第051話:氷の彫刻祭りと、トコトコ歩くゴーレム
大吹雪が晴れ渡った街道をのんびりと歩くこと一日。俺たちの目の前に、氷雪の結晶帝国が誇る首都『クリスタリア』がその全貌を現した。
「わぁ……凄いです、アキラ様! 街全体が本当に氷と結晶でできているのですね」
フィリアが翡翠色の瞳を輝かせ、まるでおとぎ話の城のような白い城壁を見上げて歓声を上げた。
城門をくぐると、そこには息を呑むほど美しい光景が広がっていた。立ち並ぶ家々の窓枠や柱は半透明の美しい結晶で飾られ、街路樹は太陽の光を浴びて七色に煌めく結晶樹の並木道となっている。
「ちょうど『氷彫刻祭り』の開催中みたいですね。観光客の熱気で、寒さも少し和らいでいるように感じます」
セシリアが周囲を見回しながら微笑む。街の広場や大通りには、多くの露店や屋台が並び、色とりどりのライトアップ用の魔導具が夜の開幕に向けて準備を進めていた。
「アキラ様、あそこの屋台、すごく美味しそうな匂いがします!」
「おっ、行ってみようか。エルナ」
鼻をひくひくさせているエルナの手を引き、俺たちは『結晶シチュー』と書かれた看板の屋台に足を向けた。
注文すると、店主のおじさんが木のお椀に波々と注がれた白いシチューを出してくれた。結晶帝国の特産である白ホクホク芋と、氷結川で獲れた白身魚がゴロゴロと入っている。
「はふはふ……あふぅ、温かくて美味しいです! お魚の身が引き締まっていて、お野菜の甘みがミルクに溶け込んでいます!」
エルナが幸せそうに頬を緩め、スプーンを休めることなく口に運ぶ。
「寒い外で食べる温かい汁物は、やっぱり格別だね! スパイスも少し効いてて、体が内側からポカポカしてくるよ!」
「本当に。このクリーミーなコクは、魔獣のミルクでしょうか。とても濃厚です」
サリアとセシリアも美味しそうに木椀を傾け、セリアは人魚の羽を嬉しそうにパタパタと震わせながらシチューを味わっていた。もちろん、俺の胸ポケットのリーネも「あちち、でも美味しいのー!」と小さなスプーンで器用に食べている。
温かいグルメで満たされ、俺たちが再び街の散策を始めると、前方の広場から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「こら! そっちに回り込め! 逃がすな!」
「あわわわ! 待って、待ってってばー! お祭りの看板を持っていっちゃダメー!」
警備兵たちと、一人の少女の悲鳴のような声。
人だかりをかき分けて様子を覗き込むと、そこには奇妙な光景があった。
体長30センチほどの手のひらサイズの、氷でできた小さなゴーレムたちが、トコトコと楽しそうな足取りで走り回っていたのだ。
氷製のはずなのに、関節が滑らかに動き、両手にお祭りの装飾用リボンやカラフルな果物をしっかりと抱え込んでいる。
「トコトコトコトコ……」
ちび氷ゴーレムたちは、まるで悪戯っ子のように楽しそうに警備兵の包囲をすり抜け、あちこちへ逃げ回っている。
「何ですか、あの可愛い魔物は……?」
「いや、魔物じゃないな」
俺は視界の端に浮かぶ『観光デバッグUI』を起動した。
ちび氷ゴーレムたちをスキャンすると、赤いシステム警告が表示される。
『エラー:天候魔力と自発発光魔石の干渉による、パラメータ混線バグを検出』
やはりバグだ。魔石の配線か何かの不調で、動くはずのない氷のオブジェクトに行動コマンドが混入してしまっているらしい。
「あわあわあわ! ちびゴーレム一号、二号! ストーップ!」
白い防寒着を着た、ポニーテールの少女が必死に追いかけるが、足元の凍った路面で見事に滑り、派手に転倒した。
「ふぎゃうっ!?」
頭を抱えて雪の中に突っ込んだ少女の様子に、周囲の観客からは苦笑が漏れる。ちびゴーレムたちは、転んだ彼女の頭の上にトコトコと登り、勝利のポーズのようにリボンを掲げていた。
「……大丈夫か?」
俺は苦笑しつつ彼女に近づき、そっと手を差し伸べた。




