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お金持ちと力持ち  作者: T20
お金持ちと力持ち {ウィザード王国編}
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14/26

十三話

 ――作戦立案《さくせんりつあん》から数日が過ぎた、ある日の某所《ぼうしょ》。

 辺りには夜の帳《とばり》が下り、暗闇からは冷たい風が吹く、人々は眠りに着いて外には誰も出歩かない。そんな時間帯のとある一室にて、ゼイアとアスタの姿がそこにあった。

「アスタ、首尾はどうだ?」

「問題無い、完璧《かんぺき》である」

 仕事着に身を包むアスタが、机に広げられた建物の内部地図を眺《なが》める。

「ハギラゴンの拠点《アジト》は、表向き製鉄所《せいてつじょ》として稼働《かどう》している。人の出入りや、荷物《にもつ》の運搬《うんぱん》が怪しまれない為の措置《そち》だな。住宅地《じゅうたくち》から離れているのも大きいだろう」

「――つまり、我輩が暴れても町の住民は気付かない訳だな」

「どう攻めるかはアスタに一任《いちにん》する。ただ、相手は血の気《け》の多い連中だ」

「我輩の単独なら、相手が何をしようと変わらん。ヤツらの頭目《とうもく》を捕まえるだけだ」

「頼もしい限りだな。よし、最後に作戦の再確認(ブリーフィング)をしておこう」

 ゼイアは、地図の上に置かれた木製駒《もくせいこま》を使い、アスタに今作戦の流れを再確認させる。

「アスタは拠点に侵入後、騒ぎを起こしつつハギラゴンのリーダーを捕縛《ほばく》してくれ」

「確か、名前は{ゴマント}だったな」

「そうだ。そして、私が折《おり》を見てダイクーンを現場に呼ぶ」

「で――我輩は、ダイクーンに捕縛したゴマントを渡《わた》し、消える」

「その後の処理は、全てダイクーンがなんとかするそうだ」

「シェケダンの目は大丈夫なのか?」

「問題ない、今件《こんけん》は全てが“偶然《ぐうぜん》”だからな」

 ゼイア達が立てた言い訳《カバーストーリー》は以下の通りだーー

 ハギラゴンの内輪揉《うちわも》めが発端《ほったん》となり、アジト内で騒ぎが発生。それにより、民間の通報《つうほう》が国騎士へ届き、付近《ふきん》を夜間パトロール中だったダイクーン隊が現場へ呼ばれる。そして、駆《か》け付けたダイクーンが運良く彼らを発見し、事件を未然《みぜん》に防《ふせ》ぐ、という流れだ。

「シェケダンも、テロリストが勝手に瓦解《がかい》した手前、いくら怪《あや》しくても文句《もんく》が言えない」

「なるほど……それに文句を言えば、テロリストの擁護《ようご》で自分が国家反逆罪《悪者》になりかねんからな。気付いたシェケダンは、さぞかし悔《くや》しがるであろう。顔が拝《おが》めんのが残念だ」

「そこは、ダイクーンの土産話《みやげばなし》に期待しよう――では、成功を祈《いの》るぞ、アスタ」

 すると、アスタはゼイアに景気良《けいきよ》く拳《こぶし》を見せ、任《まか》せろと言わんばかりに堂々《どうどう》と部屋を後にする。ゼイアは、そんな彼女の背《せ》を期待《きたい》して見送るのであった……


 ――暫《しばら》くして、ハギラゴンの拠点前。

 そこでは、暗闇《くらやみ》に身を隠《かく》して施設《アジト》の外観《がいかん》を見張《みは》るアスタの姿があった。

(この時間に従業員《スタッフ》……いや、隠しているが、武装をしているな。巡回《ガード》か)

 建物の見た目は製鉄所だが、実際はテロリストの拠点として改造が施《ほどこ》されている。窓やドアなどの侵入経路《しんにゅうけいろ》は最小限《さいしょうげん》に抑《おさ》えられ、見張りが必ず目を光らせている。

 まともに考えて、侵入しようとする方が無茶である、“常人ならば”。

(ーー先ずは、ゴマントを探さねばな)

