第008話:純白の翼と、奇跡の崩壊
「地下の『魔力吸引陣』にバグが溜まりすぎて、大聖堂自体がエラーを起こしてるな。――まとめてクリーンアップ(デバッグ)します」
アキラが指先をすっと床に滑らせた。
【警告:大聖堂地下魔力源のバグを検出】
【事象書き換えを実行しますか? [はい]】
アキラが頭の中でタップした瞬間、大聖堂全体が、まるで朝日が差し込んだかのようなまばゆい純白の光に満たされた。
「な、なんだこの光は!? 私の魔法陣が消えていく!?」
司教が驚愕の悲鳴を上げる。
大聖堂の地下に何十年も蓄積されていた巨大な穢れ(バグ)が、光の奔流によって跡形もなく消去されていく。街全体の地下に張り巡らされていた黒いラインも、光の導管へと書き換わり、街の空気そのものが一瞬で澄み渡った。
そして、穢れの完全消去に伴い、アキラの『精霊の寵愛』と、エルナの中に眠っていた「本源の力」が共鳴を始める。
フワァッ……!
エルナの背中から、温かく神秘的な光が溢れ出た。
光が集束し、彼女の背中から、光り輝く純白の美しい『羽の翼』が一対、大きく広がった。それは、この世界ではおとぎ話にしか登場しない、神の御使いたる『有翼族』の翼そのものだった。
「あ……私の、つばさ……?」
エルナ自身も驚いたように背中の翼を見つめる。
「お、おおお……! 有翼族の翼……!? まさか、本物の神の御使いが降臨されたというのか!?」
剣を抜いて迫っていた神殿騎士たちが、その神々しい姿に圧倒され、次々と剣を落として床にひざまずき始めた。
司教もまた、贅肉を揺らしながら腰を抜かし、ぶるぶると震えながらその場に平伏する。
「ああ、神よ……! 我が教会の行いは、すべて神のために――」
「いや、勝手にお祈りしてるところ申し訳ないんですが、私たちはこれで失礼しますね」
アキラは唖然とするエルナの手を優しく引き、フィリアに目配せをした。
「フィリア、今のうちにずらかろう」
「はい、アキラ様! 精霊の目隠し(ステルス)をかけますわ!」
フィリアが風の精霊を操り、司教たちの視界に霧を立ち込める。
アキラたちは祈り続ける騎士や司教たちを置き去りにし、騒然とする大聖堂から悠々と脱出した。
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大聖堂での大騒動ののち、アキラたちは宿『純白の翼亭』の部屋へと戻っていた。
大聖堂では「本物の天使が降臨し、教会の偽りのシステムを破壊した」という噂が街中に広まり、大混乱に陥っている。司教はエルナを道具扱いしていた悪事が露呈し、騎士団や信者からの信頼を完全に失って失脚への道を辿っていた。
「ふぅ、これで一安心ですね。お疲れ様でした」
アキラが部屋の椅子に腰掛け、のんびりと息を吐く。
エルナは、アキラの隣にぎこちなく立ち、背中の白い翼を小さく折りたたんで、所在なさげに俯いていた。
「あの……本当に、ありがとうございました。でも、私はこれからどうすれば……」
行く当てを失った少女の瞳には、不安の色が浮かんでいた。




