第020話:お騒がせ女神と、引き寄せられるバグ
「ええっ!? あなたが、アキラさんを異世界へ送り込んだ創造の女神様ですって!?」
翌朝。
焚き火を囲みながら、セシリアが素っ頓狂な声を上げた。
アキラが事情を説明すると、ヒロインたちは一様に驚愕し、目の前で美味しそうに木苺のタルト(アキラがマリーナで買っておいたもの)を頬張っているリアを見つめた。
「はいっ! アキラさんにバグ取り用のチートをあげた、偉大な女神リアです! このタルト、すっごく美味しい〜!」
「……お姿は神々しいですが、なんだかとてもポンコツな匂いがしますわね」
「アキラは、私の。神様でも……譲らない……」
フィリアがジト目で観察し、エルナはアキラの腕をぎゅっと抱きしめてリアを牽制する。
リアはタルトをもぐもぐ食べながら、「大丈夫ですよ! 私はアキラさんの旅の邪魔はしません! ただ観光を楽しみに来ただけですから!」と無邪気に胸を張った。
────────────────────
朝食を終えた一行は、渓谷の絶景スポットを巡るために散策を開始した。
切り立った崖の間を流れる澄んだ川と、そこにかかる木製の古い吊り橋。
リアはその美しい光景に大はしゃぎし、吊り橋の上でバンザイをして叫んだ。
「わあ〜! すごいです! 本当に絵の具を溶かしたみたいな青い川! 空気も美味しい!」
リアの感情が昂ぶった、その瞬間だった。
彼女の体から、眩いばかりの純白の『神聖魔力』がドッと周囲に漏れ出した。
キィィィン! と大気が鳴動し、アキラのUIに赤色のシステム警告が大量に発生した。
【警告:極高濃度の魔力干渉を検出】
【周辺の魔物のステータスが狂暴化に書き換わります】
【天候システムに致命的なエラー:局所的超大型台風が発生します】
「あ……れ? ちょっと魔力が漏れちゃいました……?」
リアが頬に手を当てて冷や汗を流す。
次の瞬間、さっきまで快晴だった青空が真っ黒な雨雲に覆われ、激しい嵐が吹き荒れ始めた。さらに、渓谷の奥から、目を赤く光らせて暴走したグリフォン(怪鳥の魔物)の群れが、キィィィと叫びながら急降下してくる。
「ひゃあああ!? アキラさん、なんか怖いのが来ました! 助けてください!」
リアは一瞬でアキラの背後に回り込み、彼の腰にしっかりとしがみついた。
────────────────────
「アキラ様、私たちが防ぎますわ!」
「アキラ、さがって……!」
フィリアとエルナが武器を構えるが、アキラは「いいよ、二人とも。俺が直すから」と、前に一歩踏み出した。
アキラは荒れ狂う嵐の風に手をかざし、デバッグUIを操作する。
【魔力暴走バグ(リアの興奮による大気崩壊)を検出】
【事象書き換えを実行しますか? [はい]】
「せっかくの有給旅行なんですから、お騒がせはほどほどにしてくださいね。――はい、クリーンアップ」
アキラが頭の中でタップした。
――ピロリン。
アキラの手元から、爽やかな風の波紋が広がった。
波紋が大気に溶け込むと、吹き荒れていた暴風雨が一瞬にして掻き消え、元の抜けるような青空と心地よい陽光が戻ってきた。
急降下していたグリフォンたちも、アキラの『精霊の寵愛』の効果で一瞬にして人懐っこい表情になり、アキラの周りを嬉しそうにパタパタと旋回した後に、大人しく森へと帰っていった。
そして、晴れ上がった渓谷の空に、驚くほど巨大で七色に輝く美しい虹が、ゆったりとかかった。
【クリーンアップ完了:気象バグをデリートし、渓谷に『特大虹(絶景仕様)』を生成しました】
「うわあ……! 本当に一瞬で嵐が消えちゃいました! しかも綺麗な虹まで!」
リアはアキラの背中から顔を出し、目をきらきらと輝かせた。
フィリアたちもまた、「さすがアキラ様ですわね」と誇らしげに微笑み、アキラへの好感度をさらに高めていた。




