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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山


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2/3

2 外れぬ指輪

 目の前で、人が死んだ――

 いや、自分が殺したのか?

 それとも、あの神への祈りが、悪魔へ届いてしまったのか?


 ぐったりとして、土の上に倒れ込む。

 月光は、なおも己を照らしている。


 「おい――」


 声がする。


 「おい、生きてるか?」


 こちらを上から覗き込む男がいた。

 〝あの男〟だった。


 「どうにか追いついたら、これだ。あの有り様では、とても手が出せん。だが、とりあえず無事なようだな」


 男がこちらに手を伸ばす。

 だが、その手をとるために動く気にはならず、そのまま男に腕と背中を支えられ、起こされる形になった。


 近くの樹木を背にして放心していると、男は倒れている追手を観察し始めた。

 「なんてことだ……打撲の後はあるが、胴には傷らしい傷がない」

 

 よく死体の近くにあれだけ寄れるものだ――

 そんな、どうでもいいことを考えてしまう。

 自分が殺したのかもしれないのに、まるで他人事のように。


 「――なあ、立てるか? ひとまずここを離れるぞ。人に見つかったら厄介だ」

 

 ひとまず、と言われても――


 先のことなど、知らない。

 自分は死ぬと思っていたから。

 でも、生きている。

 ならば、この男の言うとおりにすべきなのか――


 気づけば男は目の前で、こちらの顔を見ていた。

 「いいか――俺の名は『カルス』。お前の父の知人だ」

 

 カルス――

 聞いたことのない名だった。


 「親父さんが死んで混乱しているのは解るが、今は腑抜けている場合じゃない。事情はどうあれ、お前はこうして生き残った。だから生きるべきだ。そのために、今は立つんだ」


 やはり、父は本当に死んだのだ。

 この手に滲む血、骨の指輪、悪魔のような手、そして追手の亡骸――

 そんな〝死〟を思わせるものがつきまとい、よってたかって父の死を肯定しているような気がした。


 「おい、その指にあるのは――」


 男が、まだなにか言っている。確か、カルスとかいう名だったか。


 「なるほどな、それが原因か」

 男はそう呟くと、短く溜息をついた。

 「やはり、お前を放ってはおけない。()()()()()を身につけて、ウロウロされても困る。俺と一緒に来い。連れていきたい場所がある」


 カルスは半ば強引に、腕をつかんで立たせようとしてくる。

 抵抗する力もなく、声を上げる気力もない。

 

 だが、感覚だけは少しずつ、現実へと還ってきている。

 夜の森の寒さや、肘や手のひらの痛みが再びやってきた。


 「まずはこの森を抜ける。俺の馬を待たせてある所まで行くぞ」

 

 全力で走ったのもあって、脚が鉛のように重く、歩みを進めるのは大変だったが、幸い足を挫いたりはしていなかった。


 前を歩くカルスが、口を開く。

 「馬には乗れるか?」

 一応、乗馬の経験はあるので、短く頷いた。

 「そうか。馬は一頭だけだから、二人乗りになるが――」


 カルスの言葉に一言、「構いません」と答える。

 自分の声が掠れていて、少し気になった。


 「どうやら口は利けるようだな」

 カルスの声色が、ほんの少しだけ和らぐ。

 「――馬に乗ったら、サルディアを目指す。東の国境近くだ。辺境伯の家系に縁のある町だし、さすがに知っているだろう」

 「ええ……」


 森の出口が見えてきた。

 月明かりが照らす(もや)の奥に、〈旅馬〉のシルエットが浮かんでいる。

 

 屋敷のある街のほうが、なにやら騒がしい。

 きっと父が死んだことが広まって、大事になっているのだ。


 カルスは、木に結んだロープを解いてこちらを見る。

 「先に乗るといい。ひとりでは難しいか?」

 そのくらいは出来そうだったが、念のために助けを借りた。

 

 やがて、カルスも馬の背に跨ると、

 「あんた、名前は?」

 と、短く尋ねた。


 「エルヴィア――エルヴィア・サルディーンです」


 馬は走りだす。

 夜の冷たい風の中を、白い息を置き去りにして、どこまでも進む。

 明日、日が昇れば、そこはきっと知らない世界だ。


 カルスという謎の男について、考える。

 本当に、父の知人なのか?

 

 骨の指輪は、いつの間にか指にぴたりと嵌っていた。

 外そうにも固く指に食い込み、少しも動かなかった――

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