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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第2章「外の世界へ」

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11/50

1 眼差しの先

 ベルアシーリアを手にかけてから一週間が経った。


 南方の城伯は、カルスが運んだ亡骸を見て、邪魔者を首尾よく片付けられたと認識したようだ。

 叔父のオラークには、エルヴィアは行方不明で目下捜索中である、と伝えられた。


 『もう追手が来ることはないだろう』


 ここ数日、エルヴィアはネラと共に森で寝起きしている。

 隠れ家の地下は埃っぽく、息が詰まる気がして安眠できなかったのだ。

 

 即席のタープを張り、その下に干し草とボロ布を敷くだけでも、冷たい石壁に囲まれて休むよりは、ずっと快適だった。


 そして今日、ミノークが森のねぐらの近くに丸太を運び始めた。

 エルヴィアとネラのために、小屋を建ててくれるらしい。

 礼を言ったが、ミノークはなにも言わず、ただ頷いた。


 風はもう、春の香りだ。

 世界は――動き始めている。

 自分だけがまだ、あの洞穴の中にいる気がしていた。


 花やハーブを摘み、キャンプに戻ると、カルスの姿があった。


 「エル、話がある。隠れ家まで来てくれないか」


 籠を置いてテントの中のネラに声をかけると「気になるからついていく」というので、三人揃って町へ向かった。


    †


 「こっちが『ドグ』、奥にいるのは『ムースカリトゥ』だ」


 地下の隠し部屋には、初対面のギルドメンバーがいた。

 「このふたりには、各地の〈遺跡〉や洞窟の探索を主に任せているが――今回はエルにも同行してもらおうと思う」


 〝ドグ〟という、テーブルの横に立っている男――

 妙に腰が曲がっているせいか、随分と背丈が低く見える。

 仮に背筋が伸び切っていても、エルヴィアのほうが大きいのではないかと思えるくらいだった。


 一方、手の中でなにかを弄んでいる、おそらく少女であろう者は――

 漆黒の髪。

 同じく真っ黒なローブをまとい、奇妙な形の耳飾りを付けている。


 よく見るとそれは――小さな頭蓋骨だった。


 言い知れぬ不吉さを感じさせる娘だ。

 こっちが〝ムースカリトゥ〟か。


 「探索……つまり、ふたりは探索者(シーカー)なのですね?」

 「そうだ。闇のギルドは、非合法な手段で稼ぐことも多いが、〝禁足地〟での探索も仕事のひとつだ」


 エルにもようやく、闇ギルドの〝仕事〟が回ってきたというわけだ。


 「キヒヒッ、これが件のご令嬢か。マスター・カルスに話を聞いた時ぁ驚いたが、こりゃあまた……なかなかの別嬪さんじゃねぇかぁ、おい?」


 ドグはなんとも卑しい台詞を吐き、舐めるような視線をこちらに向けた。


 椅子に座っていたネラは「気色悪ぅ……」とこぼす。

 それを耳ざとく聞き取ったドグは、大きく鼻を鳴らした。


 カルスが場を引き締めるように言う。

 「南方の城伯が東方へ横槍を入れる前に、急ぎ探索を進めて欲しい。特に〈神の遺物〉の回収は、陣営の力に直結する」


 そうか――

 

 この闇ギルドは〈神の遺物〉を持つ者が何人かいるそうだが、未開の地の〈遺跡〉などを探索して、それを手中にしてきたのか。


 「や、それは違うね」

 エルヴィアの想像は、ネラに否定された。

 「アタシの〈遺物〉も、そこの〝ムース〟のも、ギルドに入る前から持ってたモノだよ。エルのだってそうだしさ」


 どうやら、早とちりだったらしい。


 「まあ、そういうことだが――いずれにせよ〈遺物〉を南方の城伯や、商人ギルドに押さえられるのはぞっとしない。滅多に見つかる物じゃないが、探しておくに越したことはない」


 ともかく、早急に東の地〈モルディレイン〉へ入れとの指示を受けた。

 エルヴィアは手に職もないので、今はこうしたギルドの仕事をこなす以外にやれることは、ほとんどない。

 ただ草花を摘むだけでは、生きるための力も知恵もつかないだろう。


 「東に行くなら、アタシも行こうかなぁ」

 ネラが独り言のように声を上げた。


 「おいおい、ただでさえ取り分が減っちまうのに、また頭数が増えンのかよ」

 ドグがぼやく。

 「ケチだねぇ。まあ、取り分はいいとしてさ、東方(あっち)でしか獲れない材料もあるし、そろそろ行きたいと思ってたんだよ」


 エルヴィアとしては、ネラがいてくれた方が安心なのだが――


 「でも、アタシらがいたほうが便利だと思うよ。アンタ達は知らないだろうけど、エルの〝力〟は絶対、探索に役立つからね」


 ムースカリトゥは、一度も口を開かなかったが、特に異論はないようだ。

 結局、ネラも加えた四人で東の地へ入ることになった。


 領地の外へ行くのは、いつぶりだろう――

 しかも、東方は初めてだ。

 

 父が見据えていた地、モルディレイン。

 そこには、全ての運命の答えが眠っているのかもしれない。

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