第037話:精霊王の怒りと、密猟団の自滅
泉から突如として現れた光と水の巨獣――古代の精霊王は、その巨大な瞳で周囲を見下ろした。
そして、自分に向かって爆弾や武器を構え、聖域である神殿を荒らし回っていたバロックたち密猟団の姿を捉えた瞬間、その瞳に静かな、しかし圧倒的な怒りの炎が灯った。
「キィィィオオオオオオォォォン!」
神殿全体を激しく震わせる、天上の鐘のような咆哮が響き渡る。
それと同時に、精霊王の巨体から、まるで決壊したダムのように、神々しい光を放つ濁流が一斉に解き放たれた。それは大波となって広場を埋め尽くし、密猟団に向けて怒涛の勢いで押し寄せた。
「う、うわあぁ! 魔法障壁を展開しろ! 防げ、防ぐんだ!」
バロックが悲鳴を上げながら、魔導弓で障壁を展開しようとするが、精霊王の放った奔流の前には赤子同然だった。
展開した魔導障壁は光の激流に接触した瞬間、ガラス細工のように粉々に砕け散り、密猟団の男たちは手にした大剣や魔導具ごと激流に飲み込まれていった。
しかし、アキラたちの『絶対安全領域』の中だけは、激流が避けるように二手に分かれて流れていくため、水滴一つ飛んでこない。
「わあぁ……。なんという圧倒的な精霊の力でしょう……!」
フィリアが両手を胸の前で握りしめ、神聖な光景に見惚れている。
「すごい水圧……。流されてる人たち、洗濯機の中みたい」
エルナがアキラの袖を握りながら、激流の中で木の葉のようにくるくると回転しながら流されていくバロックたちを冷静に指さした。
「ふふ、自業自得ね。神聖な遺跡を爆破しようだなんて罰当たりなことをするからよ」
セシリアが呆れたように肩をすくめる。
「ひゃあ! そのまま結界の外まで押し流されちゃってるよ!」
サリアが楽しそうに笑う。
バロックたちは激流に揉まれ、武器や爆弾をすべて水圧で破壊されながら、アキラがクリーンアップして正常化した神殿の防衛結界のゲートの向こう側へと、一瞬で洗い流されていった。
結界の外では、バグ消去の報を受けて駆けつけていたシャディールのギルド警備隊が待ち構えており、流されてきたバロックたちを「神殿荒らしの現行犯」として全員まとめて網で捕獲し、逮捕していった。
密猟団が完全に排除されると、荒れ狂っていた激流はすうっと引いていき、神殿には再び静寂が戻った。
精霊王は光り輝く巨体をゆっくりと揺らしながら、アキラたちの目の前まで降りてきた。
その巨体がアキラの鼻先数メートルの位置で静止する。
フィリアたちは精霊王の圧倒的な威圧感に緊張の息を呑んだが、アキラは優しく微笑み、その巨体に手を伸ばした。
「こんにちは。もう悪い人たちは行きましたから、ゆっくり休んでくださいね」
アキラが精霊王の光り輝く体表にそっと触れると、アキラの『精霊の寵愛』チートが発動した。
精霊王は嬉しそうに「キュイィ……」と可愛らしい声を漏らし、巨体をアキラの手に甘えるように摺り寄せてきたのだ。
「ま、精霊王様がアキラ様にすっかり懐いておられますわ……! さすがアキラ様、精霊の王すら一瞬で手懐けてしまわれるなんて!」
フィリアが目を輝かせて大感激している。
「アキラの頭の上が大好きなリーネと同じなの! この子もアキラに甘えたいの!」
頭の上のリーネが誇らしげに胸を張る。
精霊王はアキラの撫でる手に満足そうに目を細めた後、お礼を示すように、大泉の水面から一つの小さな黄金の壺を浮き上がらせ、アキラの前にそっと差し出した。
壺の中には、蜂蜜のようにとろりとした、神々しい黄金色の液体が満ちていた。
「これは……ハチミツでしょうか?」
アキラが壺を受け取ると、デバッグUIに説明が表示された。
`【希少アイテム:精霊のハチミツを検出】`
`【精霊王の魔力が結晶化した伝説のハチミツです。極上の甘味と魔力全快効果があります】`
「なるほど、お礼の品ですね。ありがとうございます、大切に使わせてもらいます」
アキラが感謝を述べると、精霊王は満足そうに一度大きく羽ばたき、光の粒子となってゆっくりと澄んだ泉の底へと帰っていった。