 アスタは、身を隠していた物陰から飛び出し、敵拠点の敷地内《しきちない》へ平然《へいぜん》と侵入する。だが、その際に発する物音は無く、誰も知らぬ間に侵入者《アスタ》が現れたという事実だけが残る。

(む? 巡回が会話をしている……一応、“見て”行くか)

 拠点に侵入したアスタは、内部を移動する道中、暇《ひま》を持て余《あま》して会話をする構成員達を見つける。

 どうやら、監視窓《かんしまど》の付近で僅《わず》かな灯《あか》りを前に、酒で暖《だん》を得《え》ている様だ。

「――そうだ、この間の話。あれ、覚えているか?」

「えーと、支援者《パトロン》の事か?」

「それそれ。結局、アレが誰なのか、まだ分からないらしいぞ」

「マジかよ、逆に怖くねぇか? 知らない誰かから、金や武器の提供《ていきょう》を受けるってよ」

「でも、おかげで俺達の戦力は膨《ふく》れ上がった。独立の夢(レボリューション)も、現実を帯《お》びて来たってモンさ」

「っても、支援者が同じ志《こころざし》を持つ仲間なら、同志《どうし》ゴマントに顔ぐらい見せたら良い」

「うーむ、ハギラゴンの運営を同志ゴマント(リーダー)に任せ過ぎか? 少し、気をつけるべきだな」

 構成員達はその後も会話を続けるが、まさか、自分達の頭上の梁《はり》にアスタが蜘蛛《くも》の如《ごと》く張り付き、密《ひそ》かに話を読唇術《どくしんじゅつ》で盗み見ていた(聞いていた)とは知らなかっただろう。

(ーーふむ、パトロンはシェケダンの嘘《うそ》ではなく、実際《じっさい》に存在しているのか。しかし、その正体はリーダー《ゴマント》ですら知らない……いよいよ、きな臭いな)

 用が済んだアスタは、指圧《しあつ》でへばり付いていた天井から音も無く降《お》り立ち、軽く握《にぎ》った拳で二人の顎《あご》を掠《かす》めた。

 すると、二人は顎から脳へ衝撃《インパクト》を伝達《でんたつ》させ、意識を失ってしまう。その後アスタは、気絶した二人を物陰へ隠し、拠点の奥へと歩《あゆ》みを進める。通りすがりに見つけた構成員は気絶させつつ、頭目ゴマント《リーダー》を探して拠点内を巡《めぐ》っているのだ。

(ん? ここは……)

 気になった一室《いっしつ》の前で、アスタの歩みが止まる――

 部屋の扉を僅《わず》かに開き、隙間《すきま》から室内を覗《のぞ》くと、多人数が一度に入れる広間に、地図など書類が置かれた机、そして、ハギラゴンのシンボルを刺繍《ししゅう》した大旗《おおはた》が飾《かざ》られていた。

(誰かいる……あれが、ゴマントか?)

 彼女の目に、書類と睨《にら》み合っている人物が見える。軍服の様な衣服と頭へ巻いたバンダナ、胸にはシンボルが刺繍されたワッペンを付けている初老の男性だ。

「おい、貴様がゴマントだな?」

「――何!? 誰だ、お前!!」

 部屋内の見知らぬ人物に驚くゴマント。それもその筈、侵入者《アスタ》が堂々と現れたのだから。

「我輩は、貴様を捕らえに来た者だ。覚悟せよ、ゴマント」

「な、国騎士か!? ええい、誰か知らんが単独とは愚《おろ》かな……死ねぃ!!」

 侵入者を前にしたゴマントは、ガンホルダーから拳銃を取り出して即座《そくざ》に発砲《はっぽう》する。

 銃身から溢れる炎(マズルフラッシュ)に押され、飛び出た鉛玉《なまりだま》がアスタへ直撃する。しかし、ただの弾丸が彼女の仕事服を貫《つらぬ》く事は出来ない、弾は動きを止め、重力に従《したが》い地面へ落ちた。

