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お金持ちと力持ち  作者: T20
お金持ちと力持ち {ウィザード王国編}
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12/23

十一話

「女王は意外にも気さくな人だったな」

「エドリガムが導(みちび)く時代、楽しみである……ん? そう言えばゼイア、“嫁探(よめさが)し”は?」

「なんだそんなことか、抜(ぬ)かりはないぞ? 正直、七百人はかたいな」

「ゼイアが直球(ちょっきゅう)の嘘(うそ)を!? ーーそもそも、会場に七百人も女性がいなかったであろう」

「帰るぞ、アスタ! 馬車を呼んで来い!」

 ゼイアは頬(ほほ)を膨(ふく)らませ、アスタに帰り支度(したく)の指示を出す。対する彼女は、うすら笑みを浮かべたまま城の馬車駐車場へと向かうのであった……


 ――その頃(ころ)、ウィザード城の外(はず)れにて。そこでは、二人の男が静(しず)かに言葉を交(か)わしていた。

「シェケダン様、予想通りゼイアとエドリガムに接触(せっしょく)がありました」

「ちっ、研究も佳境(かきょう)だと言うのに……これが嫌で、汚職(おしょく)まで見逃したんだけどなぁ」

「まさか、アレだけ準備をしておいて、暗殺に失敗するとは思いませんでしたね。何か現場で、異常事態(イレギュラー)でもあったのでしょうか?」

「結果は結果さ、今日、会場に現れたのは弟ではなく、兄だった。この流れで、今の有利が崩(くず)されたら研究どころじゃない。正直、放置(ほうち)はできないね」

「では、どうしますか? シェケダン様」

「データ集め用に、プロトタイプを売った組織(そしき)がいただろう? アレを使おう」

「なるほど、確かに丁度良(ちょうどい)いですね」

「最終的な繋(つな)がりを作れれば、最初は強引でも何とかなる。適当(てきとう)に圧力を掛け――潰(つぶ)す」

「了解しました。では、そのように舞台(ぶたい)を整(ととの)えます」

「頼むよ。なんせ、この国の行(ゆ)く末(すえ)が掛かっているんだからね……」

 貴族服の怪しい男は足音を立てず、宰相(さいしょう)シェケダンの元から離れて行く。すると、シェケダンは辺りを見渡し、一人パーティ会場へ向けて歩き出した……


 ーー建国記念日パーティから、日が経(た)った。

 朝方の澄(す)み渡(わた)る空気に鳥の囀(さえず)る声が響く、良く手入れされた庭の蕾(つぼみ)達は、次々と開き出して満開(まんかい)を目指す。パーティで交友を得(え)たゼイアは、浮(うわ)つく心を律(りっ)して業務を滞(とどこお)りなくこなし、書斎(しょさい)には部下達が会長の是非(ぜひ)を求め、絶(た)えず訪(たず)ねて来ていた。

「ゼイア様、件(くだん)のプロトタイプですが。ラキヤタ執事長を通じて武器部屋へ納品(のうひん)しました」

「よし、経過報告(けいかほうこく)は続けろ――下っていいぞ、次」

「ゼイア様、農業肥料(のうぎょうひりょう)の劣化原因(れっかげんいん)を突き止めました」

「予想(よそう)通りだったか?」

「はい。運賃(うんちん)を安く済(す)ませる為、陸路(りくろ)ではなく海路(かいろ)を使った模様(もよう)です。ただ、杜撰(ずさん)な管理(かんり)と劣化した船舶(せんぱく)の隙間(すきま)から潮風(しおかぜ)が入り、肥料に塩分が含(ふく)まれた物と思われます」

「それを指示した上層部(じょうそうぶ)に責任(ペナルティ)を与える、リストを用意してくれ。その後、情報を従業員に通達、問題の再発を防止しろ。あと、船舶の改修費用(かいしゅうひよう)も工面(くめん)するようだな」

