第014話:海の見える港町と、下働きの元令嬢
「わあ……! 海ですわ、アキラ様! 水平線がどこまでも広がっています!」
「うみ……ひろい。水がきらきらしてる」
潮風が通り抜ける街道の先に、青く輝く広大な海が見えてきた。
フィリアが帽子を押さえながらはしゃぎ、エルナもアキラの服の裾をぎゅっと握ったまま、珍しそうに海を見つめている。
アキラたちの三カ所目の目的地であり、商業と交易の中心地――『商業・海洋国家マリーナ』の港町に到着した。
港には無数の帆船がひしめき合い、市場からは活気のある売り声と、新鮮な魚介類を炭火で焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
「うん、磯のいい匂いだ。今日の晩ご飯は美味しい魚料理で決まりですね」
「賛成ですわ! 海の精霊たちも『貝のスープが美味しいよ』と教えてくれました!」
「エルナも……お魚、たべたい」
アキラはのんきに笑いながら、まずは街の冒険者ギルドへと向かった。観光マップを作るための周辺の「写像スポット(絶景)」を調べるためだ。
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マリーナのギルドは、港のすぐ近くにある大きなレンガ造りの建物だった。
中に入ると、交易都市らしく様々な人種の商人や冒険者が行き交い、忙しなく書類をやり取りしている。
アキラが掲示板や地図を眺めていると、すぐ近くでモップを持って床を掃いている少女の姿が目に入った。
その少女は、長い銀髪をサイドポニーにまとめ、活動的なメイド服を着ていた。
使い古されたメイド服ではあったが、背筋がすっと伸びており、モップをかける所作にはどこか名門貴族の令嬢のような、洗練された品格が漂っている。
「……ふぅ」
少女は小さくため息をつき、額の汗を拭った。
その横顔には隠しきれない深い疲労の色があり、アキラの『デバッグUI』がすかさず彼女をピンポイントでロックオンした。
【バグ(契約の呪縛)検出:対象『セシリア』】
【ステータス:魔力制限、肉体疲労、精神的過労】
【バグ要因:『不当な強制労働契約』】
「また物騒なバグだな……。今度は不当契約によるステータス異常か」
アキラは眉をひそめて画面を見つめた。
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その時、ギルドの入り口から、派手な毛皮のコートを着た太った商人と、その用心棒らしき男たちが踏み込んできた。
商人はギルドの様子を見回すと、床を掃いていたセシリアを見つけて下卑た笑みを浮かべた。
「おいおい、セシリアちゃんじゃないか。相変わらずギルドの下働きでボロボロになってるねえ」
「……ガストン様。私はいま仕事中ですので、話しかけないでいただけますか」
セシリアは冷たい目を商人に向け、毅然とした態度で言い放った。
しかし、商人のガストンは気に留める様子もなく、セシリアとの距離を詰める。
「冷たいねえ。お前の実家、没落したローゼンバーグ家の借金は、今月でさらに利子が膨らんだんだぞ? ギルドでの下働きの給料だけじゃ、一生かかっても利子すら返せない。どうだ? 俺の愛人になるなら、少しは融通してやってもいいんだぞ?」
「お断りします。私は契約に従い、働いてお金を返します。あなたの汚い手下に堕ちるつもりはありません」
セシリアの手が、モップの柄をきつく握りしめている。
「フン、生意気な元令嬢め。まあいい、契約書の期限は近い。返せなければ、お前の身柄はすべて俺の所有物(奴隷)になる契約だからな。せいぜい身を粉にして働くんだな!」
ガストンは下品に笑いながら、用心棒を連れてギルドの奥へと去っていった。
一人残されたセシリアは、悔しそうに俯き、震える手で再び掃除を再開した。
「……ひどい。契約の魔力で、彼女の本当の力がほとんど封じ込められていますわ」
フィリアが小さな声でアキラに囁いた。
アキラは、去っていった商人の背中を見つめながら、静かにデバッグ用の操作パネルを思い浮かべた。




