第007話:教会の呪縛と、事象書き換え
「だ、誰ですか……? ここは一般の方は立ち入り禁止の……」
近づいてくるアキラとフィリアの足音に気づき、エルナは弱々しく顔を上げた。
アキラは彼女の前に膝をつき、優しく目線を合わせる。
「ちょっと失礼しますね。そのブレスレット、重そうだから外してあげます」
「え……? だ、ダメです! これは教会の神聖な魔導具で、私を縛る呪具……触るとあなたまで呪われて――」
エルナが慌てて手を引こうとするが、アキラはすでに、彼女の手首に刻まれた黒い金属のブレスレットにそっと指先を触れていた。
その瞬間、アキラの視界にポップアップが展開される。
【システム警告:致命的なバグ『生贄の鎖』を検出】
【対象魔導書庫:エルナ】
【事象書き換えを実行しますか? [はい / いいえ]】
「これだけのバグを一人で抱えてたら、そりゃあフリーズ(死)寸前になるよ。――はい、デバッグ開始」
アキラが頭の中で『はい』をタップした。
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――キィィィィィン!
礼拝堂の中に、ガラスが砕け散るような澄んだ音が響き渡った。
アキラの指先から溢れ出た温かい白い光が、エルナの手首の呪具を包み込む。
呪具に刻まれていた赤黒いルーン文字の配列が一瞬で白く書き換わり、パキン、と乾いた音を立ててブレスレットが真っ二つに割れて床に落ちた。
「え……あ……?」
エルナが呆然と声を漏らす。
それだけでは終わらない。アキラの指先から流れ込む白い光の波が、エルナの体全体を優しく包み込んだ。
彼女の細い血管を流れる黒い澱み――これまで吸い上げて溜め込んできた街全体の穢れが、光に押し流されるようにして一瞬で消滅していく。
肺の苦しさが消える。
魔力の逆流による激痛が消える。
凍えるようだった体の芯に、ぽかぽかとした心地よい温かさが満ちていく。
【クリーンアップ完了:対象『エルナ』の穢れ値を0%にリセットしました】
【周辺地域とのバグ同期(生贄システム)を永久遮断しました】
「ふぅ、これでクリーンアップは完了ですね。体の痛みはどうですか?」
「あ……からだが、かるい……。痛くない……苦しく、ない……?」
エルナは自分の両手を見つめ、何度も握ったり開いたりした。
長年、彼女を苛んでいた絶望的な苦痛が、まるで最初から存在しなかったかのように、完全に消え去っていた。
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「な、何をしている貴様らァアアア!」
その時、礼拝堂の扉が勢いよく開き、先ほどの太った司教が、数人の武装した神殿騎士を引き連れて戻ってきた。
床に転がっている壊れた呪縛具を目にした司教の顔が、怒りで真っ赤に染まる。
「お前たち、聖女に何をした! その魔導具は、大聖堂のシステムを維持する極めて重要な――」
「ああ、あのクソみたいなバグまみれのシステムですか。不要なので削除しておきました」
アキラはのんきに立ち上がり、司教を見据えた。
「さ、削除だと!? ふざけるな! それがないと街の穢れが吸い上げられないではないか! おい、その無礼者たちを捕らえろ! そしてエルナに新しい呪縛具をはめ直すのだ!」
司教の命令で、神殿騎士たちが剣を抜いてアキラたちへとにじり寄る。
エルナは恐怖でアキラの背後に隠れ、その服の裾をぎゅっと握りしめた。
「アキラ様、お下がりください! ここは私が――」
フィリアが精霊魔法を唱えようとしたが、アキラは優しく彼女の肩を叩いて制した。
「大丈夫だよ、フィリア。デバッガーの仕事は、バグの根本原因を修正することだからね」
アキラは視界のUIを操作し、大聖堂の地下にある『バグの発生源(魔力吸引陣)』へとシステム権限を伸ばした。




