第019話:空から降ってきた有給休暇
「あ〜、やっぱりマリーナのシーフードも美味しかったけど、この渓谷の空気も最高ね」
夕暮れ時の『青風の渓谷』。
セシリアが淹れてくれた温かいハーブティーを飲みながら、アキラは焚き火の傍らで息を吐いた。
港町マリーナを出発したアキラたちは、絶景と名高い渓谷で今夜のキャンプを張っていた。
「そうですわね! 風の精霊たちもとても穏やかに歌っていますわ。お風呂上がりの風が気持ちいいです!」
「アキラ……今日のお魚、美味しかった」
フィリアが髪をなびかせながら微笑み、アキラのすぐ隣をキープしているエルナも、満足げに小さな白い翼をパタパタさせている。
「はいはい、そこのお二人。アキラさんにべったりくっつくのはいいけれど、明日の分の食費の計算を手伝ってちょうだい。アキラさんがお肉やお酒を買いすぎるから、今月の家計簿はカツカツなんだからね」
セシリアが羽織り物のエプロンを正しながら、ジト目でアキラたちを睨んだ。
すっかり旅のまとめ役(お財布番)が定着した彼女に、アキラは苦笑いするしかない。
「まあまあ、たまの贅沢ですよ。さあ、夜風が冷たくなる前に、テントに入りましょうか」
アキラが立ち上がろうとした、その時だった。
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ヒュゥゥゥゥン……!
夜空の向こうから、不気味な高音が響いてきた。
アキラが顔を上げると、夜空を切り裂くように、眩しく光り輝く巨大な流星がこちらに向かって急降下してきているのが見えた。
「ア、アキラ様!? 何か凄まじい光の質量がこちらに迫っていますわ!」
「アキラ……あぶない!」
フィリアが杖を構え、エルナがアキラの前に立ちはだかる。
だが、アキラのデバッグUIは、その光る物体にすでに緑の中立マークを灯していた。
【識別完了:対象『女神リア』。バグ要素:なし】
【衝突予想地点:キャンプ地の正面広場】
「いや、大丈夫だよ。どうやら『お騒がせな神様』が落ちてくるだけみたいだから」
アキラがため息をついた瞬間。
ドゴォォォン!
キャンプ地のすぐ目の前の芝生に、巨大な光の弾が激突した。
土煙とまばゆい光が立ち込め、フィリアたちが「きゃっ!」と顔を覆う。
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やがて、煙がゆっくりと引いていくと、そこには直径数メートルのクレーターができていた。
その中心で、頭を抱えてしゃがみこんでいる桜色の髪の美少女の姿があった。
彼女は、両手に神界の高級お菓子が入った紙袋と、金色の判が押された一枚のスクロール(羊皮紙)をぎゅっと抱きしめている。
「うぅぅ……座標設定をちょっとミスしました……。あいたたた……。でも!」
少女は頭をさすりながら立ち上がると、アキラの姿を見つけて満面の笑みを咲かせた。
そして、抱えていたスクロールを天高く掲げる。
「アキラさ〜ん! ついに、ついに有給休暇(3日間)の許可が下りましあーーーっ!」
自らを創造の女神リアと呼ぶその少女は、光り輝く羽衣をなびかせながら駆け寄り、勢いよくアキラの胸に飛び込んできた。
「きゃっ!? アキラさん、久しぶりです! 本物の温もり! 神界の冷たい机とは大違いです!」
「いや、女神様。有休取れたのはおめでたいですが、ハグがちょっときついです……」
アキラが苦笑いしながら彼女をなだめようとする。
だが、ふと顔を上げると、アキラの目の前には、凍りついたような無表情で立ち尽くすフィリア、エルナ、セシリアの姿があった。
「アキラ様? その……光り輝く、馴れ馴れしい女は、どなたですの……?」
「アキラ……その女、だれ。エルナから、離して……」
「アキラさん? ちょっと説明が必要なんじゃないかしら?」
アキラの背中に、夜風よりも冷たい殺気(のようなジト目)が突き刺さる。
アキラは「えーっと……」と視界のUIをそっと閉じ、冷や汗を流した。




