第010話:山岳のドワーフ国家と、冷たい温泉
「うわあ……! アキラ、あそこ、もくもくと煙が出てる」
アキラの服の裾をぎゅっと握りながら、エルナが山の上を指差した。
急な山道を登りきると、目の前に頑丈な石と鉄で作られたドワーフの山岳国家『バルカン』の入り口が見えてきた。岩肌にへばりつくように多くの石造りの家が建ち並び、あちこちから温泉の湯気が立ち上っている……はずだった。
「……なんだか、活気がありませんわね」
隣を歩くフィリアが不思議そうに小首をかしげる。
通常なら、鉱山から採掘された鉄を叩く金槌の音や、観光客で賑わう温泉街の喧騒が聞こえるはずだが、街全体がひっそりと静まり返っていた。
アキラはデバッグマップを開く。
バルカンの山全体、特に街の奥にある源泉地帯が、赤く明滅する深刻なバグ警告で覆われているのが見えた。
【警告:山岳国家バルカン・源泉エリアに深刻なシステムエラーを検出】
【バグ名:『魔力逆流による温泉冷水化・有毒ガス発生』】
【危険度:高(一般の生命体は吸入後5分で戦闘不能)】
「温泉が冷めて、おまけに毒ガスが出てるのか。これは観光地としては壊滅状態だな……」
アキラは苦笑いしながらUIを閉じた。
せっかく温泉を楽しみにここまで来たのだ。なんとしても直さなければ、極上の温泉ライフが味わえない。
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街に入り、ドワーフの衛兵に話を聞くと、事態はアキラのUIの表示通りだった。
「おう、旅の御人か。あいにくだが、今は温泉街は休業中だ。一週間前から、源泉から有毒な魔ガスが噴き出しちまってな。おまけに肝心の湯は冷たい泥水に変わっちまった」
「有毒ガス、ですか」
「ああ、頑丈な俺たちドワーフでも、近づけば一瞬で気絶しちまう。今じゃ源泉のある山の上は完全立ち入り禁止だ。このままじゃ、温泉で成り立ってるこの街は破産しちまうよ……」
ドワーフの衛兵は肩を落とし、ため息をついた。
アキラは宿を求めて街を歩いたが、どこの宿も温泉が使えないため閑古鳥が鳴いている。幸運にも、温泉街で一番大きい『金槌と湯煙亭』という宿に、格安で部屋を借りることができた。
「温泉に入りたかった……」
エルナが部屋のベッドに腰掛け、小さく折りたたんだ白い翼をしょんぼりと垂らしている。
フィリアもまた、「温泉街の美味しい肉料理と地酒を楽しみにしていたのですが……」と残念そうだ。
「よし、それじゃあ、さっそくバグを取りに行こうか」
アキラはポンポンと二人の頭を撫でて、笑顔で言った。
「毒ガスなんて、俺の『絶対安全領域』と『クリーンアップ』があれば一瞬で消せるからね。極上の露天風呂を復活させよう」
「アキラがそう言うなら、絶対、大丈夫」
「はい! アキラ様の奇跡、また見せていただきますわ!」
二人の期待の眼差しを受けながら、アキラは立ち入り禁止の源泉地帯へ向けて出発した。




