第049話:お気楽な雪山ピクニック
「はふぅ……あ、温かいですぅ……」
コテージのリビングに連れ帰った少女――ミーシャは、コタツに下半身を滑り込ませ、セシリアが淹れてくれた温かいスープを両手で包み込むようにして飲んでいた。
青白かった頬には、急速に赤みが戻ってきている。
「落ち着いたか? 俺はアキラ。こっちは仲間のフィリア、エルナ、セシリア、リア、サリア、リーネ、セリアだ」
「す、救っていただき、ありがとうございます。私はミーシャ……この結晶帝国の天候結界を管理する、結界術師の一族の者です」
ミーシャは深々と頭を下げた後、窓の外の猛烈な吹雪を見つめて顔を曇らせた。
「……結界の制御碑がある霊峰カイルの山頂へ向かっていたのですが、途中で吹雪が信じられない強さになってしまって……。この異常な吹雪を止めないと、帝国は数日のうちに完全に氷の世界に沈んでしまいます」
「なるほど。山頂の制御碑に行けば、それを止められるんだな?」
「はい。ですが、この大吹雪の中では山頂に近づくことすら自殺行為です。結界術師の防寒結界ですら、数分で凍りつくほどの冷気ですから……」
絶望に肩を落とすミーシャに、俺はあっさりと微笑みかけた。
「だったら、俺たちも一緒に行くよ。案内してくれないか?」
「えっ!? だ、ダメです! こんな吹雪の雪山に素人の方が登ったら、一瞬で凍死してしまいます!」
ミーシャは目を丸くして猛反対した。だが、リアが「アキラさんが行くって言ったら大丈夫ですよー」とおでんの大根を頬張りながら呑気に言い、フィリアも「アキラ様がいれば、どんな困難もただの観光になりますから」と当然のように頷く。
「な、何を言っているのですか、あなた方は……!?」
常識的なミーシャは完全に混乱していたが、帝国の危機を救うため、俺たちの同行をしぶしぶ承諾した。
翌朝。
コテージの外に出ると、昨日と変わらぬ猛吹雪が吹き荒れていた。
ミーシャは極厚の防寒毛皮を何重にも着込み、結界発動用の魔導杖を握りしめて悲壮な覚悟を決めている。
「……ここから先は地獄です。少しでも体温が下がったらすぐに言ってくださいね」
「ああ、ありがとう。じゃあ、行くか」
俺は一歩踏み出し、同時に『周囲1メートルの気温設定:22度に最適化』のデバッグ処理を適用した。俺たちの周囲だけ、まるで春の陽気のような見えないドームが展開される。
「……あれ?」
数歩歩いたところで、ミーシャが不思議そうな声を上げて立ち止まった。
「風は強いはずなのに……寒く、ない? 結界の魔力消費も全く感じられないのですが……」
「アキラ様の近くにいれば寒くないのー! ぽかぽかなの!」
俺のフードの中からリーネが顔を出してのほほんと笑う。ミーシャは「妖精!? いえ、どうしてこんな薄着で平気なのですか!?」と目を丸くしていた。
さらに山道を登っていくと、行く手に巨大な雪の壁が立ちはだかった。
山の上部から崩れ落ちてきた巨大な雪崩の跡だ。高さは5メートルを超え、完全に道を塞いでいる。
「あっ……ダメです。これだけの雪の壁、迂回するにも登るにも、この猛吹雪の中では体力が持ちません。一度引き返して――」
「いや、ちょっと待ってて」
俺は前に進み出て、その巨大な雪の壁に軽く手を触れた。
視界にデバッグウィンドウが立ち上がる。
『バグオブジェクト:土砂崩落(積雪異常値)を検出。クリーンアップを実行しますか?[はい / いいえ]』
もちろん『はい』をタップする。
フッ――と、光が弾けるような音がした。
次の瞬間、俺たちの目の前を塞いでいた数トンの雪の壁が一瞬でかき消え、平坦で歩きやすい地面が露出した。
「…………え?」
ミーシャが杖を落としそうなほど呆然と口を開けた。何度も目を擦り、消え去った雪の壁のあった場所を見つめている。
「ゆ、雪が消えた……!? 何ですか今の魔法!? 無詠唱で地形を書き換えるなんて、伝説の古代神聖魔術ですか!?」
「いや、ただの除雪だよ。バグってたからね」
「除雪!? これが除雪ですか!? 常識的な除雪はシャベルで何時間もかけるものです!」
「ミーシャさん、アキラ様に常識を求めてはいけませんよ」
セシリアがくすくすと笑いながら、魔法瓶から温かいお茶をコップに注いでミーシャに手渡した。
「さあ、冷めないうちにどうぞ。アキラ様が淹れてくださった紅茶です」
「えっ、あ、ありがとうございます……って、雪山登山の最中に優雅にお茶会ですか!?」
ツッコミが追いつかない様子のミーシャを尻目に、俺たちは「ピクニックみたいで楽しいですね」と笑い合うヒロインたちと共に、何事もなく霊峰の山頂を目指して歩みを進めていった。




