第052話:見習い職人と、コテージでの作戦会議
「あ、ありがとうございます……うう、頭に雪が入って冷たいです……」
俺が手を差し伸べると、少女――ユキネは赤くなった鼻をすすりながら、恥ずかしそうに立ち上がった。
彼女の頭の上でリボンを掲げていたちびゴーレム二匹は、俺の顔を見るなり「トコトコ」とユキネの肩へと逃げていき、警戒するようにこちらを見つめている。
「コラ! そこの見習い! またお前の仕業か!」
そこへ、息を切らせた警備兵たちが駆けつけてきた。険しい表情でユキネを問い詰める。
「お祭りの飾り付け用の果物を盗み出すとは何事だ! お前が妙な魔石を組み込むから、氷彫刻が勝手に歩き出すんだぞ!」
「ご、ごめんなさい! でも、盗んだんじゃなくて、この子たちがお手伝いしようと思って勝手に持ち出しちゃって……!」
「言い訳は署で聞く!」
「まあまあ、待ってください」
俺は警備兵とユキネの間に入り、穏やかに微笑みかけた。
「彼女に悪気はなかったようですし、このちびゴーレムたちも俺たちが責任を持って大人しくさせます。だから、少しだけ時間をいただけませんか?」
「あんたは……?」
警備兵は不審そうな顔をしたが、俺の後ろに控えるフィリアやセシリアたちの凛とした佇まい、そしてなにより俺の落ち着いた態度に気圧されたのか、渋々といった様子で剣を収めた。
「……フン、分かった。だが、すぐにお祭りの広場から連れ出してくれよ。お偉いさん方に見つかったら大変だからな」
「感謝します」
警備兵たちが去っていくのを見送り、俺はユキネに向き直った。
「ひとまず、俺たちのコテージへ行こう。温まりながら話をしよう」
「えっ、コテージ? こんな街中にそんな場所――って、ふえええええっ!? なんですかこのお家!?」
俺が空間魔導具からコテージを展開すると、ユキネは開いた口が塞がらないといった様子で絶叫した。
驚く彼女をリビングへと案内し、全員で「コタツ」へと潜り込む。
「ふぁあああ……何ですかこの温かい天国は……。手足の感覚が戻ってきますぅ……」
ユキネは一瞬でコタツの魔力に敗北し、とろけた顔で天板に突っ伏した。
そこへ、セシリアが焼き立ての『結晶アップルパイ』をお皿に載せて運んでくる。結晶樹の樹液シロップで甘く煮たリンゴの香ばしい匂いが、部屋いっぱいに広がった。
「温かいうちにどうぞ。結晶帝国のリンゴを使いました」
「うう、いただきます……! サクサクして、リンゴが甘酸っぱくてトロトロで……美味しすぎて涙が出そうです……!」
ユキネはパイを頬張りながら、本当に涙を浮かべて感動していた。
しばらくして落ち着きを取り戻した彼女は、ちびゴーレムたちをコタツの上に歩かせながら、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。
「私は見習いの氷彫刻職人で……。お祭りの彫刻をもっと綺麗に見せたくて、自分で簡易的な『発光魔石』を作ったんです。彫刻の中に埋め込めば、キラキラと光るように」
「なるほど。ただ光らせるだけの魔石だったんだな?」
「はい。でも、回路を刻むときに配線を少し間違えちゃったみたいで……。結晶帝国の天候結界が持つ『動きを制御する魔力』と共鳴して、勝手に『トコトコ歩く』パラメータが適用されて動き出しちゃったんです……」
アキラ(なるほどな。マルチスレッドの処理が混線して、別のオブジェクト用の行動スクリプトが、本来は動かないはずの彫刻オブジェクトに誤適用されちまったわけか。ゲーム開発でも、背景の木が突然走り出すバグとかよくあったしな)
デバッガーとしての理解が完全に追いついたその時、外の広場からドーーーン!という激しい爆発音が響き渡った。
「ひゃうっ!? 今度は何ですか!?」
「かなり大きな音がしたのー!」
リーネがコタツの布団から飛び出す。
直後、コテージのドアが激しく叩かれ、先ほどの警備兵が血相を変えて飛び込んできた。
「大変だ! 広場に展示されていた、ユキネの師匠が作った『巨大な氷フェンリルの彫刻』にも同じ魔石が使われていたらしくて、それが暴れ出した! このままじゃ、お祭りの会場がめちゃくちゃになっちまう!」
「嘘……お師様のフェンリルまで動いちゃったの!?」
ユキネが顔を真っ青にして立ち上がる。
窓の外を見ると、広場の中心で十メートルを超える巨大な氷の影が咆哮し、冷気の嵐を周囲に撒き散らしているのが見えた。
「よし、みんな。お出かけの時間だ。ちょっとしたバグを取りに行こう」
俺は防寒コートを手に取り、静かに微笑みながら立ち上がった。




