第038話:精霊ハチミツのフレンチトーストと、虹の写像
精霊王が泉の底へと帰っていった後、神殿の美しい庭園には、本来の静謐で清らかな空気が戻っていた。
「さて、神殿のバグも無事にクリーンアップできましたし、精霊王様から頂いたハチミツを使って、美味しいおやつにしましょうか」
アキラが穏やかに提案すると、女の子たちの目が一斉に輝いた。
「ハチミツを使ったおやつ……! アキラ様、どのようなお料理になるのでしょう!?」
「アキラ、リーネ甘いもの大好きなの! 早く食べたいの!」
フィリアと、頭の上のリーネが同時に身を乗り出して期待の声を上げる。
アキラは神殿の中庭の開けた芝生の上に、ポータブル魔導コテージ水晶を展開した。一瞬で出現したコテージの中に入り、涼しい魔導キッチンで調理を開始する。
黄金小麦で作った自家製のパンを厚めにスライスする。ボールに野鳥の卵と牛乳、そして少量の甘味石の粉を混ぜ合わせた卵液を作り、パンをじっくりと浸して中まで染み込ませる。
十分に吸わせた後、熱したフライパンに贅沢にバターを溶かし、パンを入れて弱火でじっくりと両面を焼き上げていく。こうばしいバターとパンの焼ける香りが部屋中に広がる中、仕上げに精霊王から授かった黄金色の『精霊のハチミツ』をたっぷりと回しかけた。
「できました。『精霊ハチミツの贅沢フレンチトースト』です」
お皿の上に載せられたのは、ふっくらと黄金色に焼き上がり、表面のバターとハチミツがキラキラと輝くフレンチトーストだった。
「わあぁ……! 何ですか、この美しくて甘い香りは!?」
フィリアが我慢しきれないといった様子でフォークを手に取り、大きく切り分けて口に入れた。
「んむ……! ――! なんという美味しさでしょう……! お口に入れた瞬間に、パンがふわっととろけて、ハチミツの濃厚な甘みと、まるでお花畑の中にいるような高貴な香りが鼻に抜けていきますわ!」
「リーネも食べるの! はむ……ふにゃああぁぁ、おいしすぎるのー! アキラの作るハチミツトースト、世界で一番甘くて幸せなの!」
リーネは小さくカットされたフレンチトーストを両手で抱え、顔中をハチミツだらけにしながら夢中で頬張っていた。
「アキラ……これ、本当に美味しい。甘くて、心がとってもあったかくなる」
エルナも美味しそうに頬を緩め、アキラの袖をぎゅっと握りしめて微笑んだ。
「本当、アキラさんの料理はいつも規格外ね。キーマカリエの後のこの甘さは、本当に悪魔的だわ」
セシリアがお茶を飲みながら、至福のため息をつく。
「あはは! こんな美味しいフレンチトースト、毎日食べられたら、もう砂漠から出たくなくなっちゃうよ!」
サリアも満足そうに笑った。
お腹がいっぱいになったアキラたちは、コテージから神殿の中庭へと戻り、旅の思い出を記録するための準備をした。
現在、デバッグされた神殿の大泉からは、澄んだ水しぶきと共に、無数の美しい虹がアーチを描くように立ち上っており、まさに言葉を失うほどの絶景が広がっていた。
「それじゃあ、この美しい虹の神殿を背景に、写像を撮りましょう」
アキラは『写像水晶』をセットし、タイマーを起動した。
背景には、無数の美しい虹が重なり合う白亜の神殿と、透き通った大泉。
アキラの頭の上にはリーネが嬉しそうに立ち、両脇にはサリアとフィリアが華やかに並ぶ。アキラの隣で少し照れくさそうに手を握るエルナ、そして一歩後ろから楽しげに微笑むセシリア。
「はい、チーズ――」
写像水晶が柔らかな光を放ち、その絶景と笑顔が結晶の中に美しく記録された。
アキラは完成した写像を神界の女神リアへと送信した。送信後すぐに、リアの悶絶する通信が脳内に響いてきた。
『アキラぁ! 何それ! 虹がこんなに綺麗に架かる神殿でフレンチトースト食べてるの!? しかも精霊王から直接ハチミツ貰うなんて、完全にチート観光ライフじゃない! 私も今すぐそのコテージに行って、ハチミツ舐め回したいよー! 絶対また遊びに行くからね!』
「はいはい、リア様。お仕事頑張ってくださいね」
アキラは穏やかに脳内通信をミュートし、写像水晶をポケットにしまった。
「さて、神殿のバグもクリーンアップできました。バロックたちも片付きましたし、そろそろ出発しましょうか」
「次はどこへ行くの、アキラ?」
サリアが笑顔で尋ねる。
「マップによると、この砂漠の東の境界を越えた先に、世界樹を擁するエルフの緑樹大国シルフラントへと続く交易路があるみたいです。そちらへ向かって進みましょう」
「まあ! 世界樹のある我が故郷ですのね! アキラ様、ぜひみんなをご案内させてください!」
フィリアが嬉しそうに声を張り上げる。
「うん……。アキラと一緒なら、どこまでも行く」
エルナがアキラの袖を引きながら、静かに、しかし嬉しそうに頷いた。
アキラはコテージを水晶に戻してポケットにしまい、馬車に向けて歩き出した。
千の泉の神殿に架かる美しい虹に見送られながら、アキラたちの馬車は、次なる新たな絶景とグルメを求めて、ゆっくりと走り出した。




