第011話:温泉のデバッグと、吹き出す源泉
「ここから先は、本当に危険だぞ! 頼むから戻ってくれ!」
源泉へと続く山道の入り口で、ドワーフの自警団たちが必死にアキラを呼び止めていた。
山道の上からは、どろりとした赤黒い霧――見るからに体に悪そうな魔ガスが、ゆっくりと這い出すように流れてきている。
「大丈夫ですよ。ちょっと見てくるだけですから」
アキラはのんきに手を振り、静止を振り切って霧の中へと歩み進めた。
「おい! あいつ、死ぬ気か!?」
自警団たちの悲鳴のような声が背後から聞こえる。
だが、アキラが赤黒い霧の一歩手前に足を踏み入れた瞬間、彼の周囲数十メートルに、半透明の光の結界が自動的に展開された。
【『絶対安全領域』起動】
【有毒ガスの進入を完全ブロックします。領域内の温度・大気を最適化しました】
アキラの周りだけ、まるで高原の澄んだ風が吹いているかのように、空気がさらりと綺麗に入れ替わる。赤黒い毒ガスは、結界の表面で弾かれ、アキラに一切触れることすらできない。
「うん、空調もバッチリ。快適、快適」
アキラは散歩気分で、山道を登っていった。
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山頂の源泉地帯に到着すると、そこは地獄のような光景だった。
巨大な岩の裂け目から、不気味な泡を吹く冷たい泥水が溢れ出し、赤黒い有毒ガスが激しく吹き出している。
アキラがその源泉の岩肌にそっと近づき、手をかざした。
視界のUIが、バグのコアをロックオンする。
【バグ検出:地下魔力脈の詰まりによる魔力変質ガスの噴出】
【事象書き換えを実行しますか? [はい]】
「詰まりを解消して、クリーンアップ、と。――はい、実行」
アキラが頭の中でタップした。
――パァン!
乾いた音が響き、アキラの手元から、まばゆい黄金色の光の柱が天に向かって突き抜けた。
光の波動が山頂全体に広がると、立ち込めていた赤黒い有毒ガスが一瞬にして完全に掻き消え、澄み渡る秋のような青空が広がった。
さらに、ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、岩の裂け目から泥水が引き、代わりに、水晶のように澄んだ、ほんのり硫黄の香りがする美しい乳白色の湯が、勢いよく噴き出した。
湯気は心地よい熱気を帯びて広がり、極上の温泉源泉がここに復活した。
【クリーンアップ完了:魔ガスを完全デリート、源泉温度を最適値(42度)に調整しました】
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「お、おい……ガスが、消えたぞ……?」
「それだけじゃない! 山の上から、心地よい湯煙が降りてきている!」
麓で心配そうに見上げていたドワーフの職人や自警団たちが、一斉に山へと駆け上がってきた。
彼らが見にしたのは、岩肌からこんこんと湧き出る、美しく温かい極上の源泉と、その傍らでのんきに佇むアキラの姿だった。
「温泉が……温泉が戻ってきた! いや、前よりもずっと澄んでいて、素晴らしい湯だ!」
「有毒ガスも完全に消えている! なんてことだ、あのお若いは、たった一人でこの大災害を解決したというのか!?」
ドワーフの長老がアキラの手を強く握り締め、涙を流して感謝した。
「おお、恩人よ! この街を救ってくれたお礼に、何でも望むものを言ってくれ!」
「それじゃあ、一番景色のいい露天風呂を、しばらく貸し切りにさせていただけますか?」
「そんなことで良いのか!? よし、街で一番の絶景露天風呂を、お前さんたちのために今すぐ解放しよう!」
アキラはドワーフたちの歓声を聞きながら、「よし、温泉バカンスの時間だ」と心の中で小さくガッツポーズをした。




