石の輪の不思議な力で遺跡の外へ転移する

 光の先は、確かに野外だった。

 

 黄色い石畳が敷かれている。

 ここにも見覚えのある柱があったが、地下へと続く階段は見当たらない。

 

 振り返ると、さっきの石の輪の中心が、じわりと光を放っている。

 エルヴィアは素早くその輪から距離を取った。


 「――で、ここはどこなわけ?」

 腰に手を当てたネラが、ドグに尋ねる。


 「俺様だって初めて来たんだから、知らんさ」

 ドグはランタンの火を消しながら答えた。

 「ともかく、周りを探ってみるか」


 景色を眺めると、遺跡の入口の辺りより木が少ない。


 「ここも……東の地、なのかしら?」

 ネラに声をかけると、

 「そうだと思う。気温が同じだし……ただ、風の感じは違う。多分、少し高度が高いかもしれないね」

 と、予想より多くの情報が返ってきた。


 一行は、まず、石の輪を背にした方向へと進むことにした。


 「誰が作ったモノか知らんが、ありゃ明らかに移動が目的だ。となると、この近くになにかがあるのは間違いないはずだぜ」


 エルヴィアも、ドグと同じ考えだった。

 

 四人は林の中を歩き出す。

 樹木の密度は低く、日の光が木の間から降り注いでいる。

 見通しがいいので、仮に魔物が現れても、余裕を持って対処できそうだ。


 槍を杖代わりに黙々と歩いていると、微かな水音が聞こえ始めた。


 「水場がありそうだね……ちょっと休憩しない?」

 ネラの提案に、全員が同意した。


 水の音を辿って進む。

 心なしか、足取りが軽くなる。

 やがて周囲に霧が漂い始めると、草木に囲まれた〝泉〟が見えた。


 「綺麗な水だよ! 水筒(フラスコ)の中身を取り替えよう」

 ネラが、はしゃぎながら泉の水を汲んでいる。

 他の者達も、それに続いたが――


 「誰だ、お前達は」


 突然、聞き慣れぬ声がした。


 声のする方を見ると――

 肩の辺りまで水に浸かった〝赤毛の女〟が、こちらを睨んでいた。


 「お、おい……裸の女だぞ」

 ドグは女を指差し、その姿を凝視している。

 

 「見れば分かるよ……って、そんなことより」

 ネラが赤毛の女に声をかける。

 「アンタ、人間じゃないよねぇ?」


 見る限りは、水浴びをしている人間に見えるが――

 ネラには、違って見えるのか。


 「お前達からは、〝死の臭い〟がする」


 泉の女は、こちらを指差して冷たく言い放った。

 「その槍で、私を殺すつもりか」


 エルヴィアは、血で黒く汚れた槍の穂を見る。

 後ろめたさを感じ、反射的に槍を地面に横たえた。


 女はなおも、恨みがましい目つきで睨むが、ネラがエルヴィアの前に出る。

 「殺したりしないよ。ちょっと聞きたいことがあるだけ」


 しかし、女の表情は変わらない。

 「人間に話すことはない。泉から立ち去れ」

 「まあ、そう言わずにさ。そうだ、なにか欲しい物とか、ない?」

 

 ネラは女と交渉をするつもりらしい。


 「人間に施しは受けない。私は、お前たちの同胞を嫌ってここへ来た」

 「アンタは元々、どこにいたの?」

 「……森。ディードルグの森だ」


 それを聞いて、エルヴィアはハッとする。

 ディードルグは、南の城伯が治める地だ。


 「ディードルグ城伯に、故郷を追い出されたワケ?」

 「森は血と夜の魔物が蝕んだ。もう住むことはできない」

 「魔物……?」


 ふとムースカリトゥを見ると、ブーツを脱いで足を休めている。

 まるで緊張感がない――

 こういう状況には慣れているのだろうか。


 「あの辺りに、魔物が?」

 「そうだ」

 「そんな話、初耳だけどなぁ……」

 

 ディードルグで、なにが起きているのだろう。

 ひょっとして、父の死と関わりがあるのか?


 「あの……私も、お話していいかしら」

 エルヴィアは、ついふたりの間に割り込んでしまった。

 特に、考えもなかったが――


 「私はエルという名です。あなたのお名前は?」

 「妖精(ニンフ)は人間に名乗らない」


 この女は〈妖精(ニンフ)〉なのか。

 見る限り、美しい人間の女と区別はつかない。


 「これを見て――この指輪に見覚えは?」

 エルヴィアは、左手の骨の指輪をかざす。

 「見たことはない。だが……それからは血と夜の臭いがする」


 血と夜の臭い――

 〝悪魔の手〟のことか?


 「ディードルグの森も、その臭いで満ちた。いずれ深い夜が支配するだろう」


    †


 妖精(ニンフ)との対話を終え、四人は泉から少し離れた場所で火を囲んだ。


 「なんか、気にならない?」

 ネラが切り出す。

 「ディードルグに魔物が多いなんて、聞いたことないよ」


 ドグも腕を組んで応える。

 「まあ、そうだが……あの妖精(ニンフ)の言うことが本当だとしても、今は確かめようがないだろ」


 〈神の遺物〉の情報は得られず、食糧も目減りしている。

 一度、隠れ家へ戻る頃合いかもしれない。


 泉の出来事があってから、胸騒ぎが治まらない。

 空はもう緋色に染まっていた。

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