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お金持ちと力持ち  作者: T20
お金持ちと力持ち {ウィザード王国編}
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13/17

十二話

 春雨《はるさめ》が降り注ぎ、乾《かわ》いた土を濡《ぬ》らす。庭に咲いた花びらが水滴《すいてき》を弾いて輝き、薄暗い雲が空を覆《おお》う中、ゼイアの邸宅《ていたく》では暇《ひま》を持て余《あま》した彼とアスタが庭を眺《なが》めていた。

「なぁ、ゼイア――お主、他に趣味《しゅみ》とかないのか?」

「思い付かん、私はつまらない男なんだ……」

 本来であれば、ゼイアは四六時中《しろくじちゅう》忙《いそが》しい身だ。しかし、シェケダンが睨《にら》みを効かして以降、露骨《ろこつ》に仕事は減った。

 現在、アドレグループの港は、国騎士の介入《かいにゅう》が行われている事だろう。

(大分、腐《くさ》っておるなぁ……このゼイアは見るに耐《た》えん、少し話題を変えてやるか)

「そう言えば、ゼイア。この間、{邸内美人ランキング}が開催《かいさい》されたのだが」

「――え?」

「なんと、我輩は二位だった……しかも、九割が女性票《ひょう》だ! それでな? 試しに男共を問《と》いただしたのだが、{なんかゴツゴツしてそう}とぬかしおったのだ! 許せんだろう!?」

「待て。話を進めるな、アスタ。そもそも何だ? そのランキング」

「ラキヤタが、この手の下世話《げせわ》なノリが好きなのだ」

「アイツが主催《しゅさい》なのか!?」

「ーーで、ここからが本題なのだ、ゼイア。お主、{アスタは柔らかい}と部下へ公言《こうげん》しろ」

「いや、不正だろ。後、他にも色々選択肢《せんたくし》があっただろ」

 ――思い通りに行かないゼイアに、アスタが顔を歪ませていたその時だった。

 書斎の扉が開かれ、ラキヤタが入室して来たのだ。

「ん? ラキヤタ、私に何か用か」

「ええ、ゼイア様に“お友達”が来ています。少し、お話でもどうですか?」

 すると、開けたままの扉からもう一人、続けて別の訪問者が現れる。その訪問者は、驚くゼイアへ無作法《ぶさほう》に歩み寄り、手に持った茶菓子《ちゃがし》を掲《かか》げて喋《しゃべ》り出す。

「ゼイア、茶ぁシバくぞ」

「――ダイクーン!?」

 ラキヤタの言う客人の正体、それはダイクーンのことだった。


「ラキヤタが招《まね》いたのか?」

「ダイクーン様が、お会いしたいと申《もう》しておりましたので。どうせ、今は暇《ひま》でしょう?」

 人数分のティーカップを乗せたワゴンを押しながら、ラキヤタは何の気無しに語る。

「はっはっはっはっ! 良い執事《しつじ》だな、ゼイア」

「私は嬉しいが……ダイクーンは話す暇なんてあるのか?」

「まぁ、流石に“意味なく”ゼイアの所へ来たら、お嬢にサボりって怒られちゃうさ」

「なら、やはり例のテロリスト《ハギラゴン》か?」

「半分当たり、残りはシェケダンの話――いや、正確には“派閥《はばつ》”の話かな」

 ダイクーンが椅子《いす》へ座ると、アスタが机に紅茶と菓子を置く。一応、彼女も使用人だ。

「ゼイアは――今の王政府に、{女王派}と{シェケダン派}がいるって話、知ってる?」

「派閥に加担《かたん》する程、政治には入れ込んではいないが……応援《おうえん》するなら女王派だな」

「へへっ、ありがと。お嬢はさ、初の女性国王だから敵が多いんだよねぇ」

「女王は正統な血筋だ。シェケダン派は、彼女の何が気に食わないんだ」

「時代を変えようとしている所ーーとかじゃないかな?」

「変革《へんかく》か……」

「シェケダン派には古参が多くてさ、上流階級《アッパークラス》の多くが彼の思想《ファクション》へ賛同《さんどう》している。つまり、お嬢の思考は奇抜《きばつ》の部類に入るってコトみたい」

「前例が無いものは、色眼鏡《いろめがね》で見られる――私もこの脚だ、経験はあるさ。なら、そのシェケダン派の主張《しゅちょう》とやらは、一体どういうモノなんだ?」

 ダイクーンは頷《うなず》いて顎《あご》に手を置き、そして、間を置いてからゆっくりと喋《しゃべ》り出した。

「――政権《せいけん》を旧王国時代……所謂《いわゆる》、侵略国家時代《アグレッサーステイト》に戻したいんだ」

「まさか、戦争を望んでいるのか!?」

「奴らは、その時の強いウィザード王国に憧《あこが》れを持っている。表向きは防衛《ぼうえい》による富国強兵《ふこくきょうへい》を公言《こうげん》しているけど、高まった軍事力《ぐんじりょく》の吐《は》き口なんて決まっている」

