5 光る円環
遺跡の奥の部屋で魔物を倒した闇ギルドの一行は、探索を再開する
ドグが奥の部屋の物色を終えた。
死霊達が振るった武器を受け継ぎ、四人は再び遺跡の探索に戻る。
エルヴィアが手にした槍は、まだ魔物の赤黒い血で濡れていた。
ネラの話によると、あの人喰いネズミは、モルディレインの森に生息する魔物だそうだ。
おそらく、遺跡を探索する人間を狙って侵入したのだろう。
二股に分かれていたもう一方の道へ進む。
その先は、ほぼ同じ構造になっており、不思議な緑色の光も灯っていた。
「また部屋があるな。ネズミは……いないようだぜ」
エルヴィアは胸を撫で下ろした。
「しかし――こりゃ、なんだ?」
ドグが、部屋の奥を見て首を傾げる。
そこには〝石で造られた輪〟のような物体が鎮座していた。
なにかの道具というよりは、置物か飾り――
あるいは宗教的なシンボルなのか。
石の表面には無数の模様が光っている。
それは文字のようにも見えた。
「宝石……じゃねえな。この光り方は、柱の緑色の光と似てやがるなぁ」
この物体がなによりも異様なのは、石の輪の中心に、やはり光り輝く空間が存在していることだった。
「これも〈神の遺物〉かもしれねえが……持って帰るとなると面倒だな」
ドグが石の輪にさらに近づいた。
すると――
部屋の中が光で溢れた。
朝、窓辺から差し込む光より、もっと眩しい白色が周囲を包む。
目が眩み、反射的に手で顔を覆う。
ネラが声を上げている――
やがて光が収まり、部屋の中を見ると――
そこにいた筈のドグの姿が、跡形もなく消えていた。
「いない……ドグが?」
ネラは部屋の入口の前でぽかんとしている。
ムースカリトゥの方を振り返ると、部屋の中央をただ見つめていた。
あの石の物体の仕業なのは間違いないだろう。
「ど、どうする……?」
ネラが誰にともなく尋ねるが、誰もその問いには答えられなかった。
部屋の前に、沈黙が訪れる。
思いあぐねていると、ムースカリトゥがローブの中から骨らしき物を取り出し、石の物体の前に投げ捨てた。
しかし、なにも起こらない。
残された三人は、いよいよ放心する。
ドグが消えた謎を解くべきか、それとも戻るべきか。
誰かが、短い溜息をつくと――
光だ。
さっきの光が、再び視界いっぱいに広がる。
今度は目を細めて、その様子を必死に窺う。
光が少しずつ弱まり、それは人の形へと集束していく。
白い色が完全に消えると――
そこにはドグがいた。
(帰ってきた――?)
「おいおい、どうなっちまった? 俺は?」
やはりドグの声だ。
「死んじまったワケじゃあ、なさそうだなぁ」
怪我などもないようだ。
ネラが声をかける。
「ちょっとぉ、一体なんなの? なにがあったの?」
この場の全員が、同じ思いだろう。
「いやぁ、それが聞いてくれよ。あの光に包まれた後にだな、俺ぁ見たことのねえ場所にいた。そこはどうも〝遺跡の外〟だったようだが――」
そんなことがあるのか――?
「柄にもなく焦ったが、そこにもコイツと同じ石の輪っかがあった。それを弄くり回してたら、またここに戻ってきたってワケだ」
不思議な話だ。
やはりこれも〈神の遺物〉なのだろうか。
「ちょいと不気味だが……どうだ、この〝先〟へ行ってみねえか?」
この遺跡には、もう調べる場所はない。
さらに探索を続けるなら、ドグのいう〝先〟へ行くべきなのだろうが――
「ま、無理強いはしねぇが、ここで尻込みしちゃあ、探索者の名折れってもんだ。古い武器と小銭程度の稼ぎじゃあ、命懸けの甲斐がないぜ」
エルヴィアとネラは顔を見合わせる。
互いの顔には迷いの色が滲んでいた。
「そうビビるなって。少なくとも、こっちに戻れることは分かったんだし、ヤバくなったら逃げりゃあいい。俺はいつだって、そうしてきたのさ」
ドグの言葉に、ネラは呆れた表情で返す。
「そんなの自慢にならないよ。カッコ悪いなぁ」
「分かってねえなぁ、魔女の嬢ちゃん。探索ってのはな、生き残った奴が一番偉いんだよ。〝命〟っつう一番大事なモンを持ち帰れるのが、最高の結果なんだぜ?」
〝命〟か。
(その命を、私は――)
ベルアシーリアの顔が浮かぶ。
あの暗い、血の色が。
進むべきなのだろうか。
まだ命ある者として――
「行ってみましょう」
エルヴィアは静かに言った。
四人は、部屋の中へ足を踏み入れる。
ムースカリトゥは床に落ちた骨を拾っている。
ネラはエルヴィアの腕を取った。
その手を、ぎゅっと握り返す。
やがて光が溢れ、全てが真っ白に染まる。
暖かくも、冷たくもなく――
やがて目を開けた時、そこには渇いた風が吹いていた。




