第034話:砂漠の夜景と、新たな旅への写像
騒がしい悪徳商人の襲撃劇が終わり、シャディールの街に静かな夜が訪れた。
昼間の酷暑が嘘のように冷え込む砂漠の夜だが、アキラたちのコテージのテラスは、魔導制御された障壁システムによって快適な室温に保たれていた。
アキラたちは、コテージの広々としたバルコニーに出て、夜風に吹かれながら外の景色を眺めた。
「まあ……! なんて美しいのでしょう……!」
フィリアがバルコニーの木製手すりに手をかけ、うっとりとしたため息を漏らす。
眼下に広がる交易都市シャディールは、夜になると一変していた。バザールの白いテントや石造りの建物が、数千もの魔導ランタンの柔らかな橙色や青色の光で照らし出され、まるで砂漠の中に浮かび上がる光の海のようだった。
「うん、すごくキラキラしてる……。星空みたい」
エルナがアキラの隣にそっと寄り添い、夜空に輝く満天の星々と、街の明かりを交互に見つめながら呟く。
「そうだね。これだけたくさんの光が集まる街は、砂漠でもここだけだよ。アキラ、案内した甲斐があったかな?」
サリアがいたずらっぽく笑いながら、アキラの肩に頭を預けてきた。
「ええ、本当に素晴らしい絶景ですね。サリア、案内してくれてありがとうございます」
アキラが優しく微笑むと、サリアは嬉しそうに目を細めた。
「リーネも! リーネもこのキラキラ大好きなの! アキラ、リーネの頭も撫でてほしいの!」
アキラの頭の上で、リーネが彼の黒髪を小さな手でつかみながらパタパタと羽を揺らす。アキラは手を伸ばし、頭の上の小さな相棒を指先で優しく撫でてやった。リーネは「ふにゃー」ととろけるような声を上げる。
「ちょっと、サリアもリーネもどさくさに紛れてアキラさんに甘えすぎじゃないかしら? ……まあ、これだけの景色なら、私も文句は言えないけれど」
セシリアは手元で温かいお茶の入ったコップを持ちながら、呆れたように微笑んだ。
「せっかくの素晴らしい夜景ですし、この旅の記録として、みんなで写像を撮りましょうか。リア様への観光マップ報告にもちょうど良いですからね」
アキラは懐から『写像水晶』を取り出し、バルコニーの手すりの上にセットしてタイマーを起動させた。
「はい、それじゃあ撮りますよ。3、2、1――」
写像水晶がチカッと柔らかな光を放ち、バルコニーに並ぶアキラたちの笑顔と、背後に広がるシャディールの美しい夜景が一枚の写像として美しく記録された。
アキラは完成した写像を満足そうに確認すると、デバッグUIを通じて神界にいる女神リアへと送信した。
送信して数秒後、アキラの脳内にリアの羨ましがる大絶叫が響き渡った。
『ちょっとアキラぁ! 何その超豪華なコテージ!? しかもそんなに綺麗な夜景の見えるバルコニーで、みんなで楽しそうにしちゃって! ずるい! 私も今すぐそのコテージのソファーでゴロゴロしたい! 絶対また有給休暇取って会いに行くからねーっ!』
「あ、リア様。いつも神界からのお仕事お疲れ様です。それじゃあ、また」
アキラはリアの叫びをそっとミュートし、通信を切断した。
「ふぅ。さて、砂の交易都市のデバッグも無事に終わり、便利なコテージも手に入りました。明日からはまた、観光マップを完成させるために次の目的地へ出発しましょう」
「次はどこへ向かうんですの、アキラ様?」
フィリアが興味津々でアキラを見つめる。
「そうですね……。マップによると、この砂漠をさらに東へ越えた先に、古代の巨大な精霊が眠るという『千の泉の神殿』があるみたいです。次はその絶景を目指しましょうか」
「千の泉の神殿……! まあ、精霊使いの私としては、これ以上ないほど魅力的な場所ですわ!」
「うん、アキラと一緒なら、どこでも行く」
エルナがアキラの袖をぎゅっと握る力を少し強めた。
「そうね、快適なコテージも手に入ったし、これからの砂漠の野宿も格段に楽になるわ。それじゃあ、明日の出発に備えて、今夜はコテージのふかふかのベッドでしっかり休みましょう」
セシリアがハキハキと仕切り、ヒロインたちはそれぞれ嬉しそうに部屋へと戻っていった。
アキラは最後にもう一度、バルコニーからシャディールのきらめく光の海を見つめた。
頭の上のリーネが眠そうに小さなあくびをするのを感じながら、アキラはこれからのスローライフ旅の楽しみに胸を膨らませ、静かにコテージのバルコニーの扉を閉めた。




