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(13)善は急げ


「一馬殿、上田様からのご縁談のお話、その後どうですか?」

 一馬の母、みつは、縁談話が出てからもう一月以上経つのに、一馬からいっこうに返事がないので、業を煮やして訊いた。

「謹んでお受けしとうございます」

 一馬は即答した。

「本当ですか?」

「はい、先日、中井殿のお宅へひそかに赴き、こっそりとみわ殿を拝見してまいりました。あのご婦人ならば申し分ありません」

「そうですか。一馬殿がそう決断されたのであれば万事うまく進みます」

 みつは、一馬がそうやすやすと縁談話を受け入れるとは考えていなかっただけに、一馬がお受けすると言うのを聞いて意外に感じた。一馬は剣術以外のことには晩生(おくて)であり、しかも女人と話すのが苦手で、すぐにあがってしまう。それにみつは、一馬には好きな女人がいるのではないか、と母親の勘で何となく感じていた。もしその場合、一途な一馬のことゆえ、容易に気持ちを切り替えることができないまま、縁談話を断る公算が高いと見ていた。

(何か吹っ切れたような表情をしている)

 みつは、一馬に最近何かあったのであろうと推察したが、あえて詮索(せんさく)するまでもないと思った。

「善は急げです。私はさっそく、上田様にご縁談をお受けすることをお伝えしてまいります」

 みつはそう言って、身支度をしに自室へ行った。

 一馬は、自分の長年の想いを雪へ伝えることができ、しかも幸いなことに、そのことが(おおやけ)にならずに済んだことで、すべて自分にとって都合よく事が運んだ幸運に感謝したい気持ちに満ちていた。

 元はと言えば、一馬が知行合一の言葉の解釈を間違えたことがこういう流れを生み出した。結果的に、怪我の功名であった。

(自分は恵まれている。運が良い)

 これからは、せっかくもらった縁談話を機縁として身を固めて、坂部家のため、はたまた大溝藩のために実直に働こう、と一馬は気持ちを新たにしていた。

「上田様もさぞお喜びになられることでしょう」

 みつはそう言い、喜々として出かけて行った。


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