「他の儲《もう》け方など、幾《いく》らでもあると言うのに……」

「産業発展《さんぎょうはってん》で偉《えら》くなった商人に頭を下げ、今の経済《けいざい》を回す国の姿が嫌いなんだよ」

 ――ゼイアは、シェケダンが商人の台頭を嫌っていた事を思い出した。

「お嬢は今更、侵略して植民地《しょくみんち》を確保《かくほ》する時代なんか望《のぞ》んじゃいない」

「それなら私も、女王に協力したいところだ。でも、今はシェケダンに睨《にら》まれている」

「らしいな……ヤツは、お嬢とゼイアが協力するのを阻止《そし》したいみたいなんだ」

「ん? ーー待て、そうなると私達が会うのはマズイのでは?」

「実の所、俺がここへ来たのはお忍《しの》びだ。シェケダンに見つかったら危ないだろう」

「そんな危険な状況で、ここまで来たのか……」

 ダイクーンは苦笑いを見せ、紅茶を飲み干《ほ》す。アスタやラキヤタも怪訝《けげん》な表情で静聴《せいちょう》している。

「正直、今のウィザード王政府は、シェケダンの手中《しゅちゅう》に傾《かたむ》きつつある――ハギラゴンだって、既に活動拠点《アジト》まで見つけているんだ」

「では、“わざと放置”されているのか!? 相手は、国家転覆《こっかてんぷく》を狙うテロリストだぞ!」

「それでも、シェケダンは経過観察《けいかかんさつ》を理由に、意図的《いとてき》に国騎士の出動を抑《おさ》えている。恐らく、この件を長引かせ、アドレグループの衰退《すいたい》を狙っているのさ」

「国騎士の権限《けんげん》も自在か……確かに、女王派の旗色《はたいろ》は悪そうだ」

「ーーだから、俺はゼイアへ提案《ていあん》する為に来たんだ」

 首を傾《かし》げるゼイアに対し、ダイクーンは口角を上げてからアスタを一瞥《いちべつ》する。

「シェケダンは、共謀疑惑《きょうぼうようぎ》を建前《たてまえ》にゼイアを追い詰《つ》めている――なら、ヤツが介在《かいざい》出来ない、“自前の力”だけで大元《おおもと》を絶《た》っちまえばいいのさ」

「まさか、私達だけでハギラゴンを壊滅《かいめつ》させる気か!?」

「そう言うコト。俺が国騎士を連れて攻勢《こうせい》に出たら、シェケダンは確実に止めて来るだろう。でも、ゼイアが個人でテロリストを潰した場合、奴は止めようが無い」

「な、なんという破茶滅茶《はちゃめちゃ》だ……」

「情報の横流《よこなが》しや、事後処理《じごしょり》ぐらいなら俺でも出来る。だから、実働だけをやって欲しい」

 現状の事態を放置していても状況が好転《こうてん》する事はない、つまりそれは、アドレグループの崩壊を意味する。

 だが、ゼイア達が単独《たんどく》で動けば、状況を打開《だかい》出来るかもしれないのだ。

「ーーゼイア、ヤツらがその気なのだ。そして、お主には我輩がいるぞ」

 黙っていたアスタが喋り出す、きっと、この作戦で直接動くのは彼女になるだろう。しかし、武装するテロリストの壊滅など、到底《とうてい》商人の仕事では無い。

「ゼイア様、アスタは代《か》えの効かない人材です。危険に晒《さら》せば、よりグループの利益《りえき》を侵害《しんがい》する可能性だってあります。それを踏《ふ》まえた上、しっかりお考え下さい」

 ――ラキヤタの言葉に耳を傾《かたむ》け、ゼイアは静かに目を閉じた。

「その通りだ、ラキヤタは賢《かしこ》いな……なら、私が馬鹿を言ってもなんとかなるだろう。よし、我々はハギラゴンを叩《たた》く、この状況を打開するぞ!」

 ゼイアの決定を前に、その場の全員が頷《うなず》く。どうやら皆、その言葉を待っていた様だ。

 ーーかくして、戦う意志《いし》を固めたゼイア達は、その後、ダイクーンからハギラゴンの情報提供を受ける事にした。

 その内容は、活動拠点、武装情報、組織を束《たば》ねる頭目《とうもく》の個人情報など様々で、開示《かいじ》された情報の全てが極秘《ごくひ》である、引き返す事の出来ない一線でもあった。

「取り敢えず、必要そうな情報は伝えた……でも、俺は“ここに来ていない”」

「勿論《もちろん》だ。今の情報は、私が自力で集めた事にする」

「助かる」

 話を終えたダイクーンは、これ以上の不在《ふざい》を怪《あや》しまれない様、慌《あわ》ただしくゼイア邸を後にする。そして、ゼイアは悩んだ上で選択が正しかったと考える事にした……

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