第039話:エルフの故郷と、里帰りの歓迎
黄金の光を放つ千の泉の神殿を後にして、馬車は砂漠の東の境界を越えた。
どこまでも続いていた乾燥した赤茶けた大地が、次第にまばらな草原へと姿を変え、やがて視界いっぱいに青々とした巨木の森――エルフの緑樹大国シルフラントの広大な森林地帯が広がった。
「ああ……! 懐かしい風の香り……。我が故郷シルフラントに、本当に帰ってまいりましたわ!」
馬車の窓から身を乗り出し、フィリアが嬉しそうに声を張り上げる。金色の長い髪が、木漏れ日を浴びてキラキラと輝いていた。
「すごーい! 砂漠とは大違いだね! 木がたくさんあって、空気がとってもおいしいよ!」
サリアが窓から深く息を吸い込み、緑の香りを満喫する。
「うん……。森の中、ひんやりしてて静か。エルナも、この場所好きかも」
エルナもアキラの隣で、窓の外に広がる幻想的な大自然を見つめながらぽつりと呟いた。
「アキラ! リーネ、お友達の木の匂いがたくさんするの! とっても元気になるの!」
アキラの頭の上のリーネが、嬉しそうに羽をパタパタと羽ばたかせてアキラの髪を揺らした。
「ふふ、リーネは植物の妖精ですから、この森の豊かな魔力と相性が良いのかもしれませんね」
アキラは頭の上で動くリーネの気配を感じながら微笑んだ。
馬車がエルフの里の巨大な木製ゲートの前に到着すると、数人のエルフの警備隊が槍を構えて現れた。しかし、馬車の窓からフィリアが顔を見せると、彼らは一瞬で表情を和らげ、大慌てで槍を引いた。
「お、おお……! フィリア様! フィリア様のご帰還だ!」
「それに、あの黒髪の青年は……! かつて世界樹の枯死の危機を一瞬で救ってくださった、伝説の浄化者アキラ様ではないか!」
警備兵たちの叫び声は瞬く間に里中に広がり、アキラたちが馬車から降りる頃には、無数のエルフの住人たちが集まってきていた。彼らはアキラを取り囲み、花で作られた首飾りをアキラの首にかけ、口々に感謝と歓迎の言葉を浴びせてくる。
「アキラ様! 世界樹を救っていただき、本当にありがとうございました!」
「アキラ様、どうか我が家でご馳走を食べていってください!」
エルフたちからの熱烈な歓迎に、アキラは両手を振って照れくさそうに微笑んだ。
「あはは……。みなさん、ありがとうございます。でも、僕はただ観光マップを作るために、のんびり旅をしているだけなんですよ」
「ふふ、アキラさんの謙遜は相変わらず突き抜けているわね。これだけの歓迎を受けるのは、当然の功績よ」
セシリアが家計簿を小脇に抱えながら、常識的な視線で微笑む。
「当然ですわ! アキラ様は世界樹と私たちエルフを救ってくださった、比類なき奇跡のお方なのですから!」
フィリアが胸を張り、自分のことのように自慢げに微笑んだ。
歓迎の人波を抜け、アキラたちは里の中央にある、大樹の幹をくり抜いて作られた豪華な『最高長老の館』へと案内された。
広々とした木造の謁見の間に入ると、そこには長く美しい白髭を蓄え、神聖な神官風の緑ローブをまとったエルフの老人が、杖を手に椅子から立ち上がって待っていた。
「フィリアよ、よくぞ無事で帰ってきた! そして――伝説の浄化者、アキラ殿! 我が里へ再びお越しいただいたこと、心より歓迎いたしますぞ!」
フィリアの祖父であり、里を治める最高長老アルヴァンが、威厳ある態度ながらも感激を隠せない様子で歩み寄ってきた。アキラの右手を両手で固く握りしめ、何度も上下に振る。
「はじめまして、アルヴァン様。アキラです。お元気そうで何よりです」
「うむ! アキラ殿のことは、フィリアからの魔導書(手紙)で逐一聞いておりますぞ! 温泉地を復活させ、悪徳商人を破滅させ、さらには砂漠のオアシスや神殿まで浄化されたとか……! まさに神の使者のごとき大活躍、エルフの長として誇らしく思います!」
アルヴァンはアキラの偉業を熱っぽく称えた。しかし、一通り感謝を述べ終えると、その表情に不意に重苦しい影が落ちた。
「……だが、アキラ殿。実は今回、お主がこの里に来てくれたことは、まさに天の配剤としか思えんのだ。実は今、我が里の命綱である世界樹の根元にて、極めて恐ろしい異変が発生しておりましてな……」
「異変、ですか?」
アキラが問いかけると、アルヴァンは深くため息をつき、神殿の奥の世界樹へ続く扉を指し示した。