 部下達へ忙(いそが)しく指示を与えるゼイア。ただ、それも暫(しばら)くするとひと段落が着き、休憩(きゅうけい)の時間がやって来る。

「――茶の時間(ティータイム)か? ゼイア」

「時間ピッタリだな、お前の体内時計はどうなっているんだ……」

 ゼイアの休憩時間を見計(みはか)らうかの如(ごと)く、部屋の扉を開けてアスタが顔を出した。

 すると、驚くゼイアの横で、紅茶セットが乗るワゴンを押すラキヤタが語り出す。

「ーーアスタの時間感覚は、大砲の発射音から着弾までの時間で、距離を割(わ)り出せる程(ほど)に精密(せいみつ)ですよ」

「はー、私からすれば、摩訶不思議(まかふしぎ)な話だ」

 何でも武へ転用(てんよう)出来るアスタに、舌(した)を巻(ま)くゼイア。だが、彼女も不思議そうな顔をしていた。

「我輩からすれば、会長が現場へ指示を出す方が不思議である。混乱(こんらん)しないのか?」

「上が現場を知り、責任(せきにん)持って判断(はんだん)を下(くだ)す。それだけで、組織の足並み(ユニフィケーション)は著(いちじる)しく変わるんだ」

「まぁ、ゼイア様は新任(しんにん)ですし、古参重役(ベテラン)から信頼(しんらい)を得る意味でも重要です――それに、ゼイア様が顔を出すことで、“良からぬ考え”を持つ者も未然(みぜん)に防げますからねぇ」

「なるほど、信頼を作る為の仕事であるか」

 ラキヤタの用意した茶が振る舞われると、気張(きば)っていたゼイアの表情が緩(ゆる)む。茶を嗜(たしな)み、雑談に華(はな)を咲かせるこの時間は、毎日忙しい彼にとって大きな楽しみなのだ。


 ――しかし、その和(なご)やかな空気は、いきなり部屋の扉を開けて入り込んで来た女中(メイド)によって壊された。本来であれば入室前のノックは基本、一流(プロ)であるゼイア邸の女中がそんなミスをすることはない。つまり、それだけ今の状況が緊急(きんきゅう)である証拠(しょうこ)でもあった。

「大変です、ゼイア様!!」

「どうしたんだ、落ち着いて説明をしてくれ」

「国騎士隊がゼイア様に面会を要求(ようきゅう)し、屋敷前で隊列を組んでいます。急ぎ対応を!」

「国騎士だと!? わかった、通してくれ」

 前触(まえぶ)れもなく来訪(らいほう)して来た国騎士隊、当然、ゼイアにその理由が想像出来る筈もなかった。

 ――それから少し間(ま)を置き、緊張が走る書斎内に、扉のノック音が響いた。

 ゼイアが入室を許可(きょか)すると、制服に身を包(つつ)んだ者達が扉を開け、瞬(またた)く間に部屋内で整列(せいれつ)する。

「やあやあ、仰々(ぎょうぎょう)しくてすまないね、ゼイア君」

 並んだ兵士達を掻(か)き分け、ゼイアがいつか見た勲章(くんしょう)を胸に付ける優男(やさおとこ)が登場する。

「取り合って頂(いただ)き感謝する。ウィザード王国第一宰相、シェケダン・ジュン・エルキドゥだ」

「シェケダン宰相!? 何故、アナタがここに!」

「――“国の一大事”だからだよ、ゼイア君」

 ゼイアの元に現れたのは宰相シェケダンだった。勿論、ゼイアに面識(めんしき)は無い。

「いやぁ、流石に国内最大手グループ(メガコーポレーション)の会長だ、屋敷が城みたいだよ。一人で来ると不審者(ふしんしゃ)だからさ、国騎士を連れてみたんだけど、逆に騒(さわ)がしくしてしまった様だね?」

「おかげで、私は身に憶(おぼ)えの無い罪で怯(おび)えてしまった」

「“それはどうかな”? ゼイア君は、僕が来た理由に憶えがあるんじゃないかい?」

「何の話だろうか……どうやら、茶菓子(ちゃがし)をつまみに来ただけではない様だが」

「そういうこと――さぁ、ここからは真剣な話だ、国騎士の皆は席を外してくれ」

 指示を受け、兵士達が部屋から退出(たいしゅつ)する。そして、その間にシェケダンは椅子へ座った。

「失礼……さて、先(ま)ずは本題から話そうか、ゼイア君」

「そうしてくれ、どうも気分が落ち着かない」

「じゃあ、結論(けつろん)から言おう。ゼイア君は現在、{テロリスト共謀容疑(きょうぼうようぎ)}がかかっている」

「それはまたーー随分(ずいぶん)と質問が絶えない内容だな」

 シェケダンの発言に余裕(よゆう)を持って答えるゼイア。しかし、その心中は察(さっ)して余(あま)りある。

「最近、{ハギラゴン}と呼ばれる武装組織が、我々ウィザード王政府を騒(ざわ)つかせている。当然、国民の混乱(こんらん)を避(さ)ける為、存在は伏(ふ)せられているんだけどね」

