第036話:結界のクリーンアップと、目覚める精霊王
「野郎ども、ぶち殺せ!」
バロックの冷酷な怒号と共に、密猟団の男たちが一斉に引き金を引いた。
無数の魔導矢や、火と土の属性魔法の弾丸が、凄まじい風切り音を立ててアキラたちへと殺到する。
「危ないっ!」
サリアが叫ぶが、アキラは慌てず、ただ一歩前に出て静かに呟いた。
「『絶対安全領域』展開」
その瞬間、アキラたちの周囲に球状の透明な障壁が出現した。
突っ込んできた魔導矢や火球は、その障壁に接触した瞬間、まるで巨大な岩盤に激突したかのように激しく火花を散らして霧散していった。どれだけ激しい攻撃を浴びせようと、アキラたちの結界は揺るぎもしない。
「な、なんだと!? 魔導弓の矢を無傷で弾き返しただと!?」
バロックが驚愕で目を見開く中、アキラはのんびりとした足取りで、広場の中央にある『結界魔導碑』へ向けて歩き出した。
「おい、てめぇ! 何をする気だ!」
バロックが再び矢を放つが、やはり障壁に弾かれる。密猟団の魔法使いが放った強烈な爆風魔法も、障壁に阻まれてただの心地よいそよ風となって通り過ぎるだけだった。
「ちょっと、アキラ様の進行を邪魔しないでくださる? これ以上の無礼は、私たちが許しませんわよ」
フィリアが風の魔導障壁をまといながら、優雅に髪をかき上げてジャミール……ではなくバロックたちを睨みつけた。
「うん、アキラの邪魔をする人、エルナが許さない」
エルナも背中の白い翼を少し広げ、薄紫色の瞳に冷たい光を宿す。
アキラは神殿の中央にある、太いツタと泥に覆われた巨大な『結界魔導碑』の前に到着した。
碑の表面には、エラーを示す不気味な赤い魔力回路が浮き上がり、嫌な唸り声を上げている。
(なるほど。この魔導碑の回路にバグが生じたことで、神殿の防衛結界が遮断され、水質管理システムも停止していたわけですね)
アキラは泥とツタをかき分け、不気味に赤く明滅する石碑にそっと右手を触れた。
その瞬間、彼の視界にホログラムのシステムウィンドウが浮かび上がる。
`【警告:神殿防衛結界システムのバグを検出】`
`【魔力循環のショートにより、結界が90%以上損耗しています】`
`【クリーンアップを実行しますか? [はい / いいえ]】`
「それじゃあ、このバグ、クリーンアップしちゃいますね」
アキラは心の中で『はい』をタッチした。
直後、アキラの指先から、眩い純白の光の波紋が解き放たれた。
それは波打つように石碑を包み込み、こびりついていた汚い泥やツタを瞬時に光の粒子としてデリートしていった。
赤くバグを起こしていた魔力回路は、アキラの光に触れた瞬間に清らかな黄金色へと書き換えられ、神殿全体へ向けて滑らかに駆動し始める。
「あ、魔導碑が光り輝いていくわ……!」
セシリアが感嘆の声を上げる。
光の波紋は石碑から床を走り、大泉の水面へと一気に広がっていった。
その変化は劇的だった。
どろどろに濁り、不快な臭いを放っていた大泉の水が、光の波紋が通った瞬間、クリスタルのように澄み切った清流へと大復活を遂げたのだ。泉の底に積もっていた泥は消え去り、周囲の荒らされていた花々が一斉に青々としたつぼみを開き、咲き誇っていく。
「素晴らしいですわ……! これこそ、本来の千の泉の神殿の姿ですわね!」
フィリアが感動のあまり両手を胸の前で組む。
だが、変化はそれだけでは終わらなかった。
澄み渡った泉の底から、とてつもない魔力の光が溢れ出し、水面が大きくうねり始めたのだ。
「う、うわあぁ!? 泉の底から何かが上がってくるぞ!」
バロックが恐怖で後ずさりする。
バシャアァン! と大きな水しぶきを上げて姿を現したのは、光と水でできた、巨大なクジラと大鳥を融合させたかのような、神々しい姿をした古代の「精霊王」だった。
その巨体は神殿の天井近くまで届き、周囲に無数の美しい虹をまとわせながら、静かに、しかし圧倒的な威容でアキラたちを見下ろした。




