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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第2章「外の世界へ」

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5 光る円環

遺跡の奥の部屋で魔物を倒した闇ギルドの一行は、探索を再開する

 ドグが奥の部屋の物色を終えた。

 死霊(ドラウグ)達が振るった武器を受け継ぎ、四人は再び遺跡の探索に戻る。


 エルヴィアが手にした槍は、まだ魔物の赤黒い血で濡れていた。


 ネラの話によると、あの人喰いネズミは、モルディレインの森に生息する魔物だそうだ。

 おそらく、遺跡を探索する人間を狙って侵入したのだろう。


 二股に分かれていたもう一方の道へ進む。

 その先は、ほぼ同じ構造になっており、不思議な緑色の光も灯っていた。


 「また部屋があるな。ネズミは……いないようだぜ」


 エルヴィアは胸を撫で下ろした。

 

 「しかし――こりゃ、なんだ?」

 ドグが、部屋の奥を見て首を傾げる。


 そこには〝石で造られた輪〟のような物体が鎮座していた。


 なにかの道具というよりは、置物か飾り――

 あるいは宗教的なシンボルなのか。

 石の表面には無数の模様が光っている。

 それは文字のようにも見えた。


 「宝石……じゃねえな。この光り方は、柱の緑色の光と似てやがるなぁ」


 この物体(オブジェ)がなによりも異様なのは、石の輪の中心に、やはり光り輝く空間が存在していることだった。


 「これも〈神の遺物〉かもしれねえが……持って帰るとなると面倒だな」


 ドグが石の輪にさらに近づいた。

 すると――


 部屋の中が光で溢れた。


 朝、窓辺から差し込む光より、もっと眩しい白色が周囲を包む。

 目が眩み、反射的に手で顔を覆う。

 ネラが声を上げている――

 

 やがて光が収まり、部屋の中を見ると――

 そこにいた筈のドグの姿が、跡形もなく消えていた。


 「いない……ドグが?」


 ネラは部屋の入口の前でぽかんとしている。

 ムースカリトゥの方を振り返ると、部屋の中央をただ見つめていた。


 あの石の物体(オブジェ)の仕業なのは間違いないだろう。


 「ど、どうする……?」


 ネラが誰にともなく尋ねるが、誰もその問いには答えられなかった。

 部屋の前に、沈黙が訪れる。


 思いあぐねていると、ムースカリトゥがローブの中から骨らしき物を取り出し、石の物体(オブジェ)の前に投げ捨てた。


 しかし、なにも起こらない。


 残された三人は、いよいよ放心する。

 ドグが消えた謎を解くべきか、それとも戻るべきか。


 誰かが、短い溜息をつくと――


 光だ。

 さっきの光が、再び視界いっぱいに広がる。

 今度は目を細めて、その様子を必死に窺う。


 光が少しずつ弱まり、それは人の形へと集束していく。

 白い色が完全に消えると――


 そこにはドグがいた。


 (帰ってきた――?)


 「おいおい、どうなっちまった? 俺は?」

 やはりドグの声だ。

 「死んじまったワケじゃあ、なさそうだなぁ」


 怪我などもないようだ。

 ネラが声をかける。

 「ちょっとぉ、一体なんなの? なにがあったの?」

 この場の全員が、同じ思いだろう。


 「いやぁ、それが聞いてくれよ。あの光に包まれた後にだな、俺ぁ見たことのねえ場所にいた。そこはどうも〝遺跡の外〟だったようだが――」


 そんなことがあるのか――?


 「柄にもなく焦ったが、そこにもコイツと同じ石の輪っかがあった。それを弄くり回してたら、またここに戻ってきたってワケだ」

 

 不思議な話だ。

 やはりこれも〈神の遺物〉なのだろうか。


 「ちょいと不気味だが……どうだ、この〝先〟へ行ってみねえか?」


 この遺跡には、もう調べる場所はない。

 さらに探索を続けるなら、ドグのいう〝先〟へ行くべきなのだろうが――


 「ま、無理強いはしねぇが、ここで尻込みしちゃあ、探索者(シーカー)の名折れってもんだ。古い武器と小銭程度の稼ぎじゃあ、命懸けの甲斐がないぜ」


 エルヴィアとネラは顔を見合わせる。

 互いの顔には迷いの色が滲んでいた。


 「そうビビるなって。少なくとも、こっちに戻れることは分かったんだし、ヤバくなったら逃げりゃあいい。俺はいつだって、そうしてきたのさ」


 ドグの言葉に、ネラは呆れた表情で返す。

 「そんなの自慢にならないよ。カッコ悪いなぁ」

 「分かってねえなぁ、魔女の嬢ちゃん。探索ってのはな、生き残った奴が一番偉いんだよ。〝命〟っつう一番大事なモンを持ち帰れるのが、最高の結果なんだぜ?」


 〝命〟か。


 (その命を、私は――)


 ベルアシーリアの顔が浮かぶ。

 あの暗い、血の色が。


 進むべきなのだろうか。

 まだ命ある者として――


 「行ってみましょう」

 エルヴィアは静かに言った。


 四人は、部屋の中へ足を踏み入れる。

 ムースカリトゥは床に落ちた骨を拾っている。

 ネラはエルヴィアの腕を取った。

 その手を、ぎゅっと握り返す。


 やがて光が溢れ、全てが真っ白に染まる。

 暖かくも、冷たくもなく――


 やがて目を開けた時、そこには渇いた風が吹いていた。

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