「初耳だな、何者だ?」

「数百年以上前、ウィザード王国との戦争で敗北、統合吸収(とうごうきゅうしゅう)された小国の生き残りさ」

「侵略国家時代(アグレッサーステイト)にウィザード王国が遺(のこ)した因縁(いんねん)か」

「でも、困(こま)ったことに彼らは、現王政へ独立(どくりつ)を認(みと)め、王国との分離(ぶんり)を要求して来た」

「――では、何故テロリストなんだ?」

「要求を飲まない場合、武力行使の声明(ユーズオブフォース)を出した。国防を担(にな)う僕としては、許せないね」

 武装組織ハギラゴン。当然、ゼイアにとっては初めて聞く名前だ。しかし、シェケダン側にその言い分(わけ)を信じる気は毛頭(もうとう)ないだろう。

「――で、それと私がどう関係ある?」

「つい先日、僕らがハギラゴンを調べていたら、彼らが海路を使って人員を蓄(たくわ)えている事が分かった。それで、港(みなと)を調べたらキミの傘下に、構成員の密入国を手引(てびき)きした証拠が出た」

「だから、私がテロリストに加担(かたん)していると?」

「ハギラゴンは、アドレグループの船と港を使った。勿論、キミが我々を邪険(じゃけん)にしたい気持ちは分かる。でも、全ての可能性を疑(うたが)うのが仕事だからね? 多少は許してくれよ」

「馬鹿高い税金を真(ま)っ当(とう)に納(おさ)め、国から知りもしない疑いを掛けられたらそうなる」

 ゼイアの表情は依然(いぜん)として変わらないが、言葉選びには怒気(どき)を孕(はら)む。しかし、シェケダンは常に飄々(ひょうひょう)としており、寧(むし)ろそれを待っていた様にも見えた。

「まだ、話があるんだーー実は、ハギラゴンに“支援者(パトロン)”の存在が確認されていてね」

「テロリストに支援者だと?」

「彼ら、潤沢(じゅんたく)な資金を持っている。でも、それが出来る人物って、あまり居ないよね」

「つまり、私がその支援者だと……」

 シェケダンは答える代わりに肩をすくめ、うすら笑みを浮かべる。

「キミ達商人は、王政府を嫌う兆候(ちょうこう)にある。だから、都合良かったりするでしょ?」

「どうやら、アナタは嫌味(いやみ)を隠さずに言う人物の様だな」

「嫌味は、相手に聞かせなきゃ意味がないからね」

「貴方の使う血税(けつぜい)が何処(どこ)から出ているのか……今一度、考えてみると良い」

「その点は感謝する、ちゃんと僕達も働きで還元(かんげん)する――ただ、商人が時代を台頭(たいとう)するのは、我々と考えが真逆だ。キミ達に政治力(ちから)は要(い)らないと思うんだ、僕はね?」

 ゼイアの眉間(みけん)にシワが生まれる。シェケダンも、笑顔だが同じシワが眉間にあった。

「釘(くぎ)を刺(さ)す為に来たか……シェケダン・ジュン・エルキドゥ」

「我々を引(ひ)っ掻(か)き回さない方が良い、ゼイア君。金で解決出来ない世界は厳(きび)しいぞ?」

「そうか、忠告痛(ちゅうこくいた)み入(い)る。では、お帰り願おう」

「ああ、もう要は済んだ。次に会う時、キミの姿を牢屋(ろうや)で見ない様、切(せつ)に願(ねが)うよ」

 空気が凍(こお)り付(つ)く中、シェケダンは兵士を連れて部屋を後にした。


「――凄(すご)いな、あそこまで嫌味ったらしい奴も珍(めずら)しいぞ、ゼイア」

「シェケダンは商人を毛嫌(けぎら)いしている、特に、力を持つ富豪なら顕著(けんちょ)だ……くそっ! 連中の不甲斐無(ふがいな)さが、金持ちの台頭を許すんだろうが!」

 毒吐くゼイアをアスタが珍しそうに見つめる一方、ラキヤタは心配そうにしていた。

「困ったことになりましたねぇ……シェケダン様がテロリストの疑いを掛けた以上、最悪の場合、アドレグループの利権(りけん)を奪(うば)ってくるかもしれません」

「奴は態々(わざわざ)、ゼイアに宣戦布告(せんせんふこく)をして来たのだ、仕掛けて来ると思っていいだろう。商人としての風評(ふうひょう)を下(さ)げ、ゼイアを政治中枢(せいじちゅうすう)へ立ち入(い)らせない方針(ほうしん)であるな」

「何が、商人に都合が良い――だ、都合良く使っているのは、シェケダン本人だぞ」

 この件で、アドレグループの貿易(ぼうえき)は厳しくなり、公益(こうえき)に支障(ししょう)が出るのは確定だろう。ゼイアが、今後の先行きに大きな不安を憶(おぼ)えるのも無理はない。

 消沈(しょうちん)するゼイアは車椅子を自力で押し進め、うだつの上がらない日々が始まった……

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