第024話:渇水バグのデバッグと、湧き出る奇跡
「オアシスが枯れたのは、三日前のことだよ。急に地下から水が湧かなくなって、あっという間に湖が干上がっちまったんだ」
サリアはヤシの木の陰で、アキラが差し出した特製冷水の二杯目を飲みながら、つらそうに顔を曇らせた。
彼女の案内で、アキラたちはオアシスの中心にある、古びた石造りの地下神殿の入り口へと向かっていた。ここがオアシスのすべての水源を管理する地下水脈への入り口だという。
「なるほど……。自然に枯れたにしては、タイミングが良すぎますね」
アキラがデバッグUIのレンズを通して地下へと続く階段を見つめると、赤黒いノイズのようなバグの霧が、螺旋階段の奥から立ち上っているのが見えた。
「アキラ様、この奥からとても不穏な魔力を感じますわ。精霊たちも『お水が苦しがっている』と泣いています」
フィリアが風の精霊の声を聞き取り、眉をひそめた。エルナもアキラの服の裾をぎゅっと握り、「エルナも、この匂い知ってる。サンクタスの大聖堂の地下と同じ……黒くて、冷たい匂い」と静かに告げた。
それを聞いたアキラの表情が、少し冷たさを帯びる。
「教会の魔力システムですか。どうやら彼らの残党が、腹いせにここの水脈を塞いだみたいですね。さあ、サクッとデバッグしに行きましょう」
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地下深くにある水脈の源泉の間。
そこは、本来なら大量の清水が湧き出す美しい石造りの円形ホールのはずだった。しかし、現在はホールの中心にある巨大な魔法障壁のバルブ――魔力水脈の制御陣に、禍々しい紫色の光を放つ『妨害呪印』がべったりと張り付いていた。
「なんだあれ!? あんな紋章、三日前にはなかったのに!」
サリアが驚いて叫ぶ。アキラは迷わずその制御陣に近づき、デバッグUIを起動した。
【警告:魔力水脈に仕込まれた『妨害呪印』を検出】
【水流遮断バグにより、オアシス全域への水分供給がシステムエラー停止しています】
【事象書き換えを実行しますか? [はい / いいえ]】
「誰かの残業(生贄)で成り立っているシステムも最悪だけど、自分たちの腹いせに罪のないオアシスを枯らすような悪質な嫌がらせ(バグ)は、一瞬でデリートするに限りますね。――はい、クリーンアップ開始」
アキラが『はい』をタップし、制御陣の黒い泥のような呪印にそっと触れた。
キィィィン……パキン!
澄んだ硬質な音が地下ホールに響き渡る。
アキラの指先から流れ出た純白の光の奔流が、一瞬にして禍々しい紫の呪印を飲み込んだ。ノイズだらけの配列がクリーンな白へと書き換わり、パリンと硝子が割れるようにして呪印が完全に消滅した。
「え……? 触った、だけ……?」
サリアが金色の瞳を丸くして呆然とする。
しかし、驚くのはこれからだった。
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ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
大地の底から、地響きのような大音響が轟いた。
「みんな、水が来ます! 下がって!」
アキラが叫び、ヒロインたちを下がらせた次の瞬間、制御陣の中心から、クリスタルのように透明な清水が、天井に届くほどの勢いでドッと噴き出した。
もの凄い水圧で溢れ出した水は、乾ききっていた地下ホールを一瞬で満たし、水路を伝って地上へと勢いよく流れ込んでいく。
「地上へ戻りましょう!」
アキラたちは急いで螺旋階段を駆け上がり、外へと飛び出した。
陽光の下、オアシスの盆地は奇跡のような光景に包まれていた。
地下から溢れ出た大量の青い水が、ひび割れた湖底に怒涛の勢いで流れ込み、あっという間にサファイアのように青く澄み渡る巨大な湖を大復活させたのだ。
さらに、水が満ちると同時に、立ち枯れていたヤシの木々が一斉に瑞々しい緑の葉を茂らせ、色鮮やかな熱帯の花々が咲き乱れた。風の精霊たちが嬉しそうに歌い、湖面の上を舞い踊る。
「水が……サフィールの湖が、戻ってきた……!」
サリアはその場に膝をつき、奇跡の青い湖を見つめて涙を流した。
オアシスの広場に集まっていた部族の人々も、大歓声を上げて抱き合い、喜びを爆発させている。
「信じられない……。呪文の詠唱もなしに、こんな一瞬で世界を書き換えるなんて……」
サリアはアキラを振り返り、その目に強烈な尊敬と、それ以上の熱い光を灯して立ち上がった。




