第045話:浮力炉のクリーンアップと、雲海の青空
大聖堂の地下へと階段を下りていくと、そこには暴走した魔力が渦巻く巨大な石造りの部屋があった。
部屋の最奥に鎮座しているのが、天空都市アエロ・ガルドの心臓部である『浮力炉』と『循環浄化システム』を制御する魔導石碑だ。石碑の表面を走る魔力回路は、リアのやらかしによって赤黒い稲妻のようなスパークをバチバチと散らし、狂暴な唸り声を上げていた。
「よし、それじゃあさっそく、バグを直しちゃいましょう」
アキラがデバッグUIを稼働させると、彼の視界に真っ赤な警告ウィンドウが何枚も大きく飛び出してきた。
`【警告:天空浮力・運河循環の相互バグを検出】`
`【エラー原因:管理者端末からの不適切な過負荷信号の送信】`
`【一括クリーンアップを実行しますか? [はい / いいえ]】`
「やっぱり、リア様が連打したせいで過負荷エラーになってましたね」
アキラは苦笑しながら、空中をタッチして『はい』を選択した。
その瞬間、彼の指先から放たれた純白の光の波紋が、激しくスパークしていた魔導石碑全体を包み込んでいった。
赤黒く明滅していた石碑の魔力回路は、アキラの光に触れた瞬間に一瞬で穏やかな黄金色へと書き換えられていく。キィィィンと耳障りな音を立てていたエラーノイズは消え去り、静かで清らかな魔力の手触りへと戻っていく。
そして、そのクリーンアップの光は魔導石碑から地下の魔力ラインを伝い、都の全域へと広がっていった。
地上では、大聖堂の外で待っていた一同が、その奇跡の瞬間を目撃していた。
「あ、あれを見てください!」
セリアが星の髪飾りを揺らしながら、運河の底を指さした。
アキラの解き放った純白の光が、都の地下から水路の底を駆け抜けていく。光が水に触れた瞬間、灰色に澱んで異臭を放っていたドロドロの運河の水が、一瞬にして水晶のように透き通った水へと書き換わっていったのだ。
運河の澱みが消え去り、澄み切った水が豊かなせせらぎの音を立てて都の中を滑らかに流れ始める。
さらに、クリーンアップの光は浮力を生み出す都の土台(浮石)へと到達した。
ガタガタと不気味に震え、徐々に高度を下げていた浮遊島が、ふわりと持ち上げられるように上昇し、雲海の上の安定した高度でピタッと静止した。
都を包んでいた灰色のどんよりとした乱気流の雲が一瞬で吹き飛び、頭上には透き通るようなどこまでも青い空が広がった。
太陽の光が降り注ぎ、水晶のように澄んだ運河の水面に、眼下の白い雲海と青空が鏡のように美しく反射する。それはまさに、空と雲の上を水路が巡る、神秘的な天空の絶景そのものだった。
「水が……水がこんなにきれいに! 都の揺れも止まりましたわ!」
セリアが歓声を上げ、運河を跳ねるように泳ぎながら、虹色の羽をパタパタと動かして喜んだ。
「うわあ……! 水路が鏡みたいになって、空を歩いているみたいだよ!」
サリアがはしゃいで運河のアーチ橋の上を走り回る。
大聖堂からアキラがのんびりと歩いて戻ってくると、エルフや有翼人たち、そしてセリアが涙を流して彼を囲んだ。
「アキラ様! 本当に、本当にありがとうございました! あなた様は都を救ってくださった、伝説の救世主様です!」
「いえ、無事にバグが直って良かったです」
アキラがいつものように穏やかに微笑むと、リアが待ってましたとばかりに胸を張ってアキラの隣に割り込んできた。
「ふふん! どうですか! 私のサポート(?)のおかげで、バグの原因がはっきり分かったからこその解決ですね! さすがアキラ君、そしてさすが私!」
「リア様、さっきエラーを悪化させて泣いてたの、エルナ絶対に忘れない」
エルナが薄紫色の瞳でジトッとリアを睨みつけると、リアは「あうっ! そ、それは過程のほんの一幕ですよぅ!」と気まずそうに目を泳がせた。
その賑やかな様子を見ながら、都の人々は口々に感謝を述べ、アキラたちを温かく都へ迎え入れるのだった。




