3 闇のギルド
カルスと共に森を抜けたエルヴィアは、サルディアの町へたどり着く
馬を走らせ、サルディアに着いた頃には日が昇っていた。
朝の町は、まだ活気に溢れているというほどではなかった。
「あまり人に見られたくない。静かについてきてくれ」
町の外れの厩舎で馬を休ませたカルスが、小声で言った。
黒いマントを羽織ったエルヴィアは、疲労を感じながらも後に続く。
マントは、長い移動の途中にカルスが寄越したものだ。
ふたりは町の外周に沿って歩く。
しばらく行くと、小さな墓地が見えてきた。
カルスは真っ直ぐに、その墓地へ向かっていく。
再び〝死〟を匂わせるものに心が波立ったが、黙って追随した。
「ここだ」
カルスが目指していたのは、墓地の隣にある建物だった。
見る限り、なんの変哲もない木造の家だ。
入口の扉を開けて、カルスが中に入る。
エルヴィアもそれに続いた。
内部は薄暗い。
鎧戸が閉じられているせいだろう。
「扉を閉めてくれ」
テーブルに置かれたランプに火を灯しながらカルスが言った。
『人に見られたくない』のが理由なのだろうが、せめて窓くらいは開けられないものか、とエルヴィアは思った。
古ぼけたランプの灯りだけで、さあなにを始めるのかと思いきや、
「こっちだ――」
と、カルスはさらに奥へと誘う。
今度はどこへ、と思って様子を見ていると、床に手をついてなにかしている。
一体なにを――
「この下だ」
床板が跳ね橋のように持ち上がった。
その下にさらに空間があるらしく、カルスは慣れた動きで潜りこんだ。
エルヴィアは、全く気が進まなかったが、仕方なく床下を覗き込んだ。
そこは階段になっていた。
先を行くカルスはどんどん下りていく。
隠し部屋か――?
カルスに対する不信感が、どこまでも増していく。
「取って食おうってわけじゃない。警戒するのも解るが、危害を加えるつもりはないんだ。それならとうにそうしている」
心を読まれた気がした。
だが確かに、そのとおりだ。
殺すつもりなら、いつでもできたはずなのだ。
エルヴィアは意を決して階段を下る。
壁も足元も石造りだった。
隠し階段は古めかしくはあったが、思いの外、しっかりと作られている。
そして、下りきった先には――
「ここが、俺達の隠れ家だ」
石壁に囲まれた、広い部屋があった。
よく見ると、扉がいくつかある。他にも部屋があるようだ。
この地下室も相変わらず薄暗いが、柱に灯りが灯されている。
「〝俺達〟――ということは、お仲間がいるのですか?」
エルヴィアが尋ねる。
「そうだ」
こちらを見もせずに答えると、カルスは部屋の隅にあるカウンターへ回り込んだ。
周囲を眺めると、粗末なテーブルや椅子、野菜が入った麻袋などがある。
カウンターの奥の棚にも、食器や酒瓶が並んでいた。
「世の中には、表向きにできない仕事がいくらでもある。陽の光の下で育ったお前のような人種には、想像できないかもしれないが――」
カルスはマグに液体を注ぎ、中身を一気にあおると、言葉を続けた。
「ここにはそんな、裏の仕事を請け負う〝訳あり〟の人間たちが集まっている。そして――お前も、すでにその同類だ」
それは、どういう意味だ――?
「な、なにを勝手に、そんな」
「その骨の指輪だよ」
カルスは昨夜から、この指輪をやけに気にしている。
「この指輪は……一体、なんなのですか?」
「それは〈神の遺物〉さ。おそらくエルオリド辺境伯――お前の父親が持っていたものだろう」
父が最も大切にしていた指輪。
とっさにそれを思い出し、持ち出しただけ、だったのに――
「気づいているだろう? あの黒く恐ろしい手……明らかに、その指輪の仕業だ。あんな力は、神のものとしか考えられない」
神だって?
あれは、悪魔の力ではないのか?
「詳しいことは、後で教えるさ。ともかく、お前はもはや、普通の人間ではないんだ。望もうと望むまいと、すでに闇に生きる者の一員なのさ」
どうして。
なぜ、こんなことに。
(私は――)
「その血濡れた手と共に生きる覚悟を持つ者を、〝闇のギルド〟は歓迎する。我々は、虐げられ、蔑まれ、翻弄される全ての者の同胞だ――」
(私は、罪人なのだ)
声にならない叫びが、胸中に響いたその時――
地下室の扉が開いた。