「防弾服《ブレットプルーフ》!? チィッ!」

 ゴマントは、打ち切った拳銃をアスタへ投げ付け、背後にあった組織の大旗(ハギラゴン)を壁から引き剥《は》がす。そして、奇怪《きかい》な構《かま》えを取って見せる。

「誰かも分からん相手に、俺のこの技を見せる日が来るとはな」

「ほう、{暴布拳《クロス・コンバット》}か、珍《めずら》しい武術を使う」

「知っているのか!? 何者だ……しかし、知っていた所で見極《みきわ》められるか!」

 ――ゴマントは大旗を振り回し、素早くアスタへ投げ付ける。

 操《あやつ》られた布は瞬《またた》く間にアスタへ巻き付き身動きを奪《うば》う、そして、ゴマントは短刀《ダガー》を取り出し追撃《ついげき》せんと接近する。

 暴布拳とは、大布を自在に操る古武術の一つなのだ。

「防弾服を着込もうと、身動きがとれねば誰とて関係あるまい! これぞ、奥義縛布列伝(ぼうふうれつでん)!」

「技が“甘いな”、ゴマント」

 それは、ゴマントが勝利を確信《かくしん》した次の瞬間の事だった――

 アスタがその場で素早《すばや》く横回転《スピン》すると、忽《たちま》ち、纏《まと》わりついていた大旗の拘束《こうそく》が解《と》かれ、宙《ちゅう》に舞《ま》った旗の先端《せんたん》が彼女の手中《しゅちゅう》に収《おさ》まる。

 更にアスタは、旗を握った手首を回転させ、捩《ねじ》り鉢巻《はちま》き状へ変形、すかさず接近するゴマントへ鞭《むち》の如くしならせた旗を叩き付ける。

 ーー顔面に布の塊《かたまり》を食らったゴマントは怯《ひる》み、その間にアスタは巻《ま》いた旗を元《もと》の平《ひら》たい形へ戻す。そして、今度は凱旋《がいせん》パレードをする歩兵の様に、布を大きく振り回し始めた。

「暴布拳奥義、縛布節固(ばくふせっこ)!!」

「――ぼ、暴布拳だと!? 貴様は一体、何者なんだ!?」

 アスタは旗を操り、ゴマントの手脚《てあし》を絡《から》み取る。その布は宛《さなが》ら蛇の如し、操るアスタは舞《まい》を踊るかの様だ。

 そして、複雑《ふくざつ》に絡み合った布はゴマントの関節《かんせつ》を固め、瞬《またた》く間に自由を奪った。

「ぐあーっ! 誰か知らん奴に、この技を使って私が負けるなんてーっ!?」

「昨今《さっこん》、暴布拳を知る者などおらんからな、初見《しょけん》相手なら貴様でも十分に勝てただろう。しかし、技を知る相手には、ちゃんと捻《ひね》りが必要な技でもあるのだ」

「く、くそ! だ、誰かーっ! 誰か来い!」

(……さて、ゴマントは捕まえた。後は、暴れてダイクーンを呼び出すだけだーー丁度良《ちょうどい》い、ゴマントに構成員を集めさせて派手《はで》に蹴散《けち》らすか)

 アスタは叫《さけ》ぶゴマントをあえて放置《ほうち》し、騒《さわ》ぎで集まる構成員を待ち構える。

「なっ! 同志ゴマント!?」

 駆《か》け付けた構成員が現場を見て驚く――

 しかし、彼らは思考《しこう》を切り替え、すぐに長銃を構えてアスタへの応戦《おうせん》を試《こころ》みる。

「バカな、銃が効かない!? ぐわぁああ!!」

 当然、彼女がその程度《ていど》の連中に遅れを取る筈《はず》も無い、構成員達はすぐに倒され、拠点内は侵入者による阿鼻叫喚《あびきょうかん》となっていく。

(これだけ騒げば、ゼイアもダイクーンに通報《つうほう》を出しているだろう)

 目的を達成した今、アスタが現場に居る必要は無い、今すぐ脱出するべきだろう。


「うわぁああっ! な、なんで{コイツ}が!?」

 ――しかし、事はそんな時に起きた。

 “アスタが原因では無い”構成員の叫び声、不穏《ふおん》を感じた彼女は即座に身構える。

「ヴァアアアアアア!!」

「咆哮《ほうこう》? ちっ、獣《けもの》でも放ったか!」

「ま、まさかっ! 誰か“アレ”を解き放ったのか!?」

 ゴマントが咆哮の正体に気付き、狼狽《うろた》える。

 そして数秒後、断末魔《だんまつま》と共に構成員の死体が部屋へ投げ入れられ、その後を追う様に頭からボロ切れを纏い、荒縄《あらなわ》で身体を縛った歪《いびつ》な骨格《こっかく》の巨躯《きょく》が現れた。

