第033話:悪徳商人の焦りと、豪華コテージの宴
出現した白木のコテージに足を踏み入れた瞬間、一同は一斉に感嘆の吐息を漏らした。
「涼しい……! 砂漠のあの茹だるような暑さが、全く嘘のようですわ!」
フィリアが心地よさそうに両手を広げ、部屋を満たす爽快な冷気にうっとりと目を細める。
「うん……。お部屋の中、ひんやりしてて、すごく気持ちいい」
エルナもアキラの隣で、ふかふかしたソファーに真っ先に腰を下ろしてふにゃりと微笑んだ。
「すごいわ、アキラさん。これ、コテージの壁に『冷却魔導具』の回路が何重にも組み込まれて最適化されているのね。魔力の消費も最小限に抑えられているし、これだけで王宮レベルの宿泊施設よ!」
セシリアが室内の魔導回路を観察し、大興奮で解説する。
「あはは! 砂漠の中にこんな快適な別荘が一瞬で作れるなんて、もう旅の常識がひっくり返っちゃうよ!」
サリアもリビングを走り回り、嬉しそうに声を上げた。
「リーネも、このお部屋大好きなの! ふかふかのベッドがあるの!」
リーネはアキラの頭から飛び立ち、ふかふかのソファーのクッションの上をトランポリンのように跳ね回っている。
「気に入ってもらえて良かったです。さて、せっかく豪華な魔導キッチンもありますから、今日のお昼ご飯はここで作りましょう」
アキラはキッチンに立ち、氷結魔導箱から取り出した高級なお肉と、バザールで買った新鮮なスパイスを取り出した。
お肉を細かく挽き、すりおろした野菜とスパイスをじっくりと炒め合わせる。やがて、コテージ内に鼻腔をくすぐる芳醇で刺激的な香りが広がり始めた。
お皿に盛り付けたのは、黄金色のサフランライスに、たっぷりのピリ辛挽肉を載せた『砂漠の宮廷キーマカリエ』だ。
「さあ、できましたよ」
アキラが差し出すと、全員がテーブルを囲み、スプーンを動かした。
「おいひぃ! お肉の旨味とスパイスの辛さが絶妙だよ! 涼しい部屋で食べるスパイシーなお料理って、最高だね!」
サリアが頬を染めてスプーンを口に運ぶ。
「本当に……! この深い辛味とコク、体が中から元気になっていくようですわ!」
フィリアも美味しさのあまり、ハフハフと息を吐きながら夢中で平らげていく。
アキラはさらにデザートとして、冷たく冷やした甘酸っぱい砂漠ベリーのシャーベットを振る舞った。キーマカリエの辛さの後に食べる冷たいシャーベットの甘みは格別で、ヒロインたちはすっかり至福の表情で脱力していた。
コテージ内がそんな幸せな空気に包まれていた、その時だった。
「おい! このふざけた家の中にいる貧乏旅人ども! 今すぐそこから出てこい!」
コテージの外から、怒り狂ったような下品な声が響いてきた。
「あら、この声って……」
セシリアが怪訝そうに窓の外を覗く。
そこには、額に青筋を立てた強欲商人ジャミールが、棍棒や大剣を持った十数人の屈強な私兵を引き連れて、宿の裏庭へ力ずくで踏み込んできていた。
「アキラさん、あいつ、あの呪いの結晶が伝説の空間魔導具に大復活したっていう噂を聞きつけて、強奪しに来たのよ!」
セシリアの言葉に、アキラはスプーンを置いた。
「なるほど。せっかくの美味しい食後の時間が台無しですね」
「アキラ、あいつら、エルナがやっつける?」
エルナが静かに立ち上がろうとするが、アキラはそれを優しく手で制した。
「いいえ、エルナ。僕たちが手を下す必要はありませんよ。――実はこのコテージ、デバッグしたことで『自動防衛セキュリティシステム』も完璧に正常化しているんです」
アキラがそう言ってデバッグUIの画面を一枚スワイプした、次の瞬間だった。
「おのれ、出てこんか! なら力ずくでその珍妙な家ごと奪い取って――」
ジャミールがコテージの敷地内に一歩踏み込んだ瞬間、庭の石畳からバチバチと眩い雷光が噴き出した。
「ぎゃあああああ!?」
大音響と共に激しい電撃がジャミールたちを直撃する。彼らは悲鳴を上げながら、一瞬で十メートル以上後方へ吹き飛び、芝生の上にまとめて転がってピクピクと痙攣し始めた。
「な、何が起きたの……?」
サリアが窓から身を乗り出して呆然と呟く。
「コテージの敷地内に敵意を持って侵入した者を、自動で迎撃する結界魔法ですね。アキラがクリーンアップして最適化したので、容赦なく稼働します」
アキラがのんびりと説明していると、騒ぎを聞きつけたギルドの警備隊がゾロゾロと裏庭へ駆け込んできた。
彼らは倒れているジャミールたちを見て、すぐに状況を把握した。
「おい、ジャミール! 白昼堂々、他人の宿泊場所に私兵を率いて押し入るとは強奪未遂だな! さらに競売会での詐欺的行為の余罪もたっぷりある! 連行しろ!」
「ま、待て! 私はシャディールの大商人だぞ!? こんな底辺の旅人の味方を――ぎゃあ!」
ジャミールは警備兵に力ずくで組み伏せられ、無様に叫びながら引きずられていった。
「ふぅ、勝手に自滅してくれたわね。これでゆっくりデザートの続きが食べられるわ」
セシリアが呆れたように肩をすくめ、アキラは「そうですね」と微笑みながら、再び冷たいシャーベットを口に運んだ。




