第005話:白い宗教都市と、見えない穢れ
「アキラ様、見てください! あちらの山の中腹に、真っ白な街が見えますわ!」
街道を歩きながら、フィリアが嬉しそうに指を差した。
アキラが視線を向けると、青空を背景に、白い石造りの美しい街並みが階段状に広がっているのが見えた。街の頂点には、天に突き刺さるような巨大な尖塔を持つ大聖堂がそびえ立っている。
今回の目的地であり、観光マップの二カ所目の登録予定地――『宗教都市サンクタス』だ。
「おー、なかなかの絶景ですね。さすが歴史ある宗教都市だ」
「はい! 風の精霊たちも『あそこには綺麗な大聖堂があるよ』と囁いていましたわ。さっそく行ってみましょう!」
フィリアはすっかり旅を満喫しているようで、足取りも軽い。アキラが道中で作った現代知識の軽食の効果もあり、アキラへの好感度はすでにカンスト状態だ。
だが、アキラが視界の『デバッグマップ』を開くと、のんきな表情が少しだけ引き締まった。
「……綺麗に見えるけど、マップ上はかなり澱んでるな」
ARホログラムの地図上では、サンクタスの街全体が、ぼんやりとした禍々しい紫色(エラー警告色)で覆われていた。バグの警告アラートが、視界の端で静かに点滅している。
【警告:宗教都市サンクタス全域に『中規模の魔力変質(穢れ)』を検出】
【発生源:サンクタス大聖堂・地下区域】
「まあ、とりあえず街に入ってから調査するか」
アキラはUIを閉じ、フィリアと共に白い石門をくぐった。
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サンクタスの街の中は、外見通りに非常に美しかった。
道はすべて滑らかな白い石畳で舗装され、行き交う人々は神聖な白いローブや、教会の紋章が入った鎧を身につけている。街角には神聖なシンボルをあしらった噴水があり、厳かな聖歌のメロディがどこからか聞こえてくる。
「素晴らしいですわ、アキラ様! まるで神聖な精霊の庭園のようです!」
「そうだね。普通の観光地としては、文句なしの三ツ星評価かな」
アキラは『写像水晶』を取り出し、美しい白い街並みをパシャリと撮影した。
しかし、アキラの『デバッグUI』を通してみると、噴水の水や、道行く聖職者たちの足元には、黒く粘り気のある「モヤ」のようなバグデータがまとわりついているのが見えた。もちろん、一般の人々には何も見えていない。
「……綺麗に見せてるけど、システム的にはかなりバグが溜まってるな。このままだと、そのうち街の機能がバグで強制終了するぞ」
アキラはボソリとデバッガーらしい呟きをこぼした。
「アキラ様、何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもないよ。まずは宿を確保して、大聖堂のあたりを散歩してみようか」
「はい! アキラ様と大聖堂デート……コホン、観光ですわね! 楽しみです!」
フィリアは嬉しそうに微笑み、アキラの隣をぴたりとキープした。
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街で一番評判の良い宿『純白の翼亭』に荷物を預けた二人は、夕暮れ前のサンクタス大聖堂へと向かった。
近くで見上げる大聖堂は圧巻のスケールで、美しいステンドグラスから差し込む斜光が、白い石壁を幻想的に彩っている。
しかし、近づけば近づくほど、アキラのUIの警告音は激しさを増していった。
【警告:バグ魔力濃度が安全基準値を超過しています】
【バグ対象:『生贄の鎖』『穢れの蓄積体』】
「『生贄の鎖』に、『穢れの蓄積体』……? ずいぶんと物騒なシステム名だな」
アキラが眉をひそめていると、大聖堂の入り口から、数人の神官たちに囲まれた馬車が到着した。
馬車の扉が開くと、中から一人の少女が降りてくる。
少女は白く神聖な聖女の衣装をまとっていたが、その顔色は土のように青ざめ、目の周りには濃い隈ができていた。細い手首には、重厚な黒い金属のブレスレット――いや、よく見るとルーン文字が刻まれた『呪縛の魔導具』がはめられている。
「うっ……はあ、はあ……」
少女は苦しそうに胸を押さえ、一歩歩くたびに激しく息を切らせていた。
アキラのUIが、その少女をピンポイントでロックオンし、赤い枠で囲んだ。
【バグ検出:対象『エルナ』】
【ステータス:穢れ飽和状態(致死域)、呪縛、衰弱】
【バグレベル:10(致命的)】
「おいおい、なんだあれ……。人間をバグのゴミ箱(魔導書庫)にしてるのか?」
アキラの目に、その少女『エルナ』が背負わされている、世界のシステムエラーの重さがはっきりと映し出されていた。