「なんだ……コイツは……」

「ちくしょう! お前が暴れるから、誰かが解《と》き放ったんだ!」

「説明しろ、ゴマント! コイツは一体、何だ!?」

「くっ! 送って来た武器商人は、{キメラ兵士}とだけ……」

「ーーキメラ兵士」

 聞いた事も無い名前、アスタは、こめかみに小さな汗粒《あせつぶ》を垂《た》らす。ゴマントがキメラ兵士と呼ぶソレは、明らかに様子がおかしく、人間とも呼べるか微妙《びみょう》な存在だ。

 そして、戦いは突然始まった――

 キメラ兵士は叫び、アスタ目掛けて飛び掛かって来たのだ。対するアスタは、咄嗟《とっさ》に腕を盾《たて》として身を守る。だが、相手は構わずにその上から殴り付けて来る。

「ぐうっ!? こ、この膂力《りょりょく》は!」

 防御《ガード》越しにキメラ兵士から殴られたアスタは、身体を数十センチほど浮き上がらせて足を引《ひ》き摺《ず》る。鍛《きた》えた技術と類稀《けう》なる恵体《えたい》を持つ女傑《にょけつ》、それが身構えたにも関《かか》わらず、相手は片腕だけで動かしたのだ。

「久《ひさ》しく忘れていた衝撃だ……戦車《チャリオット》から鉄球《フレイル》をぶつけられた時を思い出す」

 ――しかし、次にキメラ兵士が取った行動は、アスタを無視してゴマントへ向かって走り出す事だった。

「コイツ、まさか!!」

 勿論《もちろん》、アスタはキメラ兵士の狙《ねら》いを理解し、素早く動き出す。

 彼女は鋭角《えいかく》な蹴《け》り技を放ち、先程《さきほど》の仕返《しかえ》しとばかりに相手を吹き飛ばす。

「おい、ゴマント――コイツはハギラゴンの構成員か?」

「そ、それを聞いてどうする!?」

「我輩は、無駄《むだ》な死体を出すつもりは無い。しかし、コイツは危険だ、目的も口封《くちふう》じと来た」

「えっ、口封じ?」

「コイツが言葉を理解《りかい》しているのか分からんが、貴様《みかた》を排除《はいじょ》しようとした。つまり、コイツを兵器として売った奴は、最初からハギラゴンの“自滅《じめつ》”を想定《そうてい》しているのだろう」

「なんだと!?」

「力《ちから》に目が眩《くら》んだな、ゴマント。コイツはとんだ不良品である、貴様らの言う支援者とやらは、初めから関係者全員の共倒れ(アナイアレイション)を狙っておるのだ」

「馬鹿な……我々は、道化《どうけ》だっただと?」

「バァアアアアア!!」

「ちっ、もうお目覚《めざ》めか。常人なら、即死《そくし》してもおかしくない蹴りだぞ」

 アスタの蹴りを食らって、なお立ち上がるキメラ兵士。最早、人外《フリーク》として扱《あつか》って良い。

 ーーすると、キメラ兵士は自《みずか》らの頭に被さったボロ切れを剥《は》いで姿《すがた》を顕《あらわ》にする。

 それは、人間とは思えぬ体毛や筋肉、牙や膨《ふく》れ上がる血管を剥《む》き出す怪物の姿であった。

「人の面影……“元々”は人間であったか」

 キメラ兵士はアスタへ直進し、間合いに入った途端《とたん》に腕を振り回し始める。戦闘技術《テクニック》は皆無《かいむ》の様だが、とにかく凄《すさ》まじい膂力と付随《ふずい》する身体能力《フィジカル》が危険な生物だ。

 対するアスタは、非凡《ひぼん》な反射神経《はんしゃしんけい》でキメラ兵士の攻撃を次々と避《よ》ける。

「貴様はただの馬鹿力、我輩は技巧《ぎこう》を使える……人類には培《つちか》った技術があるのだ」

 アスタの両脚は、その巨体からは想像も付かない軽快《けいかい》なステップを踏《ふ》んでいる。身体を立体的《りったいてき》に動かし、紙一重《かみひとえ》の回避《かいひ》を繰り返しているのだ。

「耐久《タフネス》も、力《パワー》も、確かに人外。されど、体力《スタミナ》は予想より低い様であるな?」

 ――刹那《せつな》、回避ばかりしていたアスタが攻勢へ出る。

 威力《いりょく》は程々《ほどほど》、しかし素早い殴打(ジャブ)の連続《ラッシュ》、それが、疲れて鈍《にぶ》るキメラ兵士の顔や腹部を叩く。その猛攻《もうこう》には、流石のキメラ兵士とは言え、鈍い音を奏《かな》でつつ後退を始める。

 そして、蓄積《ちくせき》したダメージで大きく怯《ひる》んだ隙《すき》を、アスタは見逃さなかった。

「お主を変えた者には、必ず我輩が制裁《せいさい》を加《くわ》えてやる。だからもう……眠れ」

 アスタはその場で飛び上がり、キメラ兵士の頭上を取りつつ相手の顔面を両手で押さえる。そして、空中で身体を捻《ひね》り、キメラ兵士の首を回転させてへし折った。

「仕方《しかた》がないとは言え、あまり気持ちのいいものではないな」

「あ、あのキメラ兵士を素手で倒したとは……」

「――ん? な、何だと!?」

 敵を仕留《しと》めた筈のアスタが驚く、何故なら、首を折ったキメラ兵士が立っていたからだ。

「ぐ、ぐがが……」

「ど、どれ程の改造を受ければ、こんなデタラメな生命力《せいめいりょく》を!」

 ゴマントとアスタは、死なないキメラ兵士を前に血の気《け》が引き始める。

 ――すると突如《とつじょ》、扉を蹴破《けやぶ》って見覚えのある大男が部屋に入って来る。

 そして、その男は有無《うむ》を言わせず、手に持った大口径の長銃を構えて引き金を引いた。銃は火を噴《ふ》き、飛び出した鉛玉はキメラ兵士の眉間《みけん》に命中、頭蓋《ずがい》を粉砕《ふんさい》して殺害した。

「大丈夫か、アスタ!」

「ダイクーン!? そうか、だいぶ時間が経っていたのか」

「取り敢えず、お前は逃げろ! ゴマントと他の構成員は俺達で確保する!」

「すまん、後は頼んだぞ!」

 駆け付けたダイクーンは後のことを引き受け、作戦通りにアスタを脱出させるつもりの様だ。それにはアスタも同意《どうい》し、すぐに拠点内からの脱出を図《はか》ることにした……


 ――それから暫くして、夜の街を走るとある馬車の中では、急いで帰還《きかん》するアスタとゼイアの姿があった。

「では、悶着《もんちゃく》はあったが、作戦は成功したと言う事か?」

「である」

「それは良かった……しかし、キメラ兵士とはな……」

「何か心当たりがあるのか? ゼイア」

「“キメラ”、と言う言葉には憶えがある。私が産まれる前の事件だが、“同名の怪物”がウィザード内に現れた。山羊《やぎ》と獅子《しし》の頭を持ち、尾《お》が蛇《へび》で、翼《つばさ》の生えた巨大な化け物だったと言う」

「なんだ、そのゴチャ混《ま》ぜになった生物は……」

「未知の外来生物だと言われているが、倒された屍骸《しがい》は燃やされ、結局謎に包まれた」

「人知《じんち》を超《こ》えた出自が不明の生物とは、穏《おだ》やかではないな」

「その事も含《ふく》め、事後処理が終わったダイクーンから話を聞こう。この件は根が深い」

「うむ。心配だが、一先ずは帰るとするか」

 アスタとゼイアは一抹《いちまつ》の不安を覚える。そして、夜の暗闇に差《さ》し込む月明かりの下、颯爽《さっそう》と馬車を走らせて帰路へ着くのであった……